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北村匠海が振り返る10代の“戦い” 「正解を押しつけてくる大人に疑問を抱いていた」 

ぴあ

19/12/13(金) 8:00

北村匠海

実写じゃできないことを表現できるのがアニメの良さ

撮影/奥田耕平

宗田理のベストセラー作品であり、宮沢りえ主演で実写映画化もされた『ぼくらの七日間戦争』がアニメーションとなってリブートされる。本日から公開のアニメ映画『ぼくらの7日間戦争』は、舞台を2020年の北海道へと移し、現代を生きる少年少女たちが大人との“戦い”を経て成長する姿を描いた珠玉の青春ムービーだ。

「アニメーションの良さって、実写じゃなかなか表現できないものを表現できるところだと思うんです。今回の作品で言えば、やっぱり大人と戦うシーン。コミカルなところはコミカルに、芯をつくところはしっかり芯をついていて、こういうワクワクするような表現はアニメならではですよね」

そう主人公・鈴原守のCVを務めた北村匠海は声を弾ませる。アニメの声優に挑戦するのは、映画『HELLO WORLD』に続いて2度目。だが、前作はプレスコ(台詞を先に収録すること)で、共演者ともほとんど別々に収録したのに対し、今回は2日にわたってみんなと一緒にアフレコを行った。おかげで、本職の声優陣からも貴重なアドバイスをたくさんもらえたのだそう。

「たとえば近くの人と話しているシーンならマイクに近づいた方がいいし、声だけで広さや空気を表現しないといけないときはマイクから離れた方がいいとか。マイクとの距離のとり方だけで、リアリティが変わるんだということもみなさんから教えていただきました。普段歌のレコーディングをするときは、マイクとゼロ距離だから、こういうやり方もあるんだって新鮮で面白かったですね」

10代の頃は、早く大人になりたいと思っていた

撮影/奥田耕平

北村は本作を「10代の頃に漠然と抱えていた大人への反抗心を代弁してくれる作品」だと語る。自身も10代だったときは、大人への疑問と戦う時期を過ごした。

「大人って『こうしなさい』とか『こうあるべき』っていう自分たちの考えを言ってくるところがあると思うんですよ。それに対して疑問は抱いていたかもしれないですね。たとえば進路ひとつとっても、『大学へ行ったほうが良い』ってよく言うけれど、大学に行って何を得られるかはその人次第。大学に行くことがゴールじゃないだろうと思っていた部分はありました」

当時の自分を「勝手に大人びていた」と北村は振り返る。

「僕は8歳でこの世界に入って、大人の方と接することが多かったから、自然とそうなっちゃったところはあると思います。そう考えると、僕は僕で『こうあるべき』という枠にはまっていたんでしょうね。10代のときも、本当はカルチャー的なものが好きなのに、世間の目を気にして言えなかったりとか。そういう他の人から見た印象と本当の自分とのギャップにモヤモヤしていた時期もありました」

だからこそ当時から強く願っていた、早く大人になりたいと。

「自分の現状が嫌だったので、早く大人になって、周りの大人たちと社会的に対等になりたかった。10代の頃から早く20歳になりたかったし、20歳になったら今度は早く30歳になりたいって思っていました」

撮影/奥田耕平

現在22歳。未成年の枠から外れ、ひとりの成人として十分認められる年齢になった。今、自分のことを「大人になった」と感じることはあるのだろうか。

「18で初めて投票に行ったときは、勝手に大人な気分になりましたね(笑)」

そう照れ臭そうに笑ってから、そのミステリアスな眼差しに、すっとまっすぐな光が灯った。

「僕が最近出会った素敵な方々は、年齢的にも大人だし、言うことも大人なんですけど、子供の頃の気持ちを忘れていなくて、いくつになっても若いなって感じがするんです。そう考えると、大人かどうかなんて世の中が勝手に決めることなのかもしれないなと。自分で自分のことを大人だと自覚する必要もない。だから、あんまり自分で大人とか子供とか決めつけるのはやめにしました」

撮影/奥田耕平

作中、「大人になるということは、目上の人間の命令に従うことだ」といった台詞が登場する。

「この台詞は特にすごいエゴだなって思いました。でもきっとその人にとってはそれが正義というか、ずっとそうやって生きてきた。だから、それを否定する気もなくて。ルールや理性さえちゃんと守っていれば、あとは大人としてのあり方なんて人それぞれなんじゃないかなって」

大人になるとは、どういうことか。その問いに対し、北村匠海は考えを整理するように真摯に言葉を編みながら、自分なりの解をたぐり寄せていく。

「映画の中で、同級生の6人が自分の想いを吐き出すシーンがあるんですけど、あの瞬間、僕はみんながひとつ大人になったと感じたんです。人それぞれ思うことがあって、生きる人生があって。それぞれの想いは決して重ならないけど、つながり合うことはできる。相手を受け入れて、自分も受け入れてもらうことが、大人になるっていうことなんじゃないかと思いました」

他者を否定するのではなく、受け入れる。考えを押しつけるのではなく、異なる価値観を認め合う。多様性の時代を生きる22歳の北村らしい“大人論”だ。

17歳で夢を叶えて、17歳で夢を失った

撮影/奥田耕平

映画の中で、6人の高校生は“本当の自分”を模索する。SNSが発達し、誰もが自由に自分を編集・加工できる現代にふさわしいテーマだ。では、芸能界という華やかなステージに身を置く北村にとって、“本当の自分”を出せる場所は果たしてどこか。

「表に出る仕事である以上、架空の自分をつくり上げてしまっているところは確かにあるかもしれないです。誰にでもいい顔をしてしまうというか“本当の自分”を出せずにいたり、自分でつくり上げた架空の自分から抜け出せていないのかもしれないと思う瞬間もあって。そんな中で何も考えずにいられるのは、やっぱり家族と、十数年一緒にやってきたDISH//の仲間たち。自分の世界が広がれば広がるほど、長年自分のことを見てくれる人たちといる時間は大切だし、その大切さを見失いたくないなって思います」

守は、父親の仕事の都合で急遽引っ越しが決まった幼馴染みの千代野綾(声:芳根京子)の17歳の誕生日のためにバースデー・キャンプを計画する。北村にとっても17歳は特別な時間だった。

「僕、17歳のときにDISH//で日本武道館に立っているんですよ。ずっと武道館に立つことが夢だったからうれしい反面、こんなにも早く立ってしまっていいのかっていう葛藤もあって。まだ子供だった僕らは、武道館という大きなステージを与えてもらっているのに、どこか不安みたいなものを抱えていました」

撮影/奥田耕平

撮影/奥田耕平

夢の舞台に立てるだけの経験値がないことは、誰よりも自分たちがわかっていた。それでも、取り巻く大きな流れをせき止めることなどできるはずもない。17歳の北村は、夢と現実のはざまで戸惑っていた。

「武道館に立ったら立ったで、そのあと、これからどうしていこうと……今振り返ると、グループとしては停滞期に入っていたのかなあと。17歳は、夢を叶えた頂点の想い出から苦い想い出まで全部味わった1年でした」

北村匠海は、包み隠さない。自分の感じたこと、考えたことを、誤魔化さずに言葉にしていく。こうして17歳の頃の葛藤を明かせるのも、すべてを乗り越え、受け入れた今があるからだ。

「初めて武道館に立ったとき、DISH//は楽器を持っているエアバンドだったんです。でもそこからより自分たちのしたいことをやっていこうと決めて。みんなで楽器を練習して、いろんな音楽フェスに出たりした。今はやっと自分たちのことをバンドだって声を大にして言えるようになった気がします」

撮影/奥田耕平

今年4月に発売したアルバム『Junkfood Junction』では、あいみょんやUNISON SQUARE GARDENの田淵智也など豪華クリエイター陣が楽曲を提供。さらに、11月に配信された新曲『PM 5:30』では北村自ら作詞を担当するなど、充実した音楽活動を行っている。

「でももうDISH//のことを何と言われようが僕らには関係ないというか、DISH//はDISH//なんです」

そう胸を張れるのは、歩んできた道のりに確かな手応えを感じているからだ。

「今、自分たちは好きな音楽をやれている。そして、そこに対して探究心もある。それがすべてで。僕が今、DISH//を続けているのは、これからの自分たちに懸けているから。まだまだ僕らは年齢も若いし、技術もない。その中で、ちゃんとより良いものを目指して戦っていかなくちゃいけない。そういう自分たちに今、期待しているんです」

大人への疑問や反発心が渦巻いていた10代。揺れる胸の内と戦うことで、彼はひとつ大人になった。20代の北村匠海もまたいくつもの戸惑いや葛藤と戦っていくことになるだろう。そうやって人は豊かになる。年齢が、人を大人にさせるんじゃない。戦うことで、人は大人になっていく。

撮影/奥田耕平

撮影/奥田耕平

(撮影/奥田耕平、取材・文/横川良明)

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