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『ゆるキャン△』は“さみしさ”の醍醐味を教えてくれる 心の寒さに寄り添う温もり

リアルサウンド

21/3/2(火) 8:00

 あfろ原作によるTVアニメ『ゆるキャン△ SEASON2』(AT-Xほか)が放送されている。本作は、キャンプを通じて出会った女子高生たちがアウトドアを楽しむ日常を描いたアニメ。原作コミックは累計発行部数500万部を突破、2018年にTVアニメ第1期が放送され、2020年には福原遥、大原優乃をはじめとする若手キャストで実写ドラマ化を果たし、スピンオフアニメ『へやキャン△』も放送された。

 原作に忠実なアニメはもちろんのこと、人気作だけに不安視されていた実写ドラマも再現度が非常に高く、3月29日の『ゆるキャン△スペシャル』(テレビ東京系)を皮切りとした2期の放送も決定しており、いずれも話題を呼んでいる。

 キャンプをはじめとするアウトドアといえば、“3密”を避けられるとしてコロナ禍でもさほど打撃を受けなかったと言われている市場だ。あらかじめ混雑状況を確認したり、共用施設でのマスク着用、大人数でのグルキャン(グループキャンプ)を控えるなどの対策は必要だが、たしかに換気のいい屋外で過ごせるため感染リスクは比較的低いと言えるかもしれない。

 2020年新語・流行語大賞にトップ10入りを果たした、一人でキャンプを楽しむ「ソロキャン」(ソロキャンプ)ならなおのこと。偶然にも『ゆるキャン△』の2期では、ソロキャンの魅力を再認識できるエピソードが描かれている。

 本作は2人の主人公、志摩リン(東山奈央)と各務原なでしこ(花守ゆみり)が同じキャンプでもそれぞれ違う楽しみ方をしているのが特徴だ。リンは高校生にしてキャンプ上級者であり、バイクで一人キャンプ場に赴き、手早くテントを立て、自然の中で読書を楽しむなどソロキャンの楽しみ方を熟知している。

 対して、富士山を見に来て迷子になったところをキャンプ中のリンに助けられたことで、キャンプに興味を持ったなでしこは高校で「野外活動サークル」(通称、野クル)に入部。サークルメンバーの大垣千明(原紗友里)、犬山あおい(豊崎愛生)と一緒にキャンプについての知識を学びながら、体験を共有できるグルキャンを好む。

 だが、『ゆるキャン△』の魅力は誰一人として自分の好きなことや楽しみ方を他の人に強要しないところ。実際になでしこは最初こそリンを野クルの活動に勧誘するが、リンが思わず嫌な顔をして以降、一度も無理に誘ったことはない。私自身もそうだったが、インドア派にとって「アウトドア=大勢でワイワイするのが好きな人の楽しみ」というちょっとした抵抗感があるので、もしも『ゆるキャン△』がグルキャンの魅力を押し売りするだけの作品だったらここまでの人気にはならなかっただろう。

 あくまでもリンはなでしこと2人でキャンプに行ったり、「ノリが苦手」と思っていた千明の良い面を知り、少しずつグルキャンに興味を持つようになる。最終的に寒さに弱く、「冬キャンって何がいいの?」と疑問に思っていたリンの友人・斉藤恵那(高橋李依)、お酒が何より好きで、休日は家でゆっくり過ごしたい派の野クル顧問・鳥羽美波(伊藤静)も共に6人でクリキャン(クリスマスキャンプ)を敢行する、というのがアニメ1期のラストだった。

 一方、今度はなでしこがリンの影響でソロキャンに興味を示し、実際に一人で計画を実行するのが2期の主な内容。きっかけは、リンの「ソロキャンはさみしさも楽しむもの」という言葉だった。そこで思い出すのは『ゆるキャン△』2期のキャッチコピー。「朝」と「夜」をイメージしたティザービジュアルには、それぞれ「たのしいも、さみしい」(朝)「さみしいも、たのしい」(夜)という言葉が添えられている。

 「たのしいも、さみしい」は、どちらかといえばグルキャンのイメージ。みんなでキャンプ飯を囲んだり、広大な土地ではしゃいだりした後、眠りにつき、朝が来た時に感じる「もう終わりなんだな」と思うさみしさ。そして、「さみしいも、たのしい」には一人の夜に感じる一抹の寂しさと、それでも旅先での食事や景色を眺めながら物思いに耽る時間を存分に味わえるソロキャンの魅力が表れているのだ。

 リンはクリキャンで前者の気持ちを知り、その後大晦日に山梨からなでしこの地元・静岡に向かい、久しぶりのソロキャンを楽しみ後者の魅力を再認識した。なでしこもまた、リンから知識を借りて入念に準備を行い、第7話~8話でソロキャンに挑む。ソロキャンといえども持ち前の明るさで現地のキャンパーと交流するが、夜景を眺めながら感じたのはやはり“さみしさ”だった。

 けれど、けっしてそのさみしさは嫌なものではない。大好きな人たちが今何をしているかを想像したり、誰かと一緒に楽しんだ時間を振り返り懐かしむ、温かいさみしさ。なでしこが感じたその気持ちは、コロナ禍に外出自粛を余儀なくされている私たちの想いとも少し重なるところがある。リンがグルキャンを通してソロキャンの魅力を再認識したように、一人の時間もやっぱりいいなと思った人もいれば、なでしこのように一人の時間もたまには必要だけど、また誰かと楽しい時間を共有したいなと思った人もいるだろう。

 目立った事件もなければ、大きく心揺さぶられるような感動的なエピソードもない。それでもなでしこがバイトでお金を貯めて、お姉ちゃんにプレゼントした携帯用カイロのようにじんわりと心の寒さに寄り添って温めてくれる。それが『ゆるキャン△』だ。

 緊急事態宣言が解除されても、まだまだ油断はできない状況が続くだろう。感染リスクを抑えて少しでも旅行気分を味わうためにキャンプに行ってみたいと思っている人も、とはいえまだ外出は怖いなと不安に思っている人も、『ゆるキャン△』を観て物思いに耽けながら「さみしいも、たのしい」を味わってみてはいかがだろうか。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■作品情報
『ゆるキャン△ SEASON2』
AT-X、TOKYO MX、BS11ほかにて放送中
AT-X:毎週木曜23:00~
TOKYO MX:毎週木曜23:30~
BS11:毎週木曜23:30~
声の出演:花守ゆみり、東山奈央、原紗友里、豊崎愛生、高橋李依、黒沢ともよ、井上麻里奈、伊藤静、松田利冴、大塚明夫ほか
原作:あfろ(芳文社『COMIC FUZ』掲載)
監督:京極義昭
シリーズ構成:田中仁
キャラクターデザイン:佐々木睦美
プロップデザイン:山岡奈保子、井本美穂、堤谷典子
メカデザイン:遠藤大輔 丸尾一
色彩設計:水野多恵子(スタジオ・ロード)
美術監督:海野よしみ(プロダクション・アイ)
撮影監督:田中博章(スタジオトゥインクル)
音響監督:高寺たけし
音響制作:HALF H・P STUDIO
音楽:立山秋航
音楽プロデューサー:村上純
音楽制作:MAGES.
企画・プロデュース:堀田将市
制作プロデュース:DeNAコンテンツ企画部
アニメーションプロデューサー:丸亮二
アニメーション制作:C-Station
製作:野外活動委員会
(c)あfろ・芳文社/野外活動委員会
公式サイト:https://yurucamp.jp/second/

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