海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔
マット・デイモン
連載
第64回
── 今回はマット・デイモンをお願いします。リドリー・スコットの新作『最後の決闘裁判』では主演・共同脚本・製作と大活躍しています。彼の古くからの友人であるベン・アフレックとの共同脚本&製作で、彼も出演していますね。
渡辺 『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(98)のときもふたりで脚本を書き、アカデミー脚本賞を受賞しています。なんでもそれ以来のコラボレーションになるそうです。当初はマットとベンのダブル主演のはずだったのですが、ベンが他の仕事との兼ね合いで脇に回り、代わりに“カイロ・レン”ことアダム・ドライバーが参加したようです。
監督がリドリー・スコットになったのは、『オデッセイ』(15)で組んだことのあるマットがスコットに依頼したそうです。とても正しいチョイスですよね。スコットは、この時代が大好きなので。
本作で描かれているのは14世紀のフランスで実際に起きた決闘裁判の顛末です。カルージュという騎士が、伯爵の寵愛を受けているかつての友人ル・グリを、妻のマルグリットを暴行した罪で訴え、決闘裁判になるというお話です。すぐに激昂して出世に焦り気味の騎士カルージュをマット、賢くしたたかなル・グリをアダム、美しく聡明なマルグリットを『キリング・イブ/Killing Eve』で注目された英国女優ジョディ・カマー、ル・グリを贔屓にする伯爵にベンというキャスティング。
暴行されたと訴えるのはマルグリットで、ル・グリはそれを否定。カルージュは自分の面子をかけて訴えるわけです。映画はこの3人の視点で事件に至るまでを描いているのがミソ。いわゆる“藪の中”です。
── それは面白そうですね!
渡辺 とても面白いです。今まで映画では描かれてこなかった中世のしきたりや価値観が、さすがスコットのリアルなタッチで描かれていて、多くの発見がありました。3つのエピソードが重なる部分ももちろんあるんですが、それでも2時間33分まったく退屈しない。タイトルになっている“最後の決闘”シーンは甲冑と甲冑のぶつかり合いが大迫力で、久々にハラハラしてしまいましたね。
── マットくんはかっこいいんですか?
渡辺 いえ、まったく(笑)。家柄は悪くないのに、出世が上手くいかずに常に焦りまくって、ついつい好機を逃してしまうというタイプです。唯一、思いどおりにいったのがマルグリットとの結婚でしょうか。だから、わりと愚直に彼女を好きな感じもする。ただ、愛しているかというと分からない。ル・グリもマルグリットに「マイ・ラバー」とか言うわりにはぞんざいな扱いで、その辺にも当時の愛情の在り方、女性の立場が透けて見えるような気がしました。
で、マットくんは、もしかしたらこれまで彼が演じたさまざまなキャラクターの中で、ある意味、もっとも単純な男かもしれない。だから、反対にとても新鮮でしたね。
── マットくんはどの映画で注目されたんですか?
渡辺 『戦火の勇気』(96)というメグ・ライアンが出ていた湾岸戦争映画で、精神的におかしくなる衛生兵を演じていました。当時の日本の洋画界は、レオナルド・ディカプリオに続くハリウッドの若手スターを探していたので、マットくんもそのひとりとして映画雑誌などはプッシュしていましたが、なかなか難しかった。声はすてきでしたが、ルックスはレオというわけではなかったので。
その後、『グッド・ウィル・ハンティング』で脚本の才能もあることを証明し、フランシス・フォード・コッポラの『レインメーカー』(97)に主演したり、スピルバーグの『プライベート・ライアン』(98)に出たりしていましたが、その努力も『リプリー』(99)でおじゃんになっちゃった。
── そうなんですか?
渡辺 私はそう思っています(笑)。これは『太陽がいっぱい』(60)の原作、パトリシア・ハイスミスのトム・リプリー・シリーズの1作目の映画で、より原作に近いんですよ。マットくんはアラン・ドロンが演じたトム・リプリーを演じているんですが、覚えているのは眼鏡と黄緑色の海パン。とりわけこの海パン姿は衝撃的で、当時は「マット、スターの地位を捨てたね」なんて言われていたくらいです(笑)。
── そう言われると、反対に観たくなります(笑)。そのとき、インタビューしたんですか?
※マットが「この映画に出ていなかったから、僕はハリウッドから消えていたかもしれない」と語る作品についてや、今は亡きヒース・レジャーとのエピソードなど、続きは無料のアプリ版でお読みください!