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ぴあ

いま、最高の一本に出会える

川本三郎の『映画のメリーゴーラウンド』

『寅次郎夕焼け小焼け』から…『赤とんぼ』の三木露風、映画に出てきた古本屋…、最後は松本清張原作『黒い画集 あるサラリーマンの証言』につながりました。

隔週連載

第36回

19/10/29(火)

 『男はつらいよ』シリーズの第十七作『寅次郎夕焼け小焼け』(1976年)では、渥美清演じる寅が、播州龍野を旅する。瓦屋根の家並みの残る古い城下町。とてもいい町だが、数年前、市名が、「たつの」とひらがなになったのは残念。「播州龍野」のほうがこの町には似合う。ここは童謡『赤とんぼ』の作詞者、三木露風の出身地。そのために『寅次郎夕焼け小焼け』の副題がついた。シリーズのなかでは評価が高い作品。
 その一因は、宇野重吉が演じる日本画の大家の面白さにある。寅が上野あたりの居酒屋で、金も持たずに飲み食いして女店員にとがめられた老人を助けて、とらやに連れ帰ってくる。哀れな年寄りと思っていたところ、あとで日本画の大家と分かって大いに驚く。
 それと分かったのは——。
 老人はとらやを宿屋と勘違いし、何日も家に帰らない。高いうなぎを食べて、その払いをとらやに払わせる。
 ついに寅が「他人の家に世話になっているんだから、少しは遠慮しろ」と説教する。老人は、はじめて、旅館ではないと知って恐縮して御礼のつもりで、画用紙に縁起ものの絵を描く。そして寅に、これを神田神保町の古本屋に持ってゆくと主人が、いくらか融通してくれるという。
 半信半疑で寅がその古本屋に行くと、主人(大滝秀治)が、絵に七万円払うというので寅は驚く。ここではじめて老人が高名な画家であることを知る。
 渥美清が神保町の古本屋街を歩くシーンはきちんとロケされている。村山書店、悠久堂の前あたりと思われる。大滝秀治が主人の古本屋「大雅堂」は架空。
 寅と本は一見、不似合いのようだが、縁がないわけではない。テキヤとしてよく本を売るから。
 第一作『男はつらいよ』(1969年、光本幸子主演)では、妹さくら、倍賞千恵子の見合いに付いてホテル(ニューオータニ)へゆき、相手の父親に「お仕事は?」と聞かれ「おもに本のセールスです」と答える。どんな本かとさらに聞かれると「法律、統計、その他、英語、催眠術、メンタルテスト、夢判断、シミ抜き法、心中もの、事件もの、いろいろですね」と答えるのが笑わせる。

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