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【ネタバレあり】賛否渦巻く『ターミネーター:ニュー・フェイト』の革新的な試みを解説

リアルサウンド

19/11/16(土) 12:00

 いまも愛される、SFアクション映画の代表格、『ターミネーター』(1984年)と、『ターミネーター2』(1991年)。観客からの圧倒的な支持とヒットを受け、この後にもシリーズ作品がいくつも製作されたが、やはり最初の2作は別格である。これらを創造したジェームズ・キャメロンは、ここからシリーズを離脱し、重要な役を演じたリンダ・ハミルトンもまた、脚本の内容を理由に遠ざかってしまう。

参考:

 そんな2作の“正統続編”という位置付けで製作された本作『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、この二人に加え、「これが最後のシリーズ出演」と宣言したアーノルド・シュワルツェネッガーも参加し、久しぶりに“レジェンド”が揃った作品となった。さらに監督を、『デッドプール』(2016年)を大ヒットさせたティム・ミラー、ストーリーをジェームズ・キャメロン、脚本を『ダークナイト』(2008年)のデヴィッド・S・ゴイヤーらが務めることになった。

 この座組みにはファンも納得できるのでは……と思えた本作だが、内容についてはリンダ・ハミルトンやマッケンジー・デイヴィスなど、みごとなアクションを演じた俳優陣の勇姿に絶賛の声があがりながらも、同時に否定的な意見も噴出しているようである。ここでは、そのような見方が出てしまった理由を追いながら、この作品がやろうとした、革新的な試みについても明らかにしていきたい。

 『ターミネーター』シリーズ最初の2作までに描かれたのは、自我に目覚めたAIコンピューター“スカイネット”によって、機械に人間が支配されてしまう絶望的な未来の暗示、そして、そんな未来の唯一の希望だとされる抵抗軍のリーダーとなる英雄ジョン・コナーの存在だった。そして、彼を産むはずの、未来の母親であるサラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を殺害するために未来から派遣された、機械側の殺人兵器“ターミネーター”、“T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)”との戦い……また、生まれてきたジョンを、強敵“T-1000”から守るため、かつてサラを襲ったT-800と同型のターミネーターが共闘するというアツい展開によって、未来に希望がつながれるまでが、公開当時の最新鋭の技術で表現されていた。

 “正統”を謳う第3作である本作は、なんと『ターミネーター2』であれほど苦労して救ったはずのジョン・コナー少年が、新たに派遣されたT-800によって、あっさりと殺害されてしまうという衝撃的な展開によってスタートする。これによって、未来は暗黒に閉ざされたかに見えた……。だが、じつはそうでもなかったことが、未来からやってきた新キャラクター、強化型兵士グレース(マッケンジー・デイヴィス)が、劇中で伝えてくれる。

 彼女とサラ・コナーとの会話によると、ジョン・コナーはたしかに死んでしまったが、『ターミネーター2』での奮闘は決して無駄ではなく、それによってスカイネットの台頭を阻止できていたというのだ。しかし同時に、そのことでスカイネットとは異なるAIが人類を攻撃するという、新たな暗い未来を生み出してもいたらしい。さらに、それによって新たな未来の希望となる人間も、ジョンから別人へと変化した。それが、メキシコシティの自動車工場で働く女性ダニー(ナタリア・レイエス)である。

 機械側は、標的ダニーを殺害するため、超強力なターミネーター“REV-9(ガブリエル・ルナ)”を未来から送りこむ。対して、人間側もグレースを未来から派遣し、ダニー救出をはかろうとする。ダニーを守るため、グレースの戦いにサラ・コナー、そして人間に接することによって考えが変わったというT-800も参戦し、2体分離などの新たな機能を持ったREV-9の容赦ない追撃をかわしながら、最終決戦の用意を進めていく。

 陸、河、空で繰り広げられる、死のチェイス。そこでは、ジョンを殺され“ターミネーター狩り”を行ってきたというサラの容赦ない銃撃や、身体を無理に強化したことで、体に致命的な問題を抱え、薬物に頼っているマッケンジー・デイヴィスが、肉弾戦でターミネーターに挑み、決戦ではなんと、鎖鎌を武器に選択するという渋さを見せるなど、見せ場が少なくない。

 とはいっても、ここに『ターミネーター』、『ターミネーター2』が公開当時に持っていた、映像的な新しさがあるだろうか。多くのシーンで本作は、その2作を乗り越えるどころか、既存のイメージを繰り返してしまっているように感じるのである。部分的には、本作が否定しているはずの『ターミネーター3』(2003年)を踏襲してしまっているところもある。多くのクリエイターが憧れ、思わず模倣するような、有無を言わせず時代を作ってしまう、いままでの圧倒感が、本作には希薄なのである。『ターミネーター』、『ターミネーター2』のファンは、主にこの部分に失望しているのではないだろうか。

 では、本作は古い時代遅れの作品なのか? じつはそうでもないことが、角度を変えて見ることによって気づくはずだ。それはやはり、女性キャラクターの活躍である。

 象徴的なのは、ジョン・コナーの死である。『ターミネーター』、『ターミネーター2』では、彼はいままで未来を救うキリストのような存在として描かれ、本作の劇中でも言及されるように、サラは聖母マリアのような位置づけであった。だが、いまその設定を考えると、なんとなく違和感がないだろうか。このような考えでいくと、サラはただの“産む機械”であり、その“機能”があるからこそ重要であるかのように見えてしまう。いままで『ターミネーター』の世界では、ジョンを産まない彼女に存在価値はほとんどないように描かれてきたのではないか。本作で女性たちが活躍し、ダニー本人が世界を救う人物になっていくように描かれるのは、いままで女性の役割を限定したものとして描いてきた、作り手側の古い価値観が影響していたのではないか。

 本作では、未来が変更され、救世主は男ではなく女へと“修正”されている。それは、現実の社会において女性の役割や考え方に変化が訪れ始めたことの反映ではないのか。ダニーは女性で、さらにアメリカへと密入国するメキシコ人である。そんな彼女が、世界を救うかもしれない。最近、国連で10代の環境活動家グレタ・トゥンベリ氏が注目を集めた。非アメリカ人の年若い女性が、最悪の状況を回避する未来を示す役割を果たそうとしているのである。そして、そのことによって彼女は大人や男性を中心にバッシングを受けることにもなった。その是非はここでは問わないが、確実なのは、このような新しい世代の女性が、前に出るようになってきたということである。ダニーは、サラやグレースの力強さに触れて、「いまここで、この場所で戦う」という選択をする。彼女は、いまある理不尽と戦う決意を固めることで、真の強さを手に入れる、“いまを戦う”女性ヒーローに成長するのだ。

 シュワルツェネッガー演じるT-800は、そんな女性たちの戦いをサポートする役割を買って出る。それは、来たるべき新しい価値観の世界では、男性も考えを変えて“アップデート”していかねばならないことを示している。『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、このように、いままでにない新しい価値観で、シリーズを刷新したのである。『ターミネーター』シリーズでそんなことをやる意味があるのかと考える観客は少なくないかもしれない。しかし、世の男子たちを魅了してきた『ターミネーター』でそれを描くからこそ、意味があるのではないだろうか。本作のシュワルツェネッガーが演じたターミネーターは、女性たちと共闘し、未来の価値観に順応する、新しい男性ヒーロー像の創出でもあるのである。(小野寺系)

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