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『HiGH&LOW』は「もっとEXILEになれる」場所!? 山田裕貴、志尊淳、川村壱馬らの情熱と工夫

リアルサウンド

19/10/12(土) 8:00

 日本のどこかにあるSWORD地区(なぜSWORD地区と言うかを説明すると大変なので割愛)。このSWORD地区に存在する“漆黒の凶悪高校”こと鬼邪高校(おやこうこう)! そしてSWORD地区から電車移動可能な位置の戸亜留市(とあるし)にある“殺しの軍団”こと鳳仙学園! この2つの学校が色々あった末に正面対決! グレーゾーンはここにはない! ぶつかり合うSWAG & PRIDE!

参考:『HiGH&LOW THE WORST』久保茂昭監督が語る制作の裏側 「普通の映画とはちょっと違う」

 あえて細かい筋は語らないでおこう。「今まで『ハイロー』にも『クローズ』にも触れてないので……」という方も多いだろうが、気にしなくて大丈夫だ。正直、私も全てを把握はできていないが、この映画は大いに楽しめた。本作『HiGH&LOW THE WORST』(2019年)は、カッコいい男たちがカッコいいアクションを繰り広げる1本だ。こんなアクション映画は世界中のどこに行っても存在しないし、クライマックスなんてヤンキー映画の領域を超えている。『ザ・レイド』(2011年)に対するコペルニクス的転回でのアンサーだといえるだろう。百聞は一見に如かず。アクションの魅力については、私がどれだけ書いても伝わらないだろうから、とにかく観ていただくのが一番である。ありがたいことにアクション用の予告編まであるので、そちらを観ていただきたい。そんなわけで、ここからは私が今まで『HiGH&LOW』シリーズを追いかけて来た身として、本作を観て『HiGH&LOW』の何が好きなのかについて気がついた話をしたい。

 「もっとEXILEになった方がいい」……本作を観終わったあと、この言葉が浮かんだ。これは『HiGH&LOW』、ひいてはEXILEのメンバーが所属する事務所LDHと、LDHを築き上げたHIROさんという人物の根本にある思想だ。ちょっと意味が分からない、という人も多いだろう。しかし、この言葉は他ならぬEXILEのメンバーの言葉なのである。2014年、NHKでHIROさんがパフォーマーを勇退するまでを追ったドキュメンタリー番組が放送された。その中で、こんなやり取りがあったという。メンバーがそれぞれ今年の目標を語る中、NAOKIこと小林直己さんはこう言った。「HIROさんに言われた言葉で今年テーマにしようと思うのが『NAOKIはもっとEXILEになった方がいい』」……ちょっと意味が分からない。当時の私の率直な感想だ。しかし、これは「EXILEになる」という言葉が何を意味するかを知れば納得できるのだ。

 EXILEのメンバーの多くはパフォーマーだ。そしてパフォーマーというのは、どうしても加齢による肉体的な限界が来るもの。それに世界レベルで見れば、上手い人間はごまんといる。そんな中で活躍するには、ただ「ダンサー」でいるだけでは無理なのだ。だからEXILEのメンバーは俳優に挑戦したり、指導者になったり、あるいはアパレルブランド、コーヒーショップの経営など、セカンドキャリアのためにあれこれ工夫している。これが「EXILEになる」ということなのだ。世界には自分より凄いやつがいるし、どんな人間にも必ず限界が来る。だから将来のことを常に考え、具体的なビジョンを練り、自分の手でそれを実行していく行動力を持て……。こうした思想は『HiGH&LOW』の現場にも反映されている。

 『HiGH&LOW』の記事で目につくのが、役者のアドリブの多さだ。特に村山を演じた山田裕貴は「主役を食ってやる」という気持ちを持っていたことを公言し、カットできないタイミングでアドリブを入れていたとも言う。同じく鬼邪高の古屋役の鈴木貴之や、関役の一ノ瀬ワタル、轟役の前田公輝と協力して、鬼邪高を盛り上げていこうとあれこれ工夫したとも語っている。その結果として、彼らは劇中でも屈指の人気を得て、遂には本作の完成までこぎつけてしまった。そうした観点から考えると、山田裕貴らは『HiGH&LOW』という作品の中で「もっとEXILEになった方がいい」の思想を実現させたのだ。最初に与えられた役割に留まらず、周囲の俳優仲間たちと協力・工夫して、遂には『HiGH&LOW』に欠かせないキャラにまで成り上がった。さらに『HiGH&LOW』以外の場所でも俳優として着実に活動の範囲を広めている。まさに「もっとEXILEになった」のだ。

 そして山田裕貴がやったように、本作でも非LDHの俳優たちがこぞって「もっとEXILEになった方がいい」の精神で爪痕を残しにきている。鳳仙の頭を演じる志尊淳や、反則と言っていいビジュアルの塩野瑛久、鬼邪高で一番の狂戦士(それでいてアダ名ギャグで笑ってしまうのがズルい)っぷりを見せる佐藤流司など、どの役者も非常に魅力的である。また今回は前田公輝演じる轟が、とにかくカッコよくて……。個人でスタントマンを呼んで特訓した(!)という冒頭の超絶アクションから、物語を締める一幕での表情まで、完璧だったと言っていいだろう。

 一方で、LDH側も黙ってはいない。何せ彼らはEXILEだ。「EXILEになる」ことで後れを取るわけにはいかない。本作でLDHの看板を背負って立つのが主演の川村壱馬である。彼は『HiGH&LOW』にいながら、今回のコラボ先である高橋ヒロシ漫画の主人公を完璧に演じている。それでいてアクションは今までのLDH勢(ガンちゃんさん演じるコブラや、NAOTOさん演じるジェシーなど)を彷彿させるアクロバット系で、ちゃんと『HiGH&LOW』のキャラでもある。現場で積極的に意見を出したとも聞くし、映画2作目でここまで仕上げてきたのは驚異的だ。まだまだ発展途上な部分はあるとはいえ、今後の伸びしろを大いに感じさせるキャラクターを作り上げた。また、GENERATIONS from EXILE TRIBEの中務裕太と小森隼が演じるオロチ兄弟もかなり良い。今までの『HiGH&LOW』にはいなかったタイプの線の太いヤンキー・スタイルは、問答無用のカッコよさがある。

 このように、『HiGH&LOW』というのは「もっとEXILEになれる」場所だ。俳優や監督、スタッフがそれぞれ工夫と情熱を注いでるのが目に見えて分かる。もちろん失敗している部分もあるが、それでも頑張っているのが伝わってくるのだ。一言で言えば、自由がある。アドリブ厳禁で、1個人によって完璧にコントロールされた真っすぐな映画もいい。しかし私は、作り手たちが好き勝手に頑張った結果、曲がってしまった映画も大好きだ。ものを作る人間が好き勝手に切磋琢磨する場所として、『HiGH&LOW』は無限に続いてほしい。本作『HiGH&LOW THE WORST』を観て、そんな想いがさらに強くなった。(加藤よしき)

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