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田中泰の「クラシック新発見」

この作曲家に再入門/アストル・ピアソラ(1921-1992)

隔週連載

第4回

アストル・ピアソラ イラスト:坂谷はるか

クラシック界では毎年、生没年をベースにした「メモリアル作曲家」が脚光を浴びる風習がある。昨年2020年は生誕250年のベートーヴェンがクラシック界の主役となり、コンサートやイベントで頻繁に取り上げられたことが思い出される。

では今年の主役たる「メモリアル作曲家」は誰かといえば、古いところから順に、生誕200年のハンガリーの作曲家ドップラー(1821-1883)に、没後100年のフランスの作曲家サン=サーンス(1835-1921)。没後50年のロシアの作曲家ストラヴィンスキー(1882-1971)。そして、生誕100年のアルゼンチンの作曲家でバンドネオン奏者アストル・ピアソラ(1921-1992)あたりに光があたる。というわけで、今回は3月11日に生誕100年を迎えたばかりのピアソラに注目してみたい。

イタリア移民2世のバンドネオン奏者の父のもとに生まれたピアソラは、3歳のときに両親とともにニューヨークに移住。ジャズやクラシックにタンゴなど、さまざまな音楽にふれたことが、ピアソラの音楽性に大きな影響を与えたようだ。父の薦めによってバンドネオン奏者となったピアソラだったが、目指すところはクラシックの作曲家。アルゼンチンが生んだ大作曲家ヒナステラ(1916-1983)の教えを受けて頭角を現し、パリ留学を果たしたところで出会ったのが、“マドモワゼル”と呼ばれた伝説の音楽教師ナディア・ブーランジェ(1887-1979)だった(彼女の凄さについてはまた別の機会に紹介したい)。

ブーランジェからタンゴの作曲を勧められたことが大きな転機となったピアソラは、伝統的なタンゴにジャズやクラシックの要素を加えた独自の作風を確立し、一躍時代の寵児となったのだ。

(写真左から)ヨーヨー・マ、ギドン・クレーメル (c)Albert Linarts

1990年代に巻き起こったピアソラ・ブームのきっかけとなったのが、ヨーヨー・マ(チェロ)が奏でる『リベルタンゴ』を使ったサントリー・ウィスキーのCMだろう。同曲が収められたアルバム『ヨーヨー・マ・プレイズ・ピアソラ』が空前の大ヒットを記録したのも懐かしい思い出だ。さらには、現代最高のヴァイオリニストのひとりギドン・クレーメルがピアソラ作品を好んで演奏し、『ピアソラへのオマーシュ』を始めとした優れたアルバムを何枚も発表したことが協力な後押しとなる。

『ヨーヨー・マ プレイズ・ピアソラ +2』と
ギドン・クレーメルの『ピアソラへのオマーシュ』

ピアソラが遺した名曲の中でも特にユニークな作品が、『ブエノスアイレスの四季』だ。『四季』といえば、前回この連載で紹介したヴィヴァルディの代名詞。この“2の四季”を並べたアルバムの面白さは格別で、クレーメルの『エイト・シーズンズ』を始めとした名盤が何種類も存在する。約250年もの時を隔てた2人の音楽のコラヴォレーションは、季節が真逆の北半球と南半球の『四季』の対比という意味においても興味深い。

ちなみに『四季』と名の付く作品は、前述のふたりのほかにも、ハイドン、チャイコフスキー、グラズノフなどの作品が存在し、近年では、2009年に発表されたフィリップ・グラス(1937-)のヴァイオリン協奏曲第2番『アメリカの四季』の面白さが突出している。興味のある方はぜひご体験あれ。

アコーデオンによく似たピアソラの楽器「バンドネオン」はどこの国で発明されたでしょう?

アルゼンチン

イタリア

ドイツ

フランス

ドイツ

「バンドネオン」はドイツで開発された楽器です。1847年にドイツ西部のハインリヒ・バンドが発明したことで「バンドネオン」という名前がついたというのが定説でしたが、バンド氏は発明などしておらず、ドイツ東部ケムニッツ周辺で既に発表されていた蛇腹楽器「コンツェルティーナ」をコピーして少し改変を加えただけの、いわば便乗商品としてのスタートだったとのこと(小松亮太・著「タンゴの真実」参照)。ちなみにアコーディオンには右手側がピアノ鍵盤になっているものと、両手ともボタンのものがあるが、両者ともバンドネオンとは奏法上の互換性はありません。

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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