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銀行を中心に拡大する“池井戸潤ドラマユニバース” 『下町ロケット』白水銀行を起点に考える

リアルサウンド

20/4/12(日) 10:00

 『下町ロケット 特別総集編』(TBS系)第2回が4月12日に放送される。2015年に放送された日曜劇場『下町ロケット』の原作は、作家・池井戸潤の同名小説。メガバンク出身の同氏の作品では、融資をめぐる銀行との交渉が見どころのひとつとなっている。

参考:阿部寛主演作はなぜシリーズ化される? 進化する姿を捉えた『下町ロケット』などから探る

 『下町ロケット』の主な舞台となる佃製作所のメインバンクが白水銀行だ。蒲田支店融資課長の柳井(春風亭昇太)と支店長の根木(東国原英夫)は、佃航平(阿部寛)からの融資の依頼を断るが、後に佃製作所がナカシマ工業との特許侵害訴訟で高額の和解金を得ると態度を一変させる。最終的に佃製作所は、メインバンクを東京中央銀行に乗り換えることになる。

 資金の貸し倒れが生じないように財務状況をモニターする銀行は、企業のお目付け役とも言える存在。行員の出向は融資先の監視も兼ねている。佃製作所の経理部長・殿村直弘(立川談春)も出向者だ。最初は銀行のスパイとして、殿村に不信感を抱いていた社員たちだったが、誠実に社長を支える殿村を目にして次第に心を通わせるようになった。

 中小企業を舞台にした作品では、2013年に放送された『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)青島製作所のメインバンクも白水銀行である。峰竜太演じる西東京支店の磯部支店長は収支改善のため野球部の廃部を求め、会社存続と生き残りを賭けた野球部の挑戦がドラマの両軸になった。2014年放送の『株価暴落』(WOWOW)も主人公・板東洋史(織田裕二)は審査部所属の行員であり、白水銀行は池井戸作品の重要なピースを担っている。

 白水銀行のライバルが東京中央銀行である。『陸王』(TBS系)最終話で、こはぜ屋の新たなメインバンクとなった東京中央銀行は、国内最大手のメガバンクであり、池井戸の出身銀行を想起させる。

 この東京中央銀行を舞台にしたドラマが『半沢直樹』(TBS系)だ。同行の前身、産業中央銀行と東京第一銀行は2002年に合併。いわゆる「バブル組」と呼ばれる半沢直樹(堺雅人)と渡真利忍(及川光博)、近藤直弼(滝藤賢一)たちは、1989年に旧・産業中央銀行に入行した同期である。

 近日放送予定の『半沢直樹』第2シーズンの原作は『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』。後者は、銀行内の派閥対立を描いた作品である。頭取の中野渡謙(北大路欣也)は東京第一銀行出身で、かつて半沢の父を自殺に追い込んだ元常務で取締役の大和田暁(香川照之)は産業中央銀行出身。新シーズンでは2人の関係性にも注目したい。

 主人公の半沢は、前シーズンでは大阪西支店の融資課長から東京本部の営業第二部次長に昇進したが、最終話で中野渡から出向を命じられた。これは実質的な左遷にあたる。新シーズンでは、東京セントラル証券の営業企画部長として企業買収に挑む。

 旧産業中央銀行を舞台にしたドラマには、この他に向井理と斎藤工のダブルキャストによる『アキラとあきら』(WOWOW)がある。産業中央銀行同期で同じ名前を持つ2人の交錯する30年間を描いた同作には『半沢直樹』前夜といった趣が漂う。

 旧東京第一銀行については、2シーズンにわたって放送された『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)が有名だ。支店統括部臨店班に所属する花咲舞(杏)が行内の問題解決に奔走するドラマの原作は小説『不祥事』と続編の『花咲舞が黙ってない』で、時系列的には合併前のエピソードが中心になっている。

 ドラマと同名のタイトルを冠した原作版『花咲舞が黙ってない』は『半沢直樹』とも関連が深い一冊。所収の「湯けむりの攻防」には合併交渉の場面に半沢直樹その人が登場する。また、東京第一銀行の暗部をえぐる「汚れた水に棲む魚」には『銀翼のイカロス』で重要な役割を担う旧T(東京第一銀行)派閥の重鎮も登場する。

 ただし、これらはあくまでも小説上の趣向にとどまるだろう。現時点で『半沢直樹』新シーズンの登場人物は原作からの変更点も多く、花咲舞たちが登場する可能性は乏しい。それらも踏まえて、ドラマ版が原作の設定をどのように取り込んでいるか比較してみてもいいかもしれない。

 この他に『半沢直樹』では、三大メガバンクとして東京中央や白水とともに大同銀行の名前も登場するが、半沢の天敵である金融庁主任検査官の黒崎駿一(片岡愛之助)によって追い込まれ、破綻したとされている。

 銀行を中心にした企業社会を描く池井戸潤原作ドラマで、相互に関連するストーリーは、ゆるやかにまた緊密につながる社会のありようを表わしているようだ。魅力的な登場人物たちが銀行を介して「池井戸ワールド」のどこかで出会っている可能性も考えられる。それらに思いをはせることで物語の奥行きが増し、より味わい深いエピソードになることは間違いない。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。

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