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『事故物件』大ヒットスタート! いよいよ日本でも90年代以来のホラーブーム到来か?

リアルサウンド

20/9/2(水) 20:00

 先週末の動員ランキングは、『事故物件 恐い間取り』が土日2日間で動員26万3000人、興収3億5800万円をあげて初登場1位となった。オープニング3日間の累計は動員34万3000人、興収4億6500万円。前週初登場1位だった『糸』の初週の週末興収と比較しても、『事故物件』の成績は153%という目を見張るもの。観客層が比較的リスクの低い(が故にリスク意識も低い)10代、20代が中心の作品とはいえ、新型コロナウイルスの影響がまだ完全に払拭できない時期にあって、これは快挙と言っていいだろう。

 今年に入ってから、『犬鳴村』、『ミッドサマー』と日米ホラー作品が異例のロングヒットとなったことについては以前の本コラム(参考:日本のホラー映画興行に異変? 『犬鳴村』と『ミッドサマー』、日米異世界ホラーが同時ヒット)でも取り上げたが、今回の『事故物件』の大ヒットは引き続きホラーのジャンルとしての引きの強さを証明した。『IT』や『ゲット・アウト』やNetflix『ストレンジャー・シングス』の大ヒットによって新たな観客層を開拓したことで、今やホラーがすっかりメインストリームの人気ジャンルとなっているアメリカから数年遅れて、いよいよ日本でも何度目かの本格的なホラーブームが到来したのかもしれない。

 というのも、同じ松竹配給、同じジャニーズ事務所所属のタレント(今や滝沢秀明副社長ですが)が主演、そしてホラー映画としては間口の広いライトなテイストが特徴のブラジリィー・アン・山田が脚本に参加した作品として、前作的な位置付けが可能な2017年公開の『こどもつかい』の時とは、世間的な盛り上がりも違って、それは約2.5倍の初週成績というかたちで数字でもはっきりと表れているからだ。本作に主演した亀梨和也の集客力を見くびるわけではないし、映画出演作としては前作となる『美しい星』に続いて、今回も役柄通りどこからどう見ても「売れない芸人」にしか見えないという素晴らしい演技をみせているが、本作の成功は企画の勝利であり、さらに言うなら2020年の日本においてホラーというジャンルに追い風が吹いていることを示している。

 さて、こうなると期待してしまうのは、1998年の『リング』で火がついて、2003年の『呪怨2』あたりまで続いたJホラーブームの再来である。ホラー映画は、少ない製作費、そして芸能プロダクションが売り出し中の新人の受け皿という点においても、近年勢いのなくなったティーンムービーの代わりとなる条件は十分だ。東映の『犬鳴村』は早くも「実録!恐怖の村シリーズ」としてシリーズ化されることが発表されているが、『リング2』(と『死国』の併映)で1999年当時配給収入21億円(興行収入換算で約40億円)という実績のある最大手の東宝も、近年の盛り上がりに触発されて参入してくる可能性もあるかもしれない。

 しかし、ホラー映画好きとして懸念していることもある。近年、多くの才気走った若い映画作家を輩出してきた海外のホラー映画界と比べて、今のところ日本では作り手の世代交代があまり見られないのだ。『犬鳴村』の監督は『呪怨』シリーズの清水崇。『事故物件』の監督は『リング』シリーズの中田秀夫。今年の夏に話題となったNetflix『呪怨:呪いの家』における三宅唱監督の起用は慧眼ではあったが、三宅唱は継続的にホラー作品を手がけるタイプの映画作家だとは思えないし、同作は1998年版『リング』の脚本を手がけ、2003年版『呪怨』の監修を務めた、高橋洋脚本の色が非常に濃い作品でもあった。おそらく今後しばらく、海外のホラー映画の集客状況は日本国内でも好転していくはずだが、日本映画界がかつてのJホラーブーム期のような活況となるためには、ジャンルを背負う気概を持った若い世代の映画作家の登場が不可欠だろう。

■宇野維正
映画・音楽ジャーナリスト。「装苑」「GLOW」「キネマ旬報」「メルカリマガジン」などで批評やコラムを連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮社)、『くるりのこと』(新潮社)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(ソル・メディア)。最新刊『2010s』(新潮社)発売中。Twitter

■公開情報
『事故物件 恐い間取り』
全国公開中
出演:亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、江口のりこ、木下ほうか、MEGUMI、真魚、瀧川英次、加藤諒、坂口涼太郎、中田クルミ、団長安田、クロちゃん、バービー、宇野祥平、高田純次、小手伸也、有野晋哉、濱口優
原作:松原タニシ『事故物件怪談 恐い間取り』(二見書房刊)
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
音楽:fox capture plan
企画・配給:松竹
制作プロダクション:松竹撮影所
(c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
公式サイト:movies.shochiku.co.jp/jikobukken-movie
公式Twitter:@jikobukken2020

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