Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

石川さゆりが語る、“歌うこと”へのモチベーション「みなさんの心や生活に寄り添える歌が歌えたら」

リアルサウンド

18/8/22(水) 12:00

 石川さゆりがこの夏、通算123作目のシングル『花が咲いている』をリリースした。プロデューサーに亀田誠治を迎え、作詞・作曲を水野良樹(いきものがかり)が担当したこの曲は、〈きっとだいじょうぶ きっとだいじょうぶ/くちずさんで唇 また噛みしめ〉というフレーズが心に残るミディアムナンバー。小豆島を舞台にしたカップリング曲「オリーブの島」(作詞:いしわたり淳治/作曲:水野良樹/編曲:亀田誠治)を含め、平成最後の夏を彩るシングルに仕上がっている。

 リアルサウンドでは石川さゆりにインタビューを行い、本作の制作過程、歌に対する姿勢などについて語ってもらった。(森朋之)

「“たかが”と“されど”を行ったり来たりするのが歌」

ーーニューシングル『花が咲いている』は、亀田誠治さんがプロデュースを担当。亀田さんとは以前からつながりがあったそうですね。

石川さゆり:(以下、石川)はい。林檎ちゃん(椎名林檎)と一緒に、あるライブを観に行ったときに亀田さんもいらっしゃっていて。初めましてと挨拶したのが最初だったと思います。その後、私のリサイタルや公演を何度か観てくださって、「いつか一緒に歌を作れたらいいですね」という話をしていたんです。それが今回、ようやく実現したということですね。

ーー「花が咲いている」の作詞・作曲は水野良樹さんです。

石川:水野さんも亀田さんのご紹介なんです。歌を作るときはいつも、作詞家、作曲家、アレンジャーなど、関わってくださる方々と話し合うんですね。今回もまず「私はいま、こういうことを考えているんだけど、どう思う?」と話をして。演歌、ポップスといったジャンル分けがあるけれど、そういう枠を超えて、平成から年号が変わる最後の夏にみんなの心に沁みていくような歌を作りましょうって。今年もいろいろな出来事があったし、いま、日本中が大変な時期だと思うんですね。そのせいかわからないけれど、みんながイライラしているような気もするんです。混んでる電車で少し肩が当たっただけでも、「ごめんなさい」「すみません」ではなく、チッと舌打ちが聞こえてきたり。ニュースを見ていても殺伐とした空気が感じられるし、寂しさや孤独を抱えてる人が多いのかなって。そういう気持ちをフッと解きほぐせる歌がいいよね、という話もしていました。

ーー現在の日本の雰囲気を汲み取ったうえで、観衆が必要としている歌を作るということですか?

石川:歌を作るというのは、そういうことだと思います。歌はいつも近くにいてくれる、小さくてささやかな文化だと思うんですね。大勢でも一人でも、嬉しいときも悲しいときも寂しいときもそばにいてくれて、「だよね」「わかるよ」って言ってくれる。それが歌のお役目なんだろうなって気がするんです。いまの時代のことを考えると、「がんばれ」っていう言葉はイヤだろうなと思ったんですよね。「花が咲いている」の歌詞は〈きっとだいじょうぶ〉がキーワードになっていて。誰も明日のことはわからないし、絶対に大丈夫とは言えない。でも、行き詰ってしまった今日にさよならして、〈きっとだいじょうぶ〉という言葉を胸に明日を迎えようよって。

ーーさゆりさんの包み込み、語りかけるような歌声も相まって、じんわりと沁みてくるような感覚がありました。

石川:私もこのフレーズがみなさんに届くといいなって思います。事務所のスタッフがね、この前、東北の“鬼剣舞”(岩手県)というお祭りに参加したんですよ。仕事が忙しくて思うように稽古ができなくて、本番前はすごく不安だったらしいんだけど、そのときに〈きっとだいじょうぶ〉って小さい声で歌ってたみたいで(笑)。そんなふうに、ちょっとした励ましや応援ができたらいいなとも思いますね。“たかが”と“されど”を行ったり来たりするのが歌だけど、そうやって誰かの力になれるとしたら、すごく素敵なことなので。

ーー最近はリスナーの趣味が細分化して、多くの人の心に届く曲が少なくなったとも言われていますが、この曲を聴くと「歌の力はまだまだ必要だ」と思います。

石川:かつては歌謡曲が歌謡曲として共有されて、街のなかでいっぱい流れる時代がありましたからね。いまは自分が好きな音楽をセレクトして、いつでもどこでも聴けるようになっているから、そこは確かに違いますよね。ただ、みんなが歌を求めていることには変わりないと思うんです。私ね、この前ロサンゼルスで初めてクラブというところに行ったんですよ。そうしたら、若い方たちが一緒になって、大きい声で歌っていたの。それがすごく楽しそうで、気持ち良さそうで。ふだんは違う生活をしていて、違う毎日を送っている人たちが、ひとつの場所に集まって、こうやって楽しそうにひとつの歌を歌って、踊っている。それを見たときに「やっぱり歌っていいじゃん!」って思ったんですよね。コンサートも同じじゃないかな。2,000人のお客さんの前で歌わせていただくときも、私は一人ひとりに向けて「あなたに」という気持ちで歌っているので。

ーーふだんはバラバラの人たちをひとつにしてくれるのが歌の力である、と。カップリング曲「オリーブの島」は、いしわたり淳治さんの作詞、水野さんの作曲による楽曲。小豆島を舞台にしたナンバーですね。

石川:33年前に、同じく小豆島を舞台にした「波止場しぐれ」という曲を作ったんですね。吉岡治さんの作詞、岡千秋さんの作曲だったんですが、リリース当時、小豆島でオリーブの木の植樹を現地のみなさんと一緒にやらせていただいて。今回、オリーブオイルのコマーシャルソングを歌わせていただくことになったときに、当時「平和、幸せの象徴であるオリーブがどんどん繁るといいですね」と話していたことをふと思い出して、オリーブの歌を作ったらどうだろう? と思ってたんです。それを亀田さんにお話したら、「さゆりさん、僕、子供の頃に家族で小豆島に行ったことがあるんですよ」って。曲を作る前に奥さんと小豆島に旅行して、少年の頃に家族写真を撮った場所を見つけて、同じポーズで撮った写真を送ってくださいました。作詞のいしわたりさんも、私たちに内緒で小豆島を旅行してきたみたいです(笑)。

ーー島の風景が自然と浮かんでくる楽曲ですよね。

石川:時は流れても、島の雰囲気は変わらないですからね。私がすごいなと感じたのは、お嫁に行くときの気持ちが描かれていることだったんです。〈何も知らない ふつつかものに/たしかなものは 愛ひとつだけ〉という思いは、昭和でも平成でも同じじゃないかなって。人生の新しいスタートを切ったばかりの若い方にも温かい気持ちで聴いていただけるだろうし、ブライダルソングとしても流していただけたら嬉しいですね。

ーー亀田さん、水野さん、いしわたりさんとのコラボレーションはどうでした?

石川:まず亀田さんは、すごく優しいんです。いつも温かいし、その場を包み込むようにして、みんなの良さを引き出すというのかな。レコーディング中もずっと楽しそうで、私が歌うと「いい!」って応援団のように支えてくれて。これが亀田流なんだなって実感しました。水野さん、いしわたりさんには、みなさんの毎日に染み込むような、または風のように渡っていくような歌詞を書いていただいたと思っています。おふたりとも“いま”を生きている方だし、ヒリヒリしたものを感じている年代だと思うんですよ。もっと年齢を重ねると達観できるというか、「大変なのはわかるよ。でも、過ぎてみれば“あんなこと、どうってことなかったな”と思うよ」と言えるようになるでしょうけど、水野さん、いしわたりさんはそうじゃなくて、痛みや悩みを感じている。それが歌詞にも出ていると思うんです。「吉岡治さん、阿久悠さんだったら、違う表現をしただろうな」というところもありましたが、それでいいんですよね。平成が終わろうとしているいまを生きているおふたりが書いてくださった言葉にボーカルを乗せたいと思ったので。

「ジャンルに縛られるのはつまらない」

ーーリリース日の8月15日にはLINE LIVEも行われました。

石川:歌の番組が少なくなったこともそうですけど、歌を伝える方法もどんどん変わってますからね。好き嫌いがあるのはしょうがないですけど、まずは聴いてもらわないと。スタッフのみなさんとお話しているときに「LINE LIVEをやりませんか?」という提案が出てきたときも、「聴いてもらえるのであれば」という感じだったんです。正直、聴いていただければどんな方法でもいいんですよ、私は。「いまはLINE LIVEですよ」と言われれば、「そうなの? じゃあやってみるわ」と楽しんで参加している感じですね。

ーー当日は箭内道彦さんとのトークも。箭内さんはシングル『花は咲いている』のビジュアル制作にも参加しているそうですね。

石川:箭内さんとお仕事をさせていただくのも初めてだったのですが、その縁もあって『(風とロック)芋煮会』に出演させていただくことになったんですよ。石川さゆりの歌を聴いたことがない、観たこともないという方もいらっしゃると思うんですが、箭内さんが「きっとお客さんにも楽しんでもらえると思います」と言ってくださって。「だったら出ちゃおうかな」って(笑)。イベントの趣旨も素晴らしいんですよね。もともとは東北のチャリティとして始まったものだし、今回は私の故郷の熊本の復興支援も加わっていて。あと、知り合いの方もたくさん出てるんですよ。亀田さん、池ちゃん(池田貴史/レキシ)も常連だし、以前からつながりがある方が多くて。私は音楽を通して一人ひとりと知り合ったんですが、俯瞰するとみんながつながってたっていう。お互いのライブに行ったり、一緒に歌を作ったり、いい時間を重ねて。気が合う人とは気が合うし、年齢や性別を超えてつながれるのは本当に素敵なことだし、「音楽ってええもんやなあ」と実感している今日この頃です(笑)。

ーー2010年を境にして、奥田民生さん、椎名林檎さんなど、さまざまなジャンルのアーティストとのコラボレーションが活発になったことも大きいのでは?

石川:そうですね。阿久悠さんが2007年にお亡くなりになられて、その後、三木(たかし)先生、吉岡先生も……。私の歌を作ってくださった方々がいなくなってしまったんです。「この先、どうやって歌を作っていこう?」と思っていた時期に、吉岡先生の奥様が「ウチのパパたちが新しい歌を作ることは二度とないのよ。でも、あなたはこれからも生きて、歌わなくちゃいけない」と言ってくださって。その後、つながりがあったアーティストのみなさんに「一緒に歌を作らない?」と声をかけて、『X -Cross-』というコラボレーションアルバムを作ったということですね。ジャンルに縛られるのはつまらないし、楽しくて気持ち良ければ、それでいいじゃないと思うんです。洋服を着たい日もあれば、着物を着たい日もあるのと同じで、いろいろな音楽を楽しみたいので。

ーー歌うことに対するモチベーションについてはどうですか?

石川:音楽との向き合い方はずっと同じかもしれないですね。デビューしたときは子供だったから、ただ一生懸命歌っていただけだし、「石川さゆりを覚えてほしい」「ヒット曲にしたい」という気持ちもありましたけどね。もちろん「ヒットさせたい」という思いは今もありますけど、これまで歌ってきた幸せと、これからやっていくべきお役目を考えることが増えてます、最近は。ここまで歌えたことは本当に感謝だし、歌を通して恩返ししたいな、と。自分自身の目標というよりも、いまの時代が歌、音楽に求めていることに反応したいという気持ちが強いですね。若いときは「ミュージカルの舞台に立ちたい」とか、いろいろな夢を持つじゃないですか。いまはそうじゃなくて、日本という場所のなかで、自分がやらせていただけること、おこがましいかもしれないけど、やらなくちゃいけないことを考えていきたいんですよね。そのうえで、みなさんの心や生活に寄り添える歌が歌えたらいいなって。こんなこと言うとすごく立派な感じがするけど(笑)、これが正直な気持ちです。

ーー自身の欲求よりも、与えられた役割を全うしたい、と。

石川:もちろん、私自身がやりたいこともありますよ。いま思っているのは、「花が咲いている」をたくさんの人と一緒に歌うこと。大きい声で歌ったら、楽しそうじゃない?

(取材・文=森朋之)

■リリース情報
『花が咲いている』
発売中
価格:1,300円(税込)

<収録曲>
M1.花が咲いている
M2.オリーブの島
M3.花が咲いている(オリジナル・カラオケ)
M4.オリーブの島(オリジナル・カラオケ)

Apple Music、レコチョク、Google Play Music、LINE MUSIC、Spotify、AWA、KKBOXほか、各音楽配信サイトにて配信中。

■関連リンク
石川さゆり オフィシャルサイト
石川さゆりレーベルサイト

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む