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和田彩花の「アートに夢中!」

【番外編】アートを学ぶということ(前編)

毎月連載

第37回

この春、めでたく大学院を卒業した和田さん。6年間にわたって美術史を学び、美術に対する造詣を深めていった和田さんの修士論文のテーマはもちろんエドゥアール・マネ。ではこの6年間、大学・大学院でどんなことを学んだのか? どうしてマネを研究しようと思ったのか? 今回は「番外編」として、和田さんの美術に対する思いと今後の美術とのかかわり方について改めて話を聞いた。

美術を勉強した6年を振り返って

うーん、改めて自分がどんなことを学んできたか、話そうとすると難しいですね(笑)。私が美術の面白さに気づいたのは高校生のときで、大学で本格的に美術史の勉強をしようと思ったんですけど、でも実は最初からマネを研究しよう!と思っていた訳ではなかったんです。もちろん美術の面白さを教えてくれたのはマネでしたが、その当時はフェルメールやレンブラントといったオランダ絵画や、中世の宗教画にとても興味を持っていて、大学に行ってもそういった古い時代の美術を研究したいと思っていました。

でも大学に入ると、いろんな美術の分野、西洋だけじゃなくて日本や東洋、その他の地域の美術や、宗教、美学などについても勉強するようになりました。それに大学の先生が、ただ絵画や作品を見たり論じたりするだけじゃなくて、画家の書簡や画家の言葉なども重要であり、こういった二次資料が、画家のことだけじゃなくその当時の文化や歴史なんかも教えてくれ、絵の考察に大きな武器となるということを教えてくれたんです。それまでは美術史とか、絵のことばかり自分で勉強していたので、先生のこの言葉がけっこう目からうろこでした。そうやっていろんなことを学ぶようになると考え方も変わってきて、やっぱり自分が研究したいのは「近代絵画」だなって思うようになりました。

でも「近代絵画」といっても範囲は広いし、研究対象も多い。だからいざ卒業論文に何をテーマにするか、となった時に、やっぱりマネにしたいなって思いました。マネだとすぐに研究したいテーマが思い浮かんだんです。だからそこからはマネを、そしてマネの作品を研究するようになりました。卒論では、《草上の昼食》とレアリスムの関係について、修論では《すみれの花束をつけたベルト・モリゾ》について書いたんですが、最終的にマネとモダン・アートの関係やあり方、という大きなくくりで考えました。

エドゥアール・マネ《草上の昼食》1863年 提供:アフロ

美術を学ぶとはどういうこと?

大学で美術を学ぶ学科に進みましたが、最終的に美術を学んでない気もしているんです(笑)。それよりも物事の考え方をすごく教えてもらった、という感じがありますね。特に一番学んだのは、画家や作品の魅力をきちんと伝えていくということ。そこから逸れてしまったら、美術史をやる意味もないし、画家や作品の魅力も損なわれてしまうじゃないですか。それに気づいたのは大学院に入ってからなんですが、先生から常に偏った視点で物事を見るべきではない、ということを教わったからだと思うんです。

自分が興味のあることが作品や画家のテーマに合致していると思い込んで、突き進んで、それが間違いではないけど、視野を狭めている、ということに気づかされることもありました。修論でベルト・モリゾという女性画家の肖像をテーマに決めた時、ジェンダー論やフェミニズムに関心があったので、その方向で研究したいと思っていました。ただ、それだけでこの作品やモデルの女性を語ることができるのか、自分の本当に研究したいところと重なるのか、と少し疑問に思い始めると、とても偏ってるって気づかされたんです。どこか自分の体験と重なることもあり、これを突き詰めていったら間違いなく面白い気づきがあると信じてやっていて、知らぬ間に傾倒していってしまったんですよね。けっこうこの気づきはショックでしたが、偏るというのはどういうことか、身をもって知ることができたいい体験でもありました。

エドゥアール・マネ《すみれの花束をつけたベルト・モリゾ》1872年 提供:アフロ

そして実際に作品を見る大切さも学びましたね。実物を見た時の感覚などをもとに、作品や画家を探っていきなさい、というスタイルの先生だったので、もちろん面白いと思った二次資料や時代背景、歴史なんかも丁寧に検証し、調査していくんですが、結局それだけが学びではなかったな、と思っています。見ることによっての気づき、筆の動きや絵具の色、厚み、画面構成、面の問題、バランス…… 印刷物でもわかることはもちろん多いのですが、実見することで得られる情報にはやっぱり勝てないなって思いました。

和田さんを虜にするマネの魅力

マネを4年以上調べてきて、やっぱりその魅力っていうのは「矛盾」したところだなって思っています。

マネは美術の世界を近代化した画家です。だからこそ、昔の美術をしっかりと研究しているし、取り入れている。それは晩年の大作まで続いています。絵画の借用というか。それなのに、西洋絵画に革命を起こした画家というように言われてしまうんですね。描写の新しさや色彩の自律性とか、色の輝きとか。何を描いているかっていうことも重要ですが、単純に塗られた黒色が魅力的だよねとか、この光が魅力的だよねとか、そういうふうに言えるのが、おそらく色彩の自律性や、純粋な絵画と言われるところです。

マネは美術に革新をもたらしたけれども、それは過去の作品があったから。だからマネの作品というのは、伝統的な西洋絵画と新しいマネ独自の技術、そういった矛盾がとても巧妙にミックスして表面に出ているんです。ただきれいに昇華して完成させたわけではなくて、矛盾を矛盾のまま描いてしまう。そこが面白いところですね。

そういう矛盾について考えていくと、マネは画面の中で、部分的にいろんなところを切り取ったり、貼り合わせたり、離していったりしている。しかもそれらは一見自然なように見えて、実は不自然。常にどこかバランスを崩しているんです。ある種不安定な画面というか。でもそれが私にとってはとても大きな魅力だし、ずっとずっと考えていっても正解は出ない。とても研究のしがいがある画家だなって思います。

私の中でマネと出会ったことは本当に大きな出来事でした。だからマネを研究し続けてきたことに後悔はありません。自分が選んだ道は間違ってなかったんだって。でもまだまだ勉強が足りないなって思っています。もっともっとここを突き詰めればよかった、違う視点から見てみればよかったって、悔しさが残っています。そういうふうに思わせてくれるマネもすごいなって。どんな画家を勉強してもそうだとは思うんですが、研究したいことが尽きないんですよね。

だから学校での学びは終わってしまいましたが、これからもマネをずっと勉強していきたいですね。

本当にこの6年間は、ただ勉強する、というだけではなくて、いろんな考え方や視点、ありとあらゆることを教えてもらった気がします。高校時代の美術を勉強したいという思いから、まさか大学院まで行って勉強する、ということになるとは思いませんでした。そして美術が仕事になるとも。とてもありがたいですし、これからも美術の魅力を皆さんにお伝えしていきたいと思います。

※5月5日更新予定、後編に続きます。

構成・文:糸瀬ふみ

プロフィール

和田 彩花

1994年生まれ。群馬県出身。2004年「ハロプロエッグオーディション2004」に合格し、ハロプロエッグのメンバーに。2010年、スマイレージのメンバーとしてメジャーデビュー。同年に「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2015年よりグループ名をアンジュルムと改め、新たにスタートし、テレビ、ライブ、舞台などで幅広く活動。ハロー!プロジェクト全体のリーダーも務めた後、2019年6月18日をもってアンジュルムおよびハロー!プロジェクトを卒業。一方で、現在大学院で美術を学ぶなどアートへの関心が高く、自身がパーソナリティを勤める「和田彩花のビジュルム」(東海ラジオ)などでアートに関する情報を発信している。

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