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『IWGP』制作も手がける動画工房、地力の源泉は育成にあり? 幅広い活動とその歴史を振り返る

リアルサウンド

19/10/3(木) 10:00

 過日、石田衣良原作の小説『池袋ウエストゲートパーク(IWGP)』のアニメ化が発表された。90年代後半に刊行され、2000年代を代表する青春小説であり、かつて宮藤官九郎の脚本によってTVドラマ化され人気を博したこのシリーズが再び脚光を浴びることとなった。

参考:詳細はこちらから

 池袋を舞台に、マイノリティにスポットを宛てたこの作品が、社会の階層化がゼロ年代よりも一層進んだ2020年にどのように描かれるのか、ファンならずとも興味深いところだ。このIWGPのアニメ化を請け負うのは動画工房という制作会社だ。IWGPがアニメ化されること自体に驚いた人も多かったが、それを動画工房が手掛けることに驚いた人も少なからずいたようだ。

 動画工房といえば、『ゆるゆり』や『GJ部!』、『NEW GAME!』など美少女キャラクターのゆるい日常を描いた、いわゆる「日常もの」で有名な会社だ。売春や殺人、麻薬や抗争などハードな内容のIWGPと動画工房の得意としてきた作風とはイメージが異なる点に驚きの源泉があったようだ。

 しかし、動画工房は長い歴史を持つ老舗のアニメーション制作会社であり、その確かな実力によってアニメファンの支持を獲得してきた会社だ。沿革を紐解けば様々なタイプの作品に携わり、確かな評価を得てきた会社であることがわかる。そんな動画工房の魅力について書いてみたい。

・『ゆるゆり』で深夜アニメの雄に
 実写映画やドラマで、制作会社や配給会社によって鑑賞作品を選ぶ人は多くないかもしれない。実写作品では会社名よりも監督や役者の名前の方が集客に関して圧倒的に重要だ。しかし、アニメの場合、ファンは監督や出演者やスタッフとともに、制作会社の名前で鑑賞作品を選ぶことも多い。京都アニメーションやufotableの作品だから観る、という視聴行動はアニメファンにとって珍しくない。製作会社が監督名などと同様、ブランドとして認知されているのだ。熱心な映画ファンなら近年秀作を作り続けているA24の作品なら必ず観るという人もいるかもしれないが。

 動画工房も、アニメファンの信頼度の高い制作会社ブランドの一つである。1970年代に設立された老舗スタジオの一つであるが、2000年代後半からTVアニメの元請けとして頭角を現し、テン年代に入って多くのヒットアニメを制作している。

 元請けとして認知される以前からその実力に定評があり、『風の谷のナウシカ』や『ハウルの動く城』などのスタジオジブリ作品や、『ポケットモンスター』などの人気TVアニメの制作協力として名を連ねていたが、動画工房の名前がブランドとしてアニメファンに広く認知されたのは、2011年放送の『ゆるゆり』だ。「ごらく部」に所属する4人の女子中学生を中心に女の子たちのまったりした日常を描くこの作品によって、動画工房は「日常もの」ジャンルのヒットメイカーとしての地位を確立してゆく。シリーズを通して安定した作画と美少女キャラの可愛さが際立っており、以降の動画工房の歩みを決定づけた作品と言えるだろう。その後、動画工房は『GJ部!』『未確認で進行形』などの日常ものから、『月刊少女野崎くん』などのラブコメを多数制作。2019年夏にも筋トレに励む女子高生たちをコミカルに描いた『ダンベル何キロ持てる?』がアニメファンの間で話題になっている。

 『ダンベル何キロ持てる?』は、筆者も毎週楽しみにしていた。毎週質の高いアニメーションを維持しているし、展開のテンポが良くて引き込まれる。描くのが手間がかかりそうな真に迫った筋肉の描写が見事だ。この作品の山崎みつえ監督は、『月刊少女野崎くん』や『多田くんは恋をしない』で動画工房の作品の監督を務めているが、小気味よい作風にセンスを感じており、個人的に注目しているアニメ監督の1人だ。

 『NEW GAME!』や『ゆるゆり』などを観ると生活の基本動作などの日常芝居が非常に細やかだ。「日常もの」はささいな日常にドラマを見出すジャンルだが、キャラクターの性格や感情の揺れをささいな生活感の中に滲み出すのが動画工房はとても上手い。そしてそれを毎週続けることができる安定感が、アニメファンの信頼を勝ち得た要因だろう。

・人材育成が動画工房の実力の源泉
 動画工房は今でこそ日常ものアニメのトップランナーというイメージが強いが、その長い会社の歴史の中で、制作協力という形で様々な作品を手がけている。前述したようにスタジオジブリの作品にも参加しているし、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』、子供向けアニメの『かいけつゾロリ』や『ポケットモンスター』に『ドラゴンボール』など多数の有名TVアニメを手掛けてきた実績がある。

 元請け作品としても日常もの以外に、オリジナルのロボットアニメ『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』や時代劇アクション『曇天に笑う』など幅広い作品を制作している。浮き沈みあるアニメ業界で長く会社を続けてきただけあって、地力のある制作会社なのだ。

 そうした地力の源泉は、やはり育成に力を入れてきたことにあるだろう。会社公式サイトでも一貫して人材育成に力を入れてきたと自負しているが(参考)、近年も、FUN’S PROJECTと共同で学生や若手アニメーター向けの動画学習教材「アニメータードリル」を開発したりと後進の育成に力を注いでいる(参照:新人アニメーター養成教材「アニメータードリル」の効果はいかに?「動画工房」の新人アニメーターが使った結果)。

 ちなみに、NHK朝の連続TV小説『なつぞら』の主人公のモデルになった奥山玲子氏が、かつて新人指導にあたっていた時期もあるそうだ(『日本のアニメーションを築いた人々』叶精二/若草書房、P.106)。また五味洋子氏も、初代社長の石黒育氏の丁寧な指導を日記で述懐しているなど(参照:アニメーション思い出がたり[五味洋子] その53 アド5の頃)、初期の頃から人材育成に力を注いできたことが伺える。

 20世紀に創業し、人材をコツコツと育て上げ、日常アニメで名を上げるなど、動画工房の沿革は京都アニメーションを彷彿とさせる。IWGPは、動画工房にとってこれまでのイメージを刷新するターニングポイントになるかもしれない。確かな実力を持った会社なので、どんな作品に仕上がるのか楽しみだ。 (文=杉本穂高)

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