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村上虹郎、笑顔の奥底にある演技の凄み 20歳の夏を切り取った『銃』は最重要な一作に

リアルサウンド

18/11/16(金) 12:00

 今年の夏に放送されたテレビドラマ版『この世界の片隅に』(TBS系)で、松本穂香演じる主人公・すずの幼馴染みである海軍兵・水原を演じた村上虹郎。いたずらっ子のような人懐こい笑顔を浮かべながらスッと距離を縮めて懐に入ってくる、その振る舞い。そして、無神経を装いながらも時折垣間見せる、その繊細な心模様。彼は戦地で、何を見てきたのだろうか。その役どころは、何だかとても、村上虹郎という俳優に合っているように思えた。決して、感じが悪いわけではない。むしろ、快活にしゃべるその様子は、好青年と言って良いだろう。けれども、その奥底にあるものは、誰にもわからない。そんな「水原」役を好演していた村上虹郎が主演する映画『銃』が、いよいよ公開されようとしている。

参考:村上淳、映画『銃』出演で村上虹郎と親子共演へ 「正直意識しないかというとそうはいかない」

 ある激しい雨の夜、思いがけず拳銃を拾った青年が、「自分は銃を持っている」という事実によって、自らの味気ない日常に、得も言われぬ充実を感じてゆく――作家・中村文則のデビュー作を原作とする本作は、村上虹郎という主演俳優を得ることによって、一見すると文学的に過ぎるように思える、その鬱屈としたモノクロームな物語に、不思議な説得力と魅力を注入することに成功しているように思えた。

 村上虹郎演じる主人公の青年は、都内の大学に通うごく普通の青年だ。特にやる気があるわけでもなく、ただ漫然と大学の講義を受け、その後は学食で友だちと、「やった/やらない」と、主に異性についての話で、面白おかしく盛り上がる。夜は、その友だちに誘われた、気乗りしない合コンだ。しかし、自宅に銃を隠した彼は、いつも以上に大胆に、特に興味があるわけでもない女の唇を突如奪い、彼女の家で激しいセックスをする。

 それが、ごく普通の大学生の日常であるかどうかはさておき、今回彼が演じる役どころは最初、これまで彼が映画やドラマで演じてきた人物とは、かなり趣が異なるように思えた。主人公のモノローグと、彼が誰かと実際に交わす言葉が、入れ子状に展開してゆく物語。表面的には快活な、社交性のある大学生のように思える彼だけど、そのモノローグは、そんな自分をどこか客観視しているようなところがあり……そして、銃を得たことによって生じる自らの変化を、どこか面白おかしく楽しみながら観察しているような、そんな透徹したドライさが感じられるのだった。

 しかし、そんな醒め切った自らの内面を、彼は決して他人に見せることをしない。普段一緒につるんでいる仲の良い友人(岡山天音)であろうと、実は血の繋がりのない、離れて暮らす両親であろうとも。いわんや、行きずりの関係を結ぶ女(日南響子)の前では、敢えて下品な言葉を吐き、乱暴に身体を求め、恐らく嫌われるであろう自分を演じてみせる始末だ。けれども、彼女は彼のことを拒絶しない。そう、彼はいたずらっ子のような人懐こい笑顔を浮かべながら、スッと距離を縮めて軽やかに会話できるから。その奥底にあるものは、誰にもわからない。

 「拳銃」を手にしたことによって、自らのアンバランスな内面と行動を、次第にエスカレートさせてゆく主人公。そんな彼の前に、やがて2人の人物が現れる。ひとりは、彼自身は会ったことすら覚えてなかったのに、なぜか彼に心を開いて気さくに話しかけてくる同級生の女子(広瀬アリス)だ。友人以上恋人未満の関係を経たのち、彼女は彼に、「あなたは本当のところ、何を考えているかわからない」とストレートに疑問をぶつけてくる。そして、もうひとりは、突然彼の下宿を訪ねてきた、胡散臭い刑事(リリー・フランキー)だ。無論、その要件は、殺人事件の現場から消えた銃についての話だ。しかし、彼女/彼は、主人公を追い詰めるようでいて、実はそうではなく、むしろ彼の守護天使であるかのように、彼の迷える魂を導こうとしているかのように思えるのだった。果たして彼女/彼は、「拳銃」を拾ったことによって回り始めた彼の衝動を、押しとどめることができるのだろうか。

 村上虹郎という若い役者は、その精悍な顔立ちと人懐こい笑顔の奥底に、どこか未完成のナイーブさを感じさせる、稀有な役者であるように思う。自分自身では上手くやっているつもりなのに、突如誰かに見抜かれてしまうナイーブな感性と、その奥底にある「不満」や「憤り」。祭りの夜に海で溺死体を発見するデビュー作『2つ目の窓』、ある日同居していた兄が忽然と姿を消す『ディストラクション・ベイビーズ』、ごく普通の高校生が剣士の素質を見出され、生きるか死ぬかの真剣勝負を挑まれる『武曲 MUKOKU』など、彼がこれまで演じた役の多くは、自分自身ではなく、他者によって発動し、ときには暴発してしまう「何か」の物語だった。それは恐らく、偶然ではないのだろう。そして、その多くは、その役柄の「出自」や「血」が関係していることも、ここに指摘しておきたい。

 そう考えると、最初意外であるように思えた今回の役柄も、彼のフィルモグラフィーの一連の流れを汲んだ役柄と言えるのかもしれない。「拳銃」によって発動し、転がり続ける青年の末路とは――否、正しくは「拳銃」を手にしたことによって、彼自身も自覚することになる深い「闇」の正体とは、果たして何なのか。終盤、突如登場する、彼の実父でもある役者・村上淳との対決も、何やら示唆的ではある。そして、原作同様、冒頭に掲げられた「かく熱きにもあらず、冷ややかにもあらず、唯ぬるきがゆえに、われ汝をわが口より吐き出さん。」という『ヨハネの黙示録』からの引用も。しかし、その深い「闇」の正体は、現代を生きる若者の在り方として、必ずしも他人事とは言えない「闇」であり……そこに説得力と共感をもたらせるのが、村上虹郎という、観る者の心に何やら引っ掛かる、そして、その心の奥底を覗き込みたいと思わせる、稀有な役者の魅力と存在感なのだった。深い孤独を抱えながら、自らの生きる世界を決して色づけることができなかった青年が、そのモノクロームの世界の果てに見た景色とは。その期待とイメージを引き受けながら、それを超克しようとする20歳(当時)の若い役者のむき出しの「生」が、このフィルムには、確かに刻み込まれている。(麦倉正樹)

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