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『パラサイト』驚異的な高稼働で大ヒット その理由は映画賞効果だけじゃない!?

リアルサウンド

20/1/16(木) 19:00

 先週末の映画動員ランキングは、『アナと雪の女王2』土日2日間で動員26万5000人、興収3億4500万円をあげて2週連続、通算6週目の1位に。初登場作品で最も上位につけたのは2位の『カイジ ファイナルゲーム』。土日2日間の動員24万8000人、興収3億6200万円という数字は、2011年11月に公開されたシリーズ前作『カイジ2 人生奪回ゲーム』の興収比103.5%という成績。公開初日から4日間では動員43万7000人、興収6億1600万円という好スタートを切っている。

参考:『パラサイト 半地下の家族』はポン・ジュノ監督の過去作と何が違う? 「異物=人間」が煽る不安

 しかし、先週末最も目を引くスタートとなったのは、上位作品の3分の1程度のスクリーン数となる131スクリーンで公開されて5位に初登場したポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』だろう。公開から4日間の興収は2億4795万円。昨年末からの一部劇場での先行上映を含めた13日(祝)までの興収は2億9625万円。カンヌ映画祭でのパルム・ドール受賞、日本の映画興行の慣習を打ち破る、独立系配給作品のTOHOシネマズでの先行上映による口コミ、監督と主演のソン・ガンホのプロモーション来日といった様々な要素が後押ししてのヒットということになるが、それは机上の分析に過ぎない。実際に劇場に足を運んでみると、思いがけない光景が広がっていた。

 熱心な映画ファンにとって、ポン・ジュノが現在最も重要な映画作家の一人であるのは周知のこと。実際に都市部(日比谷と梅田)のTOHOシネマズだけでおこなわれた先行上映を引っぱってきたのはその層が中心だったが、通常公開日を迎えて全国の劇場に押し寄せている観客には、年配の客層(特に女性)がかなりの割合を占めているようなのだ。実際に自分が足を運んだ1月13日(祝)の劇場も、当然のように満席で、その半分近くが中年以上の夫婦や女性の客だった。通常公開後の初めてのウィークデイに入ってからは、先週末のトップ2とはガラリと変わって『パラサイト』と『スター・ウォーズ』が首位争いしていることも、本来は『男はつらいよ お帰り 寅さん』に行きそうな客層まで『パラサイト』に流れていることを示唆している。

 『パラサイト』の幅広い層からの支持で見過ごせないのは、ソン・ガンホの人気だろう。先日の特別上映における舞台挨拶でも、ポン・ジュノ監督と並んでソン・ガンホが壇上に登場すると大きな歓声が湧いたという。2018年には、日本でも主演作『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』が異例のロングヒットを記録。映画スターとしての認知度は確実に広がっている。さらに、もともと年配の女性は、韓流ドラマを通して、むしろ若い層よりも韓国のフィクション作品に親しんできたことも大きいのではないだろうか。地方のレンタルDVDショップの品揃えに象徴的なように、日本全国で長年すっかり定着してきた韓流ドラマの視聴習慣からも、韓国のフィクション作品には本来大きな潜在的需要がある。都市型興行ではなく、一部の地方の劇場でも満席続きだという『パラサイト』は、その層にもさらにリーチしていく可能性が高い。

 配給の関係者から聞いた話で興味深かったのは、年配の方の中には、劇場の窓口でサブタイトルの『半地下の家族』の方を口にしてチケットを買い求めるお客さんも多いということ。自分のような映画の書き手は「別に英語タイトルと同じ『パラサイト』だけでいいじゃないか」みたいについ思ってしまうのだが、そういう話を聞くと、外国映画にわかりやすいサブタイトルがついていることの重要性がよくわかる。劇場の驚異的な高稼働を受けて、この週末にも多くのシネコンで最大スクリーンへの移行がおこなわれる見込みで、今後は上映館数自体も全国規模で増えていく予定だという。主要賞を含む6部門にノミネートされた米アカデミー賞の発表(2月10日)も控えていてる『パラサイト』。天井の見えない興行は、まだ始まったばかりだ。(宇野維正)

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