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春日太一 実は洋画が好き

“ドラクエ的ファンタジー”『レジェンド 光と闇の伝説』を改めて観て気付いた新たな魅力

毎月連載

第34回

『レジェンド/光と闇の伝説』ブルーレイ<ディレクターズ・カット>発売中 © 2021 20th Century Studios. 発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン

前に『レディ・ホーク』を取り上げた際、「ゲーム『ドラゴンクエスト』的な中世ヨーロッパを模した世界を舞台にしたファンタジーに、子供の頃から目がなかった」という話を述べた。

その原稿を書いた後で、“そのものズバリ”な作品があることを思い出した。それが『レジェンド 光と闇の伝説』だ。

主演はトム・クルーズ。当時はアイドル的な人気バリバリで、その爽やかな二枚目の雰囲気がどうも苦手だった。小学生ながらにスタローンだったりルトガー・ハウアーだったりジーン・ハックマンが好きな身からすると、その好みとは対極だったのだ。そのため、『トップガン』も公開時には見逃してしまっている。

本作と出会うきっかけも、ここ数回の本連載で取り上げてきた作品と同じく、『スクリーン』か『ロードショー』誌の「今月のテレビ洋画劇場紹介」枠に掲載されていたスチール写真だった。

心惹かれた。鎧を身にまとった騎士風の青年=トム・クルーズに、美しい姫、クリーチャーたち──これはもう大好物の作品に違いない。何より、そのトム・クルーズの凛々しさだ。ゲームの世界から抜け出してきたかのような魅力が放たれていたのである。

すかさずテレビ放映で観たところ、これがまた写真で観て想像していた以上にめくるめく世界だった。

まず冒頭から素晴らしい。美しい森の中で展開される野生児のような青年・ジャック(トム・クルーズ)とリリー王女(ミア・サラー)との恋模様。ふたりの前でたわむれる雌雄二頭のユニコーン(一角獣)。トム・クルーズだけでなくミア・サラーもまた浮世離れした美貌で、光り輝くユニコーンや細部まで美しく作り込まれた背景とあいまって、一気にファンタジーの世界に引き込まれる。

ユニコーンの力を恐れる“闇の魔王”は手先のクリーチャーたちに抹殺を指示。雄ユニコーンは殺され、森は氷に閉ざされてしまう。姫も連れ去られてしまった。姫を助け出して世界を救うため、ジャックは光の玉と森の妖精たちに導かれながら魔王に立ち向かう。

物語の中盤は不気味な沼地や地下牢獄などでの危機の連続。それを時おりユーモアも交えたアクションとともにジャックは切り抜けていく。

今では考えられないほど、直球ど真ん中の王道ファンタジーのため、大人からすると観ていて厳しい部分もあるだろう。公開時も今も、評判は決して芳しくはない。

ただ、観ている間は外の世界を忘れることができる──そんな現実逃避を映画に求める身からすると、徹底して混じり気なしのファンタジーを構築した本作は、とてもありがたいものだった。この世界にずっと浸っていたい──そう思わせるものがあった。

特に目を見張ったのは、魔王が王女に惹かれて求婚する場面。ここで王女は魔力によりゴシック風の漆黒のドレスに着替えさせられ、メイクもゴシック風に変えさせられる。これがなんともエロティックな魅力にあふれ、それまでの清楚な感じから一転しての姿にドキッとしてしまった記憶がある。

「俺の望みは、ここに座って話をしてくれることだ」「こうやって一緒にいるだけで十分だ」という魔王らしからぬ王女への純な想いにも打たれるものがあり、なんなら王女にはこのままの姿で魔王と暮らしてほしい──とジャックの敗北を願ったりもした。

そして最後は魔王とジャックとの決闘シーン。実は今回、本作を取り上げようと思ったのはこの決闘のことを急に思い出したからだ。

本作を撮ったリドリー・スコット監督の最新作『最後の決闘裁判』もラストはふたりの中世騎士による決闘になっている。それは肉弾戦の趣すらある重々しく激しいアクションなのだが、それを観ているうちに「そういえば『レジェンド…』の最後もかなり迫力のある決闘だったような──」と頭をよぎったのだ。

現在公開中のリドリー・スコット監督の最新作『最後の決闘裁判』
(C)2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

ただ、なにぶん子供の頃の記憶だ。補正されている可能性は十分にある。そこで久しぶりに観てみたところ──これが、たしかに迫力十分だったのだ。剣と剣とが真っ向からぶつかり合い、そして追いつめられたジャックの大逆転。それは、ファンタジーだからといって奇想天外に走り過ぎることなく、リアルな重みの伝わるものになっていた。そのため、大人になって観ても、手に汗握った。

考えてみると、この剣闘の魅力はリドリー・スコット監督の代表作のひとつである『グラディエーター』もしかりである。デビュー作『デュエリスト 決闘者』からして剣闘に異様な執念を燃やす者の物語だ。

そうなると、彼は殺陣の演出の名手でもあるのかもしれない──と、本業に引き寄せて考えたりもした。

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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