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UNISON SQUARE GARDENを強くする“多様な価値観の混在” 斎藤宏介のXIIX、田淵智也のTHE KEBABSから考察

リアルサウンド

20/3/10(火) 12:00

■UNISON SQUARE GARDENと多様性

 ある目的を成すために何人かが集まって作られる「チーム」もしくは「組織」。会社でも、学校でも、程度の差はあれ誰しもがこういった集団を形成して日々の活動を行っている。

 機能する「チーム」や「組織」をいかに作るか? という話において、昨今外せないポイントとしてよく挙げられるのが「多様な価値観を内包していること」である。世の中そのものの複雑性が高まっていく中で、同じことを考えているメンバーが揃っているだけでは時代の変化に対応するのが難しい。それぞれがそれぞれの強みを認めつつ、また違いを尊重し合いながら、その上で共通のゴールを目指すこと。そんな空間を生み出すことのできるグループは、非常に強い。

 そして、ここまで述べた話は「バンド」においても当てはまる。

「UNISON SQUARE GARDENっちゅうのは、すげえバンドだな!」

 2019年7月27日、バンド史上最大となる25,000人を集めた(そしてこのバンドにとっては稀な大規模ライブでもあった)「プログラム15th」のステージ上にて、田淵智也はこう叫んだ。

 この場に集まったファンはそれぞれの観点からこのバンドの「すげえ」ポイントを体感しているはずだが、前述したような「強いチーム」という切り口でユニゾンの凄さを分解すると「多様な価値観の混在」というキーワードが浮かび上がる。彼らの楽曲にはロックバンドのフォルムを軸にさまざまな情報が圧縮され、ステージ上にはクールな振る舞いとワイルドなアクションが自然と同居している。そして、それらの要素が「UNISON SQUARE GARDEN」というバンド名の下に一体化した時、完全にオリジナルな輝きが放たれる。

(関連:UNISON SQUARE GARDENが追求する、3ピースバンドの可能性ーー最新曲から考察

■XIIXとTHE KEBABSに映し出される斎藤と田淵の個性

 2020年に入って、ユニゾンの3人のメンバーのうち2人が「バンド外活動」としての作品をリリースした。同じタイミングで発表されたそれぞれのアルバムは、ユニゾンが全く異なる個性によって形成されていることを端的に示してくれている。

 作品として先んじて世に出たのが、ユニゾンでは主にボーカルとギターに徹している斎藤宏介が須藤優と組んだユニット・XIIXによる『White White』。彼が詞曲を手がけ、須藤とのキャッチボールによって組み上げた楽曲が14曲収録されている。

 「自分が新しいバンドをやるんだったら、さらにデカいところに向けて発信すべきだと思っていたし、その中で学んだり、気付くことがないと、やる意味がない」(参考:音楽ナタリー)という通り、並々ならぬ決意で制作されたと思われる『White White』から見えてくるのは、ユニゾンではそこまで前景化していない「リアルタイムの音楽シーンの空気を吸う音楽家」としての斎藤の姿である。彼の記名性の高いボーカルが乗っている時点でユニゾンとの共通項はもちろんあるが、アルバム冒頭を飾るR&Bテイストの「Stay Mellow」におけるラップ調のフロウはユニゾンでの歌い回しとは一線を画したものである。他にもセンチメンタルな歌もの「E△7」やポップでダンサブルな「LIFE IS MUSIC!!!!!」など、須藤とともに「ロックバンド」という枠を取り払ったからこそできる表現が並んでいる今作からは、2020年のこのタイミングにリリースされる必然性が強く感じられる。

 一方、ユニゾンのベースであると同時にバンドの司令塔でもある田淵智也は、佐々木亮介(a flood of circle)、新井弘毅(ex. serial TV drama)、鈴木浩之(ex. ART-SCHOOL)とTHE KEBABSを結成して昨年初めからライブ活動を行ってきた。今年2月にリリースされたアルバム『THE KEBABS』は、そんなTHE KEBABSの活動をダイレクトにパッケージしたかのようなライブ録音による作品となっている。

 斎藤がXIIXで「オントレンド」な作品をリリースしたのに対して、田淵がTHE KEBABSを通じて体現しているのはより「オーセンティック」なロックサウンド。佐々木のボーカルを生かすべくよりシンプルに削ぎ落とされたサウンドは、the pillowsやザ・クロマニヨンズといった彼のルーツを衒いなく表現したストレートなロックンロール。キャッチーなメロディからユニゾンっぽさを感じることもできなくはないが、構築されたユニゾンの世界とは異なるラフなロックの楽しさが全編を通じて表現されている。アルバム1曲目の「オーロラソース」では田淵も自らボーカルをとり、「猿でもできる」では〈踊れるやついるか/猿でもできる〉という歌詞のみで楽曲が展開していくなど、ユニゾンとは全く異なるスタンスで活動に臨んでいることが伺える。

■個性のせめぎ合いが独自性を生む

 予備知識なしでXIIXとTHE KEBABSの作品を聴いた場合、「それぞれのバンドのコンポーザーが実は同じバンドのメンバーである」と知って驚く人もいるのではないだろうか。

 2つのバンドの活動を踏まえた上でユニゾンのあり方に立ち返ると、前述した「多様性」に対する解像度も高まる。斎藤に多彩な手札があるからこそ田淵はユニゾンに緻密な設計を要求し、斎藤は田淵の組み立てるフレームの中で自身の手札から最適なものをより尖らせてユニゾンに提供する。そんな異なる個性のせめぎ合いが、ユニゾンのユニークなサウンドを生んでいる(そして本稿の主題上触れてはいないが、バックに控える鈴木貴雄の懐の深いドラムがそういったせめぎ合いを可能にしていることは間違いない)。

 「現役で活躍しているバンドのメンバーが課外活動をする」というトピックは時として緊張感を孕むものである。今回のそれぞれの動きで、不安な気持ちになったユニゾンのファンももしかしたらいるのかもしれない。ただ、「ユニゾンのトレース」をするのではなく「自身のコアを磨き直すトライ」を進めたXIIXとTHE KEBABSのアウトプットは、それぞれの作品のクオリティの高さと合わせて「こんな作品を作れるメンバーがともに活動しているユニゾンの面白さ」を示すものでもあった。各自の個性と改めて向き合った今回のアクションを経て、今度はユニゾンとしてどんな作品が生まれるのかとても楽しみである。(レジー)

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