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橋本徹が語る、スガ シカオとFree Soulの共通点 「どちらもある種オルタナティブな存在だった」

リアルサウンド

18/11/28(水) 13:00

 スガ シカオのデビューから現在に至る全キャリアの中から、『Free Soul』シリーズの監修で知られる橋本徹(SUBURBIA)が全35曲を選曲したコンピレーション『フリー・ソウル・スガ シカオ』が、11月28日にリリースされた。ソウル/ファンクをベースに、洋楽のエッセンスを日本ならではのポップミュージックに昇華したスガ シカオの音楽性を、洋楽・邦楽のカタログからヒット曲や隠れた名曲を独自のグルーヴィー&メロウな視点で選曲してきた橋本徹は、どのように捉えているのか? 『フリー・ソウル・スガ シカオ』の狙いはもちろん、スガ シカオの音楽の魅力や選曲のポイントまで、橋本徹本人に語ってもらった。(編集部)

いいなと思ったきっかけは「黄金の月」

ーー今回『フリー・ソウル・スガ シカオ』がリリースされます。まずはFree Soulについて、橋本さんから簡単に紹介、説明をしてください。

橋本:僕がまだ20代だった90年代前半、音楽を好きになっていろいろと聴いていく中で、リアルタイムで人気を集めていたUKソウルやアシッドジャズと呼応するような形で、70年代ソウル周辺のグルーヴィーだったりメロウだったりするようなものにどんどん惹かれていったんですね。でも、当時の日本の音楽ジャーナリズムは黒人音楽の評価に関して、自分と違った物差しを持っていたというか、権威的な決めつけを強く感じることがありました。その一方で僕たちと同世代の音楽仲間や世界を見渡したときに、自分たちが好きな音楽が魅力的なものとして聴かれていくはずだ、そうなっていくべきだという確信があって、1994年春にクラブでのDJパーティーとディスクガイド、そしてコンピレーションCDという三位一体の形でその魅力をプレゼンテーションし、たくさんのリスナーと音楽の歓びを分かち合っていきたいという気持ちで始めたのがFree Soulです。

ーーコンピレーションもこれまでに120タイトル以上出ていて、来年で25周年を迎えます。

橋本:そうですね。ある時期からは日本のアーティストで、僕の好きなソウルミュージック周辺、ジャズとかファンクとかブラジル音楽に影響を受けたアーティストにフォーカスするコンピレーションも制作するようになって、その最新のリリースがこの『フリー・ソウル・スガ シカオ』になります。

ーーでは、スガさんの話に移りたいと思います。橋本さんが最初にスガさんの音楽を聴いたのはいつですか? また、そのときの印象はどのようなものでしたか?

橋本:1994年の春にFree Soulのムーブメントが始まって、96年の春から僕はタワーレコードのフリーマガジン『bounce』の編集長を務めることになるんですね。当時の事務所の方だったと思うんですけど、スガさんのインディー盤を強くプロモーションされて、「文章も面白い人なんで『bounce』で連載コラムをできませんか?」というアプローチを受けたのが最初の記憶です。で、衝撃だったというか、いいなと思ったきっかけはやっぱり97年のメジャーデビュー曲「黄金の月」を聴いたときです。もちろんJ-POPとしても素晴らしいと思いましたが、僕の好きなスライ&ザ・ファミリー・ストーンに代表されるような70年代のソウルやファンクの影響を日本語のポップスに昇華したものとして、とてもインパクトを受けて。『bounce』の編集長は99年までやるんですけど、1stアルバム『Clover』、2ndアルバム『FAMILY』、3rdアルバム『Sweet』あたりまではとても強く印象に残ってます。『bounce』では毎年、年末に「OPUS OF THE YEAR」という1年間を振り返るベスト企画をやるんですが、必ず彼のアルバムはそこにエントリーしていました。

ーー僕も「黄金の月」、さらに橋本さんが挙げた3枚はヘビーローテーションしていましたね。

橋本:アナログ盤のリリースがあったわけではないので、DJの現場でかけたりしたことはないんですけど、Free Soulとの関わりという意味でも、「黄金の月」との出会いは大きかったなと思います。当時の日本のアーティスト、渋谷系なんて言われていた人たちも含めて、70年代のソウルミュージックの影響を受けたグルーヴィーな音楽はなくもなかったんですが、あそこまでスライ&ザ・ファミリー・ストーンへの憧憬を血肉化したような音楽は、「黄金の月」以外だとオリジナル・ラブが思い浮かぶくらいで、自分の中では抜けた存在だったというのはあります。『bounce』をやっている間は、スガさん本人が毎月3枚好きな音楽を紹介する連載コラムを続けてもらっていましたね。あとはやっぱり、90年代ってことでいうと「夜空ノムコウ」が出たとき。SMAPの音楽はすごくメジャーなフィールドの中で、 Free Soulのムーブメントと呼応するような音楽性を持っていて、特にアルバム『SMAP 007 ~Gold Singer』『SMAP 008 TACOMAX』『SMAP 009』あたりは、入稿作業が近づくとよく編集部でも流しっぱなしになっていたりして。仕事の能率が上がるみたいなんですよ(笑)。

ーー「がんばりましょう」は、Free Soulの代表曲のひとつと言っていいナイトフライトの「You Are」をアダプトしてるんですよね。最初に「がんばりましょう」を聴いたとき、「SMAPカッコイイなぁ!」と思いました。

橋本:「しようよ」や「胸さわぎを頼むよ」なんか特に好きで。そういう中で「夜空ノムコウ」が出たときの、20世紀が終わっていくような心象に包まれた街とか時代の空気感と、あの曲のメロウネスが、歌詞通り〈ぼくの心のやらかい場所〉にフィットしたのをとても覚えていて、それでさらにスガ シカオという人の存在感が増していったように思います。

“スガ シカオ・ナイト”でDJをするように

ーー「夜空ノムコウ」では、スガさんは歌詞を提供しているんですよね。では、そこから話を『フリー・ソウル・スガ シカオ』に持っていきたいんですけど、このコンピレーションを編むにあたっての経緯はどのようなものでしたか?

橋本:これはね、オーガスタの発案を受けてユニバーサルから電話がかかってきて、「橋本さん、スガ シカオでFree Soulってどうですか?」って聞かれたんですね。担当ディレクターの中ではスガさんは売れてるアーティストだし、TVにも出ているメジャーフィールドでやっている人なので、僕がどういう風に思ってるのかを知りたいところもあったと思うんですけど、即答で「いいですね!」って答えました。それはやっぱり「黄金の月」や「夜空ノムコウ」の体験が忘れられないものとして強くあったり、最初の3枚のアルバムは日本の音楽の中ではとても自分的に好みのものという印象があったので。で、本人の方にも聞いてみますってことで、すぐにOKになって。

ーー狙いやコンセプト的にはどんな依頼だったんでしょうか?

橋本:企画の段階で言われたのは、レーベルを越えたオールタイムベストを、ってことでした。20年以上に及ぶ今までのキャリアを総括し、なおかつFree Soulならではの感覚が浮かび上がれば、というお話だったので、そのあたりも惹かれましたね。もちろん90sだけで組んだりすることも可能は可能だったのかもしれないけど、やっぱり現在進行形のアーティストなので、ビクターから最近リリースされたものまで含めて、300曲近い全ての楽曲を聴き直して。で、その中から50数曲セレクトする可能性のあるものをメモっておいて、あとは本当にライナーノーツのコメントでも書きましたけど、ひと筆描きのように、“スガ シカオ・ナイト”でDJをするように160分、2枚組の起承転結のあるストーリーを構成することができたかなと思ってます。

ーー先ほど、「黄金の月」が橋本さんの中で特別な一曲だという話をしましたが、他にも思い入れのある曲があったら教えてください。

橋本:「黄金の月」に関しては、スライ的なグルーヴ感が好きだったと同時に、歌詞もすごく印象深かったんですね。90年代の渋谷はレコードが世界一集まっていて、ある種の躁的な浮かれた熱気みたいなものがあったんだけど、そういうところとは一線を画すというか。最後に〈黄金の月などなくても〉ってあるでしょ? 当時のJ-POPの歌詞はもうちょっとポジティブだったんだけれど、その陰というか影の部分、〈ぼくらが二度と 純粋を手に入れられなくても〉とか、そういうフレーズがあの音楽に乗ってくるところがとても個性的で彼らしく響きました。そういう引っかかりに加えて、音楽性という意味でFree Soulのイベントでかけてた曲とかコンピレーションCDに入れてた曲と共振するようなテイストということで、今回のディスク1の1曲目は「黄金の月」ですけれども、先ほどの質問に応えるなら、アタマ9曲くらいは特に思い入れ深い曲と言っていいと思います。やっぱりね、どれも聴いてるとDJでかけたくなるし、アナログ盤欲しくなりますよね(笑)。

ーーいいですね! これを機にアナログ盤リリースというのも期待してしまいます。

橋本:そうなんです、今、限定アナログ盤の企画も絶賛進行中ですので(笑)。アタマ9曲は入れたいと思いつつ、でも「夜空ノムコウ」も入れたいよなとか、ディスク2なら「ストーリー」とかDJでかけたいし、「ぬれた靴」~「サヨナラ」の流れもかなり気に入ってるしって感じで、アナログ1枚にしぼるのは大変で。

ーー悩ましいところですね(笑)。本当にグルーヴ感があってアナログ盤が欲しくなる音楽性ですよね。さて、続いてなんですが、橋本さんの考えるスガ シカオの魅力とは?

橋本:やっぱりFree Soulのパブリックイメージが体現しているような多幸感やポジティビティー、それはSMAPとかにも通じるところがあると思うんだけど、それと裏表になるような青春の光と影、という言葉に表されるような陰と陽の陰の部分っていうのが、スガ シカオならではの魅力というか。そういう偏執狂的なところ……「変態性」とかよく言われるところだと思うんだけど(笑)。

ーーそうですね、熱心なスガファンはそこに反応するという(笑)。

橋本:やっぱり陰影に富んでるところですよね、言葉も音楽も。あと、彼のいちばん凄いなと思っているところは、“きれいごと”を言わないところかな。たとえば「愛について」でも、哀しみを前提として、愛や希望について語るじゃない? あと、世の中にあふれてる不快なこととか苛立ちや不安や憤りや屈折みたいなものとちゃんと向き合って、その中で心に伝わる物語を描いていくっていうところが僕はいいなあと。さっきの〈黄金の月などなくても〉っていうところに象徴されるのかもしれないけど。音楽的にも甘くきれいな声ではないしね。

ーースガさんのボーカルの魅力は大きいですよね。本当に個性的というか、ワン・アンド・オンリーで。

橋本:ざらついた声というか、ユーミン言うところの「コーヒーのような声」。そういうほろ苦さが端的に言うと自分にとってのスガ シカオの魅力かな、っていう。

ーーやはり、陰影というのが重要ですね。

橋本:Free Soulで支持される曲は、躍動感があって甘酸っぱく切ない曲が多いけど、それが陽や光の部分だとしたら、陰や影の部分をスガ シカオの音楽性や歌詞が担ってくれるな、っていう。

ーーFree Soulも多面体ですからね。ある程度のパブリックイメージはあるけれど、ひとことで言い切ったりすることはできない。

橋本:その多面体的な部分や、アンビバレンスがあることによってより音楽の深みが増すと思ってるんですよね。

ーーまさにその通りですね。さっき、スガさんの音楽性の話になったときにスライの名前が出て、他にもビル・ウィザースやカーティス・メイフィールドとか、70年代のソウル~ファンクの影響がスガ シカオの音楽には色濃いと思いますが、橋本さんのファンクやソウルに関する遍歴や好みなどがあれば聞かせてください。

橋本:スライにしてもカーティスにしてもビル・ウィザースにしてもマーヴィン・ゲイにしても、僕もスガ シカオ本人も共通して愛してやまない、偉大なアーティストだと思うんですけど、全部すでにFree Soulでベスト・コンピレーションを作ってますね(笑)。

ーーああ! そうですね!

橋本:やっぱり300曲近くを聴き直す中でも、端々に今挙げたようなアーティストの音楽的なイディオム、スガ シカオなりの愛情表現というのが多く垣間見られたのは、選曲をしていてシンパシーを抱く瞬間でしたね。その意味でいうと、結局いちばんはワウギターかな。ワウギターとベースラインの推進力、跳ねたドラミング。僕やスガ シカオが70年代ソウルやファンクに共通して魅力を感じてる部分は、今言った要素が共通点なんだろうなと感じます。

ーー『フリー・ソウル・スガ シカオ』に入っている曲はそういった要素を感じさせるものが多いですね。

橋本:もちろんそれだけがスガ シカオの音楽の全体像ではないけどね。今回はFree Soul的なパースペクティブで切り取るっていうのがテーマだったので、そういう曲が多くなってます。

音楽ファンに対して開かれたプロダクトに

ーーコンピレーションの全体の構成について、先ほど起承転結をつけて、と話していました。流れを作る上で意識したことや橋本さんならではの聴きどころを具体的に教えてください。

橋本:今回は音楽ファンに対して開かれたプロダクトにしたい、ってのがすごくありましたから、流れの良さにはもちろん必然的に気を配りました。DJをするようにひと筆描きのように曲順を決めたという話をさっきしましたけど、Free Soulファンにスガ シカオの魅力を伝えたい、感じてほしいということと同時に、スガ シカオのファンにもFree Soulの魅力を感じてほしいというのがあったので、自然とそこには気を遣って流れや勢いを大切に選曲していると思います。

ーーディスク1の前半はそれを体現するような流れですね。

橋本:一方でより陰影に富んだ構成という意味では、ディスク2の後半が「月とナイフ」「アーケード」で“わびさび”を漂わせながら終わって、最後にもう一回「愛について」と「黄金の月」という代表作のライブバージョンを入れているんです。これは等身大のいちソウルマンとしてのスガ シカオの魅力が伝わる素晴らしいバージョンだと僕は思うので、このエンディングにはこだわりました。それによって余情みたいなものが生まれたんじゃないかと思いますね。

ーー僕も最後の2曲は映画でいうところのエンドロール的な感じだな、と思いながら聴いていました。

橋本:フラッシュバックとかね。最後は余韻を残しつつ、という。

ーーFree Soulのファンに楽しめるように、というのと、スガさんのファンに興味を持ってもらえるように、という言葉がありましたが、両者の接点はどういうところだと思いますか?

橋本:今まで話してきたような、70年代ソウル~ファンクといった音楽性的な部分はもちろんあるんだけど、一番大きいのは当初、どちらもある種オルタナティブな存在だったというところかな。

ーーなるほど。

橋本:それでいて、聴き手を拒まないというか、変に妥協したり目線を低くしたりするってことではない、オープンな姿勢で音楽を届けてきたところ。スガさんはソウルやファンクに根ざしながらTVにも出るし有名アーティストともコラボレーションしたり、Free Soulも一見マニアックなことをやっている印象があるかもしれないけど、実際には全然そんなことはなくて。クラブのDJパーティーに根ざしてアンダーグラウンドなところからスタートしているから、当時のメインストリームに対してはオルタナティブな存在だったわけだけど。

ーーでも、別にそんな難しいものではないと。

橋本:うん、お茶の間感覚で聴いても魅力が伝わるものを選択しているので、そういう部分が近いかなって。

ーー確かに、オルタナティブっていうのが両者の共通点のひとつなのかな、っていうのは僕も思いました。あとは、橋本さんが94年にFree Soulを始めて、スガさんも90年代後半にデビューしたわけだけれど、その頃は“オルタナティブ”が時代のキーワードになっていましたよね。

橋本:ディアンジェロとかにも象徴されるオルタナティブR&B的な感覚、実際にはオルタナティブなものがメジャーになっていくわけだけども、出発点はそこなんだよね。そういうあり方というのがスガ シカオさんの凄いところだな、って思いながら見てますけど。

ーー僕もさっきふと思ったんですが、一時期からはすごくメジャーな人じゃないですか。でも、そういうところにいながら良い意味でマニアックさも失っていない。

橋本:そういう要素を忍び込ませてくるよね、音楽愛というか。今でもボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクが好きなんて話していたりして、リスナーとしての好奇心を失っていないから。どうしてもメジャーなミュージシャンやアーティストって、現在進行形の音楽に対する興味がだんだん失われてしまうケースもあると思うんだけど、偏執狂的な音楽ファンとしてのカラーはいまだに滲んでるよね(笑)。

ーーそのへんが絶妙なバランス感覚ですよね。

橋本:決して回顧的になりすぎないし。温故知新的な部分と、現在進行形の両立という意味でも、Free Soulとスガ シカオは共通してるんじゃないかと思いますけどね。なんて言うと恐れ多いですけど(笑)。

SMAPとスガ シカオは“青春の光と影”

ーーでも本当にそうですね。橋本さんも70年代のソウルミュージックっていうところで最初はFree Soulのコンピレーションを作っていたわけですけど、『Free Soul 90s』とか『Free Soul~2010s Urban』とか、現在進行形の音源でもシリーズを作っています。すごく納得しました。スガ シカオは村上春樹がすごく好きで、逆に村上春樹もスガさんの音楽が好きで、彼の音楽書『意味がなければスイングはない』の中で1章割いて書いていたり、現在のところスガさんの最新作である『THE LAST』でライナーノーツを書いていて、そういうところでの蜜月みたいなものがあるんですけど、橋本さんも村上春樹がお好きなので、両者の共通点など思うことがあったら教えてください。

橋本:情景の描き方とかはお互いが好意を寄せ合うのがわかる気がしますね。触感的なところとか、あとは季節を描きこんでくるところとかもね。情景の描き方で象徴的なのは、『1Q84』の千倉の療養所のシーンと「木曜日、見舞いにいく」。あの曲は僕もそれを意識せずにはもはや聴けない(笑)。

ーー同感です(笑)。

橋本:それと個人的には、スガ シカオさんとは同世代なわけなんですけども、自分が今回選曲していてふと思ったことがあって。僕は17歳くらいからいろんな音楽を掘り下げて聴いていくようになるんですけど、それ以前はまだラジオやTVで流れる曲を聴いたり、日本のアーティストを聴いていたり、って感じだったんですよ。それで15歳のときに好きになったのがユーミンで、16歳のときに佐野元春を好きになって彼のFM番組の影響を受けて。で、17歳のときに出会ったのが村上春樹なんです。

ーーああー、なるほど。

橋本:『羊をめぐる冒険』。で、ユーミンと佐野元春と村上春樹って、全部スガさんも好きなんでしょ? そこに同世代感と、共感と近親憎悪が入り混じった感じがありますね(笑)。

ーーシンパシーを感じつつも……。

橋本:逆ですね(笑)。近親憎悪を感じつつもシンパシーを感じるというところがあるかもしれないな。

ーーなるほど。同世代的な感覚っていうのはすごくわかる気がします。

橋本:逆に言うとユーミンや佐野元春や村上春樹をスガさんも好きだというのは、当然あとから情報として知ったわけだけど、それはすごく自分としても納得がいくというか。「ああ、だから自分もスガ シカオの作品に惹かれるところがあるんだ」と。あとは村上春樹とスガ シカオってことでいえば、自分の中では戦争を止める男であってほしいという願いがありますね。

ーースガ シカオっていう名前は本名なんですけど、「止戈男」っていう名前がそういう意味なんですよね。

橋本:やっぱりお二人とも大きな影響力と意志を持っている人だし、二人とも芯のある方だから、いざというときに戦争を止める男になってくれるんじゃないかな、という思いはあります。もちろん自分も微力ながら声を上げたいと思っていますが。

ーーうん、いい話ですね。では、橋本さんが考える『フリー・ソウル・スガ シカオ』を聴くのに最適なシチュエーションはありますか? 個人的にこういう場面で聴きたい、というのでもいいですけど。

橋本:グルーヴ感のあるサウンド、という意味では、やっぱりドライブのときに聴いてもらえたら、いい感じだと思いますね。あとは、自分はけっこう多いんだけど、ベッドに入って目を閉じて、寝ながら聴くのもすごく歌詞の世界が入ってきて好きですね。そうやってじっくり聴いてもらうっていうのもいいんじゃないかな、と思うし。まあ硬軟自在、老若男女楽しんでいただけるようなものになっているのではないかと思うのですが(笑)。

ーーでは最後に、橋本さんが『フリー・ソウル・スガ シカオ』にキャッチコピーをつけるなら?

橋本:帯裏にもあるけど、〈世界中にあふれているため息と 君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ〉というのは、もうこれ以上ない決めのフレーズだなと思いますね。やっぱりこのコンピレーションや選曲に込めた思いとかも体現されてる言葉だなと思うので。今となっては「Progress」がいちばん有名な曲なわけでしょ?

ーーオリジナルはスガさんがボーカルを務めるkōkuaで、『プロフェッショナル 仕事の流儀』挿入歌ですね。

橋本:それともうひとつ言うなら、〈夜空のむこうには もう明日が待っている〉っていうフレーズだよね。

ーーさっき、橋本さんが時代感のことも含めて話していましたね。

橋本:今回の感じだと「Progress」の一節の方が、内容的にもスガ シカオさんの音楽にも自分の選曲にも合ってると思うんだけれども、その裏には〈夜空のむこうには もう明日が待っている〉という、スガ シカオにしてはロマンティックな、温かい感じがあるからみんな惹かれるんじゃないかとも思うんですよね。

ーー先ほどの話じゃないですけど、SMAPっていうキャラクターがあの曲を歌うことによって、青春の陰と陽みたいなものが表現されるのかな、と思いました。Free Soulにも青春ぽさというか蒼さというか、あの歌詞が持っている世界観とつながるところが強くあるのかな、と思いますし。

橋本:そうそう、本当にSMAPとスガ シカオは“青春の光と影”ですよね。そこを表現できたらっていうのは、Free Soulという連続体、運動体では強く意識していることだし、この『フリー・ソウル・スガ シカオ』というコンピレーション単体でも伝えることができたらと思っていました。

ーーこれしかない、という締めになりましたね(笑)。今日はどうもありがとうございました。

(取材・文=waltznova)

■商品情報
『フリー・ソウル・スガ シカオ』
11月28日(水)発売
2CD:¥2,980(税抜)

DISC 1
1. 黄金の月
2. 光の川
3. June
4. 8月のセレナーデ
5. 愛について
6. グッド・バイ
7. 夕立ち
8. Progress / kokua
9. ホームにて
10. 夏祭り
11. ひとりごと
12. サナギ  ~theme from xxxHOLiC the movie~
13. カラッポ
14. 前人未到のハイジャンプ
15. オバケエントツ
16. 夜空ノムコウ (Live)
17. 夏陰 ~なつかげ~

DISC 2 
1. 夜明けまえ (Live)
2. 海賊と黒い海
3. 青空
4. SPIRIT
5. ストーリー
6. 1/3000ピース
7. ぬれた靴
8. サヨナラ
9. 秘密
10. AFFAIR
11. たとえば朝のバス停で
12. 木曜日、見舞いにいく
13. ココニイルコト
14. ふたりのかげ
15. 月とナイフ
16. アーケード
17. 愛について (Live)
18. 黄金の月 (Live)

■橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは340枚を越える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。http://apres-midi.biz

 

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