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立川直樹のエンタテインメント探偵

横尾忠則の2つの展覧会からはパワーをもらった、都美術館のイサム・ノグチにも驚かされた……チャーリー・ワッツの死去は本当にショックが大きかった。2021年の夏。

毎月連載

第74回

Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13「東京大壁画」Drill Inc.

GENKYO 横尾忠則 [原郷から幻境へ、そして現況は?] 撮影:源賀津己

“水先案内”でも10月17日まで開催されている2つの展覧会を紹介したが御年84歳の横尾忠則からはパワーをもらえる。オリンピック開催直前の7月17日からパラリンピック閉会式の9月5日まで東京駅の前の新丸ビルと丸ビルに娘の美美さんに2つ合わせて総面積が7千平方メートル以上という“世界的に例がない巨大壁画”を東京駅前の広場から見た時も気持ちのいい溜息が出た。シート状になった作品をガラス面に貼った壁画のテーマは新丸ビルの横尾さんが“水(aqua)”、丸ビルの美々さんが“火(ignis)”。オリンピック期間といわず、もっと長い期間、そしてもっと見やすい工夫をして展示すればいいのにと思った。その年令のことでいうと、東京都美術館で開催されていた『イサム・ノグチ 発見の道』の会場でも80代に入ってからのイサムの作品が瑞々しく、どこかセクシャルとも言える輝きを放っていたことに驚かされた。ニューヨークと牟礼にある庭園美術館の作品は現地でも見ていたがそれが室内に各地の美術館などから貸し出された作品と並んでいるのは圧巻で、またそれを自由に回遊してみられるのもよかったが、入口を入ってすぐ目に入る「あかり」インスタレーションの素晴らしさは改めてイサム・ノグチの作品の普遍性を石の作品とともに実感させてくれた。

イサム・ノグチ 発見の道 東京都美術館

だから、ザ・ローリング・ストーンズの創設以来のメンバーであるドラマーのチャーリー・ワッツが8月24日に80歳で死去したというニュースを聞いた時は本当にショックが大きかった。今月の20日にも立川のCINEMA CITYで『アメリカン・グラフィティ』の上映に合わせて一緒にトークをすることになっているピーター・バラカンの朝日新聞8月31日朝刊に載っていた「チャーリーの死は、時代の終わりを意味する。あのロックの時代、僕らの時代の終わりを。寂しくて、喪失感があります。」という追悼の言葉には心からうなずかされたが、笑福亭仁鶴や千葉真一の死も“時代の終わり”を意味している。20世紀から21世紀へと続く“時代の流れ”。僕たちはそれを展覧会や映画、レコード、テレビのドキュメンタリー番組などを通して反芻でき、新しい発見をし、刺激や知識をもらって暮らしているわけだが、毎年8月15日の終戦記念日が近づいてくると並ぶ特番の中では8月13日の深夜0時からのETV特集「“焼き場に立つ少年”をさがして」は被爆後の長崎で軍事写真家のジョー・オダネルが撮影されたとされる(カメラはアニバーサリースピードグラフィック)写真を長崎放送局が徹底調査していくドキュメンタリーで引き込まれた。14日夜の「ヒトラーに傾倒した男~A級戦犯・大島浩の告白~」、15日のNHKスペシャル「開戦秘史 太平洋戦争」も中国最高指導者の日記などを使って日中米英の激烈な瞬間をまとめていて見応えがあり、前日夜の「映像の世紀プレミアム第20集」の「中国 “革命”の血と涙」とつながると映画を超えるおもしろさがあった。

チャーリー・ワッツ (C)aflo

そして16日にはWOWOWでエリック・クラプトンの「60's ヒストリー」「70's ヒストリー」という2本のドキュメンタリー。27日には今月28日に没後30年の命日を迎えるマイルス・デイヴィス(予定では大阪のホテルZentisでハイ・エンドのオーディオでマイルスに浸るイベントを僕のナビゲートでやることになっている)を取り上げた「巨匠たちの青の時代 帝王への扉を開けたサウンド マイルス・デイビィス」(2011年制作)を"プレミアム・カフェ選"で見ることもできた。

理屈抜きで感じたプロフェッショナルな仕事の素晴らしさーコシノジュンコ×天野幾雄、木村伊兵衛と土門拳……COTTON CLUBの神野美伽は予想をはるかに上回る内容。

COTTON CLUB の神野美伽 撮影:山田久美子

あと書いておきたいのは8月27日に青山のJK GALLERYで始まった大展覧会『クリエイティブな出会い コシノジュンコ×天野幾雄 資生堂との仕事 70年代80年代を中心に』(9月18日まで開催)と、木村伊兵衛と土門拳の作品に唸らされた写大ギャラリーでの写真展『写真の中の東京は、』を見ることで理屈抜きで感じたプロフェッショナルな仕事の素晴らしさ。ライヴでは8月30日にCOTTON CLUBで行われた神野美伽の「MIKA SHINNO THE VOICE」が予想をはるかに上回る内容でMCの中で彼女が口にした「人間の声って魂の音」という言葉をとてもリアルに感じられた。「ラフマニノフ~与作」と「SUMMER TIME」をつなげたオープンニングからアンコールの「満開」まで全13曲、80分ほどの圧巻のパフォーマンス。ピアノの紅林弥生、ギターの竹中俊二、初めて目にしたヴォイスパーカッションの北村嘉一郎、5人組のコーラスグループのBaby Booといった共演者たちのサポートも抜群で、再演したらいいのにと心から思った。

データ

●展覧会
Tokyo Tokyo FESTIVALスペシャル13「東京大壁画」
会期:2021年7月17日~9月5日
会場:丸ビル/新丸ビル

●展覧会
GENKYO 横尾忠則 [原郷から幻境へ、そして現況は?]
会期:2021年7月17日~10月17日
会場:東京都現代美術館

●展覧会
イサム・ノグチ 発見の道
会期:2021年4月24日~8月29日
会場:東京都美術館

●イベント
『アメリカン・グラフィティ』上映×ピーター・バラカン×立川直樹トークショー
開催日:9月20日
会場:CINEMA CITY
HPはコチラ

●イベント
「Salon de Zentis」Vol.2 “Miles Davis”
開催日:2021年9月28日
会場:Zentis Osaka
詳細はコチラ

●TV
「“焼き場に立つ少年”をさがして」
放送日:8月13日
放送局:NHK Eテレ

●TV
「ヒトラーに傾倒した男~A級戦犯・大島浩の告白~」
放送日:8月14日
放送局:NHK BS1

●TV
映像の世紀プレミアム第20集「中国 “革命”の血と涙」
放送日:8月14日
放送局:NHK BSプレミアム

●TV
「開戦秘史・太平洋戦争 日中米英の知られざる激烈な暗闘」
放送日:8月15日
放送局:NHK 総合

●TV
エリック・クラプトン「60's ヒストリー」「~70's ヒストリー」
放送日:8月16日
放送局:WOWOW

●映画(ドキュメンタリー)
『エリック・クラプトン 60’s ヒストリー』(2014年・英)
監督・製作:ロブ・ジョンストーン
出演:エリック・クラプトン/トップ・トップハム(ヤードバーズ)/クリス・ドレヤ(ヤードバーズ)/ジョン・メイオール
DVD

●TV
プレミアムカフェ選
「巨匠たちの青の時代 帝王への扉を開けたサウンド マイルス・デイビス」(2011年)
放送日:8月27日
放送局:NHK BSプレミアム

●展覧会
『クリエイティブな出会い コシノジュンコ×天野幾雄 -資生堂との仕事- 70年代80年代を中心に』
会期:2021年8月27日~9月18日
会場:JK GALLERY

●展覧会
写真展「写真の中の東京は、」
会期:2021年6月14日~9月4日
会場:写大ギャラリー

●「神野美伽 - THE VOICE -」
日程:2021年8月30日
会場:COTTON CLUB

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)、『ラプソディ・イン・ジョン・W・レノン』(PARCO出版)。

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