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淡い恋、失われぬ友情、恩師への感謝……『こち亀』読者の心を震わせた珠玉の感動回4選

リアルサウンド

20/12/29(火) 12:53

 『週刊少年ジャンプ』で長期連載され、多くのファンに愛される『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。その人気の秘密に、人々の心を震わせる感動のストーリーがある。

 両津のはちゃめちゃな振る舞いが魅力となっている『こち亀』だが、本稿では感動的なエピソードを振り返ってみたい。

光の球場(82巻)

 「光の球場」は1962年から1972年まで東京都荒川区にあった野球場、東京スタジアムを舞台とした話だ。昭和30年代、少年だった両津勘吉と父銀二は、下町のど真ん中にあった東京スタジアムに通っていた。両津は父の運転する自転車に乗りながら光り輝く球場を見ると、「うわあ、まぶしい」と声を上げる。

 両津は東京スタジアムを本拠地としていた大毎オリオンズファン。その熱は凄まじく、ベンチに上に乗って音頭をとるほど。そして足繫く通ったもう1つの理由が、ウグイス嬢の栗原さんに恋心を抱いていたことだった。球場を訪れては放送席へと顔を出す両津。ある日、そんな栗原さんが大毎の中心選手・日向と結婚することを知る。両津はショックを受け、球場に通うことを止めてしまった。

 それからしばらくして、サインをもらうため東京スタジアムの外にいた両津と友人たちは、大毎オリオンズの選手たちに遭遇する。日向が両津に声をかけると、幼き日の両津は「もうファンじゃない」「お姉ちゃんをとっちゃうなんて嫌いだ」と言って道へ飛び出す。

 すると両津は転倒し、車に轢かれそうになる。その瞬間日向が両津を救おうと飛び込み、自身が跳ねられてしまう。行動を悔いた両津は、神社に行き日向の回復を祈願する。そして栗原さんが退職する日、体調が万全ではない日向が病院から球場に向かい代打で登場。満身創痍の身体で照明に当てる大ホームランを放った。

 その後大毎オリオンズは経営不振に陥り、ロッテに身売り。球場もわずか10年で役目を終え、取り壊されてしまう。成長し学ランに身を包んだ両津は電車の中で跡地を見ながら、「もう壊されてしまったんだね、あの球場…」と寂しそうな顔を浮かべる。

 警察官となった両津は中川、麗子とともに跡地を訪れ、「わずか10年、光の如く現れ消えていった気がする」「まさに俺たち下町生まれにとって夢と光の球場だったなあ」と呟いた。

 両津のストーリーは架空だが、東京スタジアムが存在し、強い光を放っていたことや、大毎オリオンズが本拠地としていたこと、そして10年で閉場し取り壊されてしまったことなどは全て現実の話。そして、熱心なファンが残念な思いを抱えていることもまた、事実だ。

そんな切ない歴史を垣間見る事ができたストーリーだった。

浅草物語(57巻)

 両津が自転車で署を訪れると、護送される男と対面する。それは彼の幼馴染み、村瀬賢治という人物で、小学校一の天才と呼ばれ、よく遊んでいたものの、3年生の時に転校したかつての友人だった。

 そんな彼を目撃し「てっきり官僚にでもなるもんだと思っていた」と派出所で語る両津。村瀬がヤクザになってしまったことに、憤りを隠せない。数分後、護送中の村瀬が脱走したことを知った両津は、かつて2人が遊んだ浅草の路地に逃げたと確信し、探しに行く。

 するとそこには村瀬の姿が。かつての親友だが、村瀬は両津に銃口を向け、容赦なく発砲する。両津は銃弾を除け、殴り合いに。もみ合った際「何がお前を変えたのはか知らんが、人生を投げた時点でお前の負けだ」と諭す。

 「うるせえ」と聞く耳を持たない村瀬を両津も容赦なく投げ飛ばす。そして子供のころ両津がいじめっ子から村瀬を救ったエピソードを語り、そのとき「両ちゃんが悪人になっても僕が弁護士でずっと助けてあげるよ」と村瀬が声をかけていたことを話す。

 「世の中思い通りにならないもんだよな、両ちゃん」と話す村瀬と、「いってりゃ今頃総理大臣よ」と返す両津。村瀬は自身の行いを改め、自首することを約束する。両津は「もともと優秀な頭を持ってるんだ。いくらでもやり直せる」とエールを送る。

 村瀬は「寄りたいところがある」と、立ち去り、その後自首する。数日後両津は村瀬とタイムカプセルを埋めた場所に出向く。そこには掘り返された跡があり、村瀬が自首する前に後訪れていたことを知る。

 タイムカプセルの中には手紙が入っており、「勘のいいお前のことだからここを訪れているだろう」「25年前に戻らせやがって」「2001年に会うことを楽しみにしている」と書かれていた。2人は子供のころ、2001年にタイムカプセルを開けようと約束していたのだった。

 警察官とヤクザとして悲しい再開を果たしたかつての親友と、失われていなかった友情が感動的だった。

お化け煙突が消えた日(59巻)

 両津が小学生時代、担任のゲタ先生が入院してしまい、臨時で大学から佐伯羊子先生が教鞭をとるため赴任する。

 いたずら好きな両津は教室のドアを開くとバケツの水が落ちるいたずらを仕掛け成功するが、先生は怒るどころか泣いてしまう。その姿にショック受けた両津は、いたずらを仕掛けることを止めることにする。

 ある日かつて東京都足立区に存在していた火力発電所の煙突「お化け煙突」を見に行った両津は、佐伯先生と遭遇。そこで、あと3日で学校から離れることを告げられる。当日、お別れ会に姿を見せない両津といたずらグループの3人。佐伯先生は「何かあったのかしら」と心配する。

 3人はあるものを先生に見せるためお化け煙突に向かっており、敷地内中に入ると警察が「入ってはいかん」と止めてくる。ここで2人が警察を抑え、両津はお化け煙突のてっぺんめがげて走る。そして上から教室のカーテンで作った「佐伯先生どうもありがとう」と書かれた垂れ幕を広げ、電車で移動する先生に見せた。

 「一生分怒られた」という両津らいたずらグループは、久しぶりにお化け煙突の見える場所を訪れる。すると、3本あったはずが、2本しか見えないことに気が付く。近くに行ってみると煙突は鉄球で破壊されていたのだった。

 場面が現代に戻ると、お化け煙突の写真を見て驚く中川に両津は、「壊されるときはあっけないものだぞ。本当にお化けのようにすっと消えてしまったよ、あの煙突」「下町っこには、あの煙突は思い出だらけだよ」と語った。

 「お化け煙突」は東京都足立区に存在していた千住火力発電所の煙突で、付近住民に愛されており、解体が決まった際には反対する人も多かったという。そんな人々に愛された「お化け煙突」を垣間見ることができるエピソードだった。

シルバーツアー(45巻)

 町会長から敬老会でハワイに行く予定が、旅行会社に騙され、断念することになったと聞かされた両津。何とかハワイに行かせてやりたいとかけ合うが、予算は1人1万5000円で、とても行くことができないことを知る。

 それでも諦めない両津は、なんとかハワイ気分を味あわせてあげたいと一肌脱ぐ。一行をマイクロバスに乗せると、謎の添乗員「バッキー両津とアロハハワイアンズ」に変身。そして空港に偽造した航空博物館を訪れると、プロペラのジェット機に一行をエスコートする。

 飛行機の前方部分はバスの上に載せられており、移動を開始。この飛行機は、解体中だったのだ。そのまま飛行機を上部に乗せたバスは神奈川県の三浦海岸へ。途中、飛行していると偽装するため、ハワイ諸島の写真を窓一面に見せる努力も行う。

 三浦海岸につくと、サーファーを「てめえら向こういけ」と蹴散らし、ハワイ感を演出。「あそこに見えるのがダイヤモンドヘッドです」と説明する両津だったが、参加者は「江ノ島に似てるなあ」とポツリ。カメハメハ大王像もなぜかちょんまげをしており、それを突っ込まれるが、「ガイドブックが戦前のもの」と破り捨てた。

 この後も免税ショップの存在を聞かれ、「代理で買ってくる」と言って麗子に買わせた両津。予約でホテルの一番高い部屋に泊まってしまう、酒を飲んでしまえばわからないと毎回宴会をするなどして、経費が300万円かかり、ハワイに行くのと変わらなくなってしまった。

 数日後、詐欺をした旅行会社が捕まり、騙された金額が返ってきたことを中川に明かす部長。「戻った金でハワイに行けますね」と笑う中川に部長は「いや、敬老会のご厚意ですべて両津にあげることに決めたらしい」「本物のハワイ旅行より楽しかったそうだ。あいつもたまには人に喜ばれるようなことするんだな」と話す。

 キャビンアテンダント役などで協力した麗子も「気づいていたのね、ここはハワイだって騒いでいたのは両ちゃんだけですものね」と笑った。

 破天荒に見える両津が、詐欺を受けた高齢者をなんとか楽しませようとする優しさと、両津の気持ちを推し量り、嘘と知りながらも最後まで楽しみ、お金を返還した敬老会。両者の思いやりが垣間見える心温まるエピソードだった。

『こち亀』を読んで明るい気持ちで新年を!

暗いニュースが多く気持ちが滅入ってしまう昨今のご時世。不朽の名作『こち亀』の心温まるエピソードを読み、少しでも明るい気持ちで新しい年を迎えたいものである。

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