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ヤなことそっとミュート、メジャーデビューまでの軌跡 出会いと別れが刻まれた『Afterglow / beyond the blue.』に見えるもの

リアルサウンド

20/3/25(水) 8:00

 歪んだ音、蠢く低音、けたたましく鳴らされるリズム。煌びやかさとは相反する退廃美、胸を抉る焦燥感ーー。どれを取ってみても、世間的なアイドルのイメージとはかけ離れたものであり、“陰”を感じさせる表情の奥から醸し出す神秘性は、ロックを武器とするアイドルの中でも異彩を放っている。

 そんなヤナミューこと、ヤなことそっとミュートがついにメジャーデビューした。

 2016年の結成以来、降り注ぐ轟音の中で彼女たちが魅せつけてきたものは、アイドルファンのみならず多くのロックファンの心をも動かした。2017年に渋谷WWW、マイナビBLITZ赤坂、2019年にはZepp DiverCity(TOKYO)と、着実に動員を広げていったワンマンライブが物語るように、インディーズアイドルシーンでの稀有な存在感を実力とともに確固たるものとしてきた。派手なプロモーションもなければ、奇抜な戦略があったわけでもない。ただひたすらに良質な楽曲と、他を圧倒するライブで魅了してきたのである。だからこそ、メジャーに行くことは必然であったし、長い間見守ってきたファンにとっては待ちに待った出来事だ。

 3月25日にリリースされたメジャーデビューシングル『Afterglow / beyond the blue.』は、静と動を司るバンドサウンドと、切なさを感じさせる歌が聴き手の心の隙間にスッと入り込んでくる。物悲しくて美しい、ヤナミューらしい2曲だ。

 「Afterglow」は、2018年6月、恵比寿リキッドルームにて行われた2周年ライブ『ヤなことそっとミュート 2nd Anniversary~YSM TWO~』で初披露されて以来、何度もライブで歌われてきた、ファンにとっても馴染みの深い楽曲である。しかし、ライブ音源は世に出ていたものの、スタジオ音源としてはリリースされていなかった。今回のメジャーデビューにあたり、まったくの新曲ではなく、こうした音源化が望まれていた既存曲を持ってきたことは、ファンの期待に応えることと同時に「メジャーに行っても変わらない」という意志を形で示したものでもあるだろう。

ヤなことそっとミュート – Afterglow

 イントロのピアノの調べが鳴った瞬間、楽曲に新たな息吹がもたらされたことに気づく。そこから、堰を切ったように一気に溢れ出していく轟音。目一杯に歪んでいながらも淀みを感じさせないギターと、優美なストリングスが混ざり合いながらとめどなく流れ出る。物憂げな歌声は、その歪んだ清流に溶け込みながら、次第に大きな強さを見せていくーー。この広闊とした幽玄な音世界を創り上げるために、「Afterglow」はこれまで2年近く、ずっとあたためられていたのかもしれない。そう思えるほどに美しく、気高い響きである。インディーズからメジャーというフィールドにスケールアップしたのだと、高らかに掲げているような音像だ。結成当初から貫き通してきた音楽性のまま、サウンドにこだわり続けてきたヤナミューらしい業である。

 ヤナミューの音楽はグランジやシューゲイザーといった、オルタナティブロックがベースにある。しかし、単に尖ったロックをアイドルが歌っているわけでもなければ、アイドルソングをロックテイストにアレンジしたわけでもない。硬派なロックの音楽性と、女性ボーカルの歌モノとしてのポップセンスの共存である。ロックファンを唸らせるサウンドと、“Female Vocal=女性ボーカル”ファンの胸を打つメロディが見事なまでに調和しているのだ。さらに4人の美麗なボーカリゼーションが絶妙なハーモニーを生み出しながら、シームレスにメロディを紡いでいく。

 優しく語りかけるように歌う間宮まにの澄んだ声、凛としていて力強くて、なのに突然消えてしまいそうな儚なさも漂わせるなでしこの声。そんな2人のコントラストの間を無邪気に行き来する南一花。クールな表情から発せられる凛つかさの色香。4人それぞれの歌声が、織り重なりながら楽曲の面差しをくっきりと浮かび上がらせていくのである。

ヤなことそっとミュート – レイライン【MV】

 もう一方の「beyond the blue.」はそうしたヤナミューの音楽的な魅力がより現れている曲だ。メランコリックなメロディをなぞっていたギターが、けたたましいサウンドへと変貌し激情をまさぐっていく。緩急のついたバンドアンサンブルに誘われ、切なさから毅然としたものへと変わっていく歌声の変化に恍惚感を覚える。そして、ふと思うのだ、「初めて聴くはずなのになんだか懐かしい」と。それはヤナミューの曲を聴いた時に多くの人が感じることなのかもしれない。「あの曲に似ている」とか、「ここのフレーズが」だとか、そういうことではない。なんとなくそういう“におい”を感じるのだ。自分が聴いてきたロックになぞらえたくなるし、昔よく聴いたアーティストや楽曲を思い出すような感覚に見舞われる。ヤナミューにはそうやって、聴き手の情緒さえも動かしていくような、不思議な力があるように思えてならない。

 ヤナミューの大きな魅力であるライブを言葉で表すのなら、“臨場感が暴れ出す轟音の洪水”である。綿密に練られた解像度の高いサウンドの構築美は、爆音で鳴らされることによって、より一層輝きを増す。特に、ワンマンや主催イベントなどで体感できる三半規管を狂わせるような低音と音圧を繰り出す音響は唯一無二。ただ音が大きいだけではない、バンドで作られたオケであるのに、バンドでは作ることのできない臨場感を形成していくのだ。加えて、2017年1月からは定期的にバンドセットでのライブも行っている。オケで高水準のライブを作ることのできるヤナミューにとって、バンドセットのライブがもたらしたもの、それはメンバーの表現者としての可能性が大きく引き出されたことだ。人間がその場で引き起こしていくグルーブ、間合い、バンドメンバーとの呼吸の合わせ方……という“生”の部分である。そうしてパフォーマンスに余裕と貫禄あるステージを見せるようになっていった。轟音の洪水の中で自由闊達に泳ぐ4人の白い少女は、息を飲むほど美しい。

Lily – THE GATE @Zepp Divercity – Yanakoto Sotto Mute【Live Movie】

 一般的にアイドルは自ら楽曲を作ることはないが、いつしか作り手の意図を超えるものになっていく時がある。やっている音楽をちゃんと理解して、しっかりと表現して、その上で自分たちのものへと昇華させていく。それができるアイドルは意外と少ないのかもしれない。それを高次に体現しているアイドルグループが、ヤなことそっとミュートである。

 「Afterglow」のMV。あざやかな青空とあでやかな夕焼け空、そして、光と影。オレンジと青、白と黒に彩られた世界。ちょうどこの曲が初披露された時に着ていた、あの頃のトレードマークでもあったポンチョをリファインした衣装をなびかせて歌う、白を纏った黒髪の彼女たち。その姿に、あれから2年近く経った月日を重ねてみる。あいだには、ずっと一緒に活動してきたレナとの別れがあり、いまとこれからを一緒に活動する凛つかさとの出会いがあった。

〈「また」はない さよならを知った〉(「Afterglow」)

〈さよならは 心の中でそっと言おう〉(「beyond the blue.」)

 「Afterglow」の一人称は〈僕〉で、「beyond the blue.」は〈私〉。ともに別れの歌である。ヤなことそっとミュートはそんな歌をメジャーデビュー曲に選んだ。この2つの別れの歌は、きっとこれからたくさんの人たちと出会う歌になるのだろう。

■冬将軍
音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログTwitter

ヤなことそっとミュート『Afterglow / beyond the blue.』

■リリース情報
メジャーデビューシングル
『Afterglow / beyond the blue.』
3月25日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)¥1,800(税抜)※スリーブケース付
通常盤(CD)¥1,000(税抜)

<CD収録曲>
1. Afterglow
2. beyond the blue.
3. Afterglow -Instrumental-
4. beyond the blue. -Instrumental-
※M3〜4は初回限定盤のみ収録

初回限定盤DVD収録内容
・Afterglow(Music Video)
・Afterglow(Music Video Behind The Scenes)

■ライブ情報
ヤなことそっとミュート『AFTERGLOW TOUR 2020』
4月11日(土)東京・リキッドルーム Open 17:15/Start 18:00
4月29日(水・祝)仙台・LIVE HOUSE enn 2nd Open 15:30/Start 16:00
5月2日(土)福岡・INSA Fukuoka Open 15:30/Start 16:00
5月16日(土)札幌・SOUND CREW Open 15:30/Start 16:00
5月29日(金)名古屋・HOLIDAY NEXT Open 18:30/Start 19:00
5月30日(土)大阪・AMERICAMURA DROP Open 15:30/Start 16:00
7月26日(日)東京・SHINJUKU BLAZE Open 17:15/Start 18:00

■関連リンク
ヤなことそっとミュート オフィシャルウェブサイト
オフィシャルTwitter(@YanakotoSM)
オフィシャルファンクラブ

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