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中村蒼が振り返る、『エール』“村野鉄男”としての1年間 「大切なことを気づかせてくれた」

リアルサウンド

20/11/13(金) 6:00

 NHK連続テレビ小説『エール』も最終回まで残すところあと2週となった。裕一(窪田正孝)と音(二階堂ふみ)を中心に戦後をたくましく生きる登場人物たちの姿が描かれているが、第22週で主役の1人となったのが、中村蒼が演じる村野鉄男だ。生き別れた弟・典男(泉澤祐希)との再会シーンは多くの視聴者の涙を誘った。中村が鉄男をどんな思いで演じていたのか。約1年にわたる撮影を終えた先日、話を聞いた。

『エール』は大切なことを気づかせてくれる作品

ーー昨年10月にクランクインして、10月29日についにクランクアップを迎えました。1年以上にわたる撮影となりましたが、終えてみていかがでしょうか。

中村蒼(以下、中村):窪田(正孝)さんはもちろん、制作に深く関わっている方々の気持ちは計り知れないものだと思いますが、僕ぐらいの立ち位置の人間でも精神的にくるものがありました。撮影が最後まで終わることができて本当によかったなと、終わった瞬間にそう思いました。窪田さんをはじめとする才能溢れる方々と共演できたことがうれしくて、今後自信を持って新たな現場に行けるんじゃないかなと思えるくらい、貴重な1年を過ごすことができました。

ーー精神的にくるというのは?

中村:撮影が2カ月ないというのは初めての経験でした。『エール』という作品を心から面白いなと思いながら撮影していたので、もしかしたら日の目を見ない可能性もあるかと思うと、不安な日々でした。

ーー新型コロナウイルスの感染拡大という誰もが予想だにしない事態が起きました。エンタメ業界は不要不急であるとされる一方で、誰にとっても欠かせない存在だなと改めて感じるきっかにもなったように思います。

中村:そうですね。まさに自分の仕事は必要なのかどうかというのは考えました。『エール』は「福島から日本を元気に」というのが当初のテーマでしたが、こんな状況になり、いろんなものとシンクロして考える方が多かったのではないかと思います。僕自身も、こんなにも他人を思う気持ちが大切なんだって気付けたというか。自分は多くの人に支えられていることに気づかせてくれる作品でもありました。

ーー放送休止中は副音声付きの再放送がオンエアとなっていました。中村さんも鉄男としてガイドを担当されていました。

中村:再放送のときは僕も副音声付きで観られるときは観ていて、ナイスアイデアって感じでした(笑)。視聴者の方々にも、また新たな発見があったのではないでしょうか。僕も出ているはずなのにいち視聴者として楽しんでいたので、撮影休止中の2カ月間は、『エール』に助けられた部分も大いにあります。

ーー第1話で鉄男が藤堂先生(森山直太朗)の墓前に手を合わせるシーンは、再放送当時大きな話題になりました。

中村:藤堂先生のお墓なんだって2回目で気づいた方もいたそうで。第1話なのでソワソワしながら観るじゃないですか。そういう新たな発見もあるんだなと思いましたね。

ーー第18週「戦場の歌」では藤堂先生の死とビルマでの現実が、まるで戦争映画のように生々しく描かれました。

中村:窪田さんが、「撮影していてもスケールが大きくて、戦争映画を撮っているような感覚になった」と言っていたんです。第18週を観て、亡くなった藤堂先生のそばにいられなかったのが鉄男としても悔しいという気持ちになりましたね。鉄男はこれまで戦争に対しては俯瞰して見ていて、のめり込むことなく冷静に裕一を引きとめようとするシーンがあったと思うんですけど、今まで否定し続けていた戦争にある種加担する歌詞を書く立場に変わっていくのが戦争の恐ろしさだと感じました。

ーー第18週の戦争シーンは、撮影休止明けで序盤に撮られたシーンであり、製作陣も並々ならぬ思いがあったと聞いています。中村さんとしても心境の変化はありましたか?

中村:撮影休止明けに僕が初めて撮ったシーンが鉄男が「暁に祈る」の詞を書くシーンだったんです。より気合の必要なシーンだったので大変でした。撮休中は完全に仕事のことを忘れて生活していたので、結果的に腐ることなく家族と充実した2カ月を過ごすことができたんですけど、その分そこから一気に戻すのは難しくて、無理やり演じて頑張りました。慣れない感染防止策を守りながらのお芝居も難しかったですね。

窪田正孝、山崎育三郎との共演はかけがえのない財産

ーー改めて、中村さんにとって鉄男はどんな人間ですか。

中村:最初にお話をいただいた時は、福島三羽ガラスの一人でガキ大将で逞しい人間だっていうのを聞いていて、自分はこういった人生を歩んでいなかったので大丈夫かなと。朝ドラに出られることはうれしいですけど、多くの人に知られる喜びとダメな自分を1年間晒すことになるリスクもあるので(笑)。鉄男は、裕一や久志に比べれば飛び抜けた才能があるわけでもなく。作詞家という夢のために生きるけど、まずは新聞社として、次はおでん屋として働くように、人の懐に入るのが上手で、堅実な男なんだろうなと思います。だからこそ、誰もが故郷や家族を思う気持ちを詞で表現できたんじゃないかと思いますね。

ーー鉄男を演じる上で自分自身とギャップを感じたり、似通っていると思う部分はありますか?

中村:自分と違う部分は鉄男の真っ直ぐで、人を熱く説得したりする部分は自分にはないところですし、羨ましいなと思いながら演じていました。川俣で裕一に「なんで音楽辞めたんだ。諦めるな」って説得するところから始まったんですけど。通ずる部分は、自分のことはあんまり言わない、自分の悩みは自分で解決するところは似てるかなと思いますかね。自分も自己解決することが多いというか、誰かにアドバイスをもらうことはないので。だから、裕一のような天才に共感することはなかなかないですけど、彼の自問自答する姿を僕は共感しながら観ていました。

ーー窪田さんと山崎育三郎さんとの福島三羽ガラスの魅力は?

中村:福島三羽ガラスの関係性を羨ましく思っています。同郷の同級生で、同じ業界に入って、歌を歌う人、曲を作る人、詞を書く人っていう、ちょうど3人が違う職業で。才能があって天才でそれでも自分に自信が持てなくて俯き気味になってしまう裕一を鉄男と久志が支えて。久志には華があるんですよね。鉄男と裕一が作ったものをより多くの人に届けるパワーを持った人だと思います。鉄男からしたら2人は先に売れたし、前を走ってくれていたおかげで腐らずに何年かかってでも、頑張ってこられたんじゃないかと思います。お互いがお互いを支え合って走り続けられたのかなと。役じゃない部分だと窪田さんと育さんとは1年もやったんですけど、正直これといった話は……(笑)。でも、仲は良くなりました。いい大人なのではしゃぎはしませんし、たわいもない話をしたり、コロナ禍や選挙について真面目に語ったり。台本とか健康についてとか、時期も時期だったので。

ーー2人がいたから頑張れたというのも。

中村:あります。2人は偉大な先輩で、窪田さんはこういう人が朝ドラの主演をやる方だと思いましたし、裕一とは違い窪田さんはどっちかというと男臭い人で。以前、窪田さんとは映画のワークショップで一緒だったことがあるんです。僕がまだ10代だったので、窪田さんは20歳ぐらいだったのかな。そのワークショップが、僕には耐え切れないくらいにピリピリしていて……(笑)。僕は窪田さんのことを知っていて、言い争うシーンになったんです。だんだんと本当に怒っているんじゃないかってくらいに、窪田さんがヒートアップしていって。そこから何年も会ってなくて、ちょっとハラハラしてたんですけど、今回現場に入ったらすごく優しくて。ワークショップのことを話したら覚えてるって言って、「あれは腕を思いっきり捻られたかなんかで、すごい腹立っちゃって本当に怒っちゃったんだよ」って……(笑)。本気だったんだって思いましたし、人前で本気で演技にぶつかれるって素晴らしいなと思って。窪田さんは普段はニコニコしていて、スタッフさんともコミュニケーションを取りながら、かといって騒ぎ過ぎないでちょうどいい。育さんは歌も芝居も上手くて、久志をより大きく、愛されるキャラクターにした。そんな2人と1年もやれたっていうのは楽しかったですし、僕としては相当な緊張感を持って演じていましたね。

ーー『エール』に出られたことは、これからの財産になったのではないですか?

中村:本当にかけがえのない財産になりました。1年間同じ役をやれるっていうのは滅多にないことですし、『エール』にはお芝居の実力がとんでもない方々が出られていて、食らいついてやってきたのは大きな自信になると思いますね。

ーー福島弁はもう抜けてしまいましたか?

中村:別の作品の撮影中に「めっちゃ訛ってる」と言われ、それがどうしても直らなくって。こんなにも福島弁が自分に浸透しているのかとびっくりしました。

ーー1年間の撮影を通じて福島への思いも強くなったのでは?

中村:福島の人たちは支え合って生きていて、すごく団結していると思うんです。『エール』は登場人物が支え合って生きていくのがテーマなので、まさに福島の魅力が詰まっている。日本を通じて、世界がそれを求めている世の中なので、ぴったりだったんじゃないかなと思いますね。

「鉄男の家族が描かれるプレッシャー」

ーー第22週「ふるさとに響く歌」では、鉄男に焦点が当たりました。

中村:全体から10回分がコロナで削られる中、鉄男の家族が描かれることにプレッシャーもありました。これまでにも家族について話すシーンがあったりして鉄男の過去は個人的にも気になっていたので、台本となって表現されてうれしかったです。家族というものが描かれていくんですけど、仲の良い家族もいれば、複雑な家庭環境の人、血が繋がっているからこそ憎しみが深かったりもするし、血が繋がっていなくても心と心で通じ合って家族と呼ぶ人もいる。一言では表現できないのが家族だなと思っていて。鉄男はまさに複雑な家庭環境で育った人間で、「暁に祈る」は家族を思う詞だったりもするので、どんな家庭環境だったのか、どうやって大人になっていったのかが答え合わせできたのではないかと。

ーー弟役の泉澤祐希さんの印象は?

中村:僕が20歳くらいの時にご一緒していて、そこから久しぶりに会いました。難しい役どころを素敵に演じられる安定感があって流石だなと思いました。

ーー何か交わした言葉はありましたか?

中村:大変そうにしてましたよ。「どうすればいいかな」って一人で悩んでいる感じでしたね。僕も僕で大変だったので……(笑)。2人で一緒に悩んでいました。

ーー福島三羽ガラスでは、裕一に続き久志も結婚しましたが、この先、鉄男の恋は描かれるのでしょうか?

中村:独身貴族です……。久志の結婚を祝って家で一人で悲しんでいました(笑)。

ーー第22週以降の最終回に向けての展開も教えてください。

中村:鉄男もちょこちょこと登場します。みんなでたくさん笑ったり、音楽の楽しい部分があるんですけど、あの第18週から第19週を経ているので重みが違うんですよね。笑ったりお酒を飲んでいるだけでもよかったなとしみじみ思える。視聴者のみなさんも同じ思いになってくれるんじゃないかなと思います。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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