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春日太一 実は洋画が好き

見た目が全てではない! 『ポセイドン・アドベンチャー』から学んだ真のヒーロー像

毎月連載

第14回

『ポセイドン・アドベンチャー』(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

子供の頃、ハリウッド映画にハマッていく中で面白く感じたことがある。それは、パッと見だと“ただのオジサン”にしか見えない俳優が、スターとしてヒーロー役を演じている点だ。

チャールズ・ブロンソンにチャック・ノリス。ヒーローはキリッとした二枚目とは限らない。カッコ良さの条件に見た目は必ずしも必要ない。その幅の広さ、人間臭さに魅力を感じていた。

中でも、たまらなく好きだった俳優の一人がジーン・ハックマンだ。父が大ファンだったこともあり、映画を本格的に観るようになってのかなり初期の段階で、彼の作品には触れていたと思う。

髪の毛は薄いし、丸顔だし、黒目がちのたれ目だし、鼻頭もだんご鼻っぽい。どこからどう見ても二枚目とは程遠い“オジサン”である。

でも、間違いなくヒーローだった。

レンタルビデオの後追いで『フレンチコネクション』『カンバセーション…盗聴…』『ターゲット』などを観てその虜になり、映画館で『キャノンズ』『ザ・パッケージ/暴かれた陰謀』などの新作をリアルタイムで追いかけた。

どれもこれも、最高だった。

最大の魅力は、その熱さである。演じる役柄も、芝居の感じも、とにかく熱い。情熱的でパワフル。それが“オジサン”な見た目とあいまって頼りがいを醸し出し、ヒーローとしての説得力を与えていた。また同時に、その熱さは必死さとして映し出され、物語に切迫感をもたらしてもいる。

特に好きなのは、怒鳴ったり熱く議論したりする時に見せる、顔をクシャっとさせる独特の表情。これを観ると胸がキュンとなる。

ハックマンの魅力を最も堪能した『ポセイドン・アドベンチャー』

『ポセイドン・アドベンチャー』のジーン・ハックマン(写真中央)

そんなハックマンの魅力を最も堪能できる作品が『ポセイドン・アドベンチャー』。大津波に襲われて転覆した豪華客船からの脱出行が描かれた名作パニック映画だ。

天地が逆転し、刻一刻と浸水していく船内。次々と襲いくる危機を突破する様をスリリングに追った本作で、ハックマンが演じるのは乗客を救わんとする牧師。

しかも、普段から「苦しい時は神に頼らず、自分自身を強く持つこと」と説き、祈りだけでは何も解決しないという型破りな牧師だ。いつも自信に満ち溢れ、アグレッシブでエネルギッシュ。まさにピッタリな役柄である。

転覆した船にあって、助かるのは船底に“上がる”こと。牧師はそう考える。が、大半はパーティ会場に残ろうとし、生き残った者の多くも船首へと向かう。懸命に説得するも、その声は届かない。そして皆、水に飲み込まれていく。

牧師に従うのはわずか9名のみ。そして彼らの道行きも壮絶な困難が待ち受ける。乗客を鼓舞し、血路を切り開いていく牧師。ハックマンの必死の形相と熱い芝居が胸を打つ。そして最後に見せる、ある“格闘”の熱さはまさに真骨頂。

ヒーローのカッコよさとは見た目ではなく、その行動が作り出すものだと教えてくれた。

関連情報

『ポセイドン・アドベンチャー』発売中

〈日本語吹替完全版〉コレクターズ・ブルーレイBOX〔初回生産限定〕
7,407円+税
販売元:20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
(C)2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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