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『いだてん』すべてが繋がる宮藤官九郎脚本の本領発揮 浅野忠信の“悪役”っぷりも評判に

リアルサウンド

19/11/11(月) 12:00

 11月10日に放送された『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』(NHK総合)第42回「東京流れ者」。政府によってオリンピック担当大臣に任命された政治家・川島正次郎(浅野忠信)が、田畑政治(阿部サダヲ)にジリジリと忍び寄る。

参考:『いだてん』制作の裏側は“もうひとつのオリンピック”だったーーチーフ演出・井上剛の挑戦

 笑顔を絶やさず、飄々とした雰囲気を醸し出す川島だが、東龍太郎(松重豊)と会食するシーンでは、発する言葉の節々に田畑や東に対する圧力が感じられる。第41回で田畑から「国民の一人一人がさ、“俺のオリンピック”だって思えるように盛り上げてくれよ、先生方!」と責め立てられたとき、川島は黙っていたが、その目は冷ややかだった。「日本のオリンピック」「国民のオリンピック」と発した川島の面目をつぶすような田畑の発言に、苛立っているようにも見えた。しかし川島は、その苛立ちを直接ぶつけるようなことはしない。外堀を埋めるように田畑を追い詰めていくのだ。

 川島は「オリンピックは経済成長の起爆剤ですよ、総理」と池田勇人(立川談春)首相に訴える。「国際舞台で日本の株を上げる。そのためにもしっかりと政府が舵を取るべきだと思うんだよなあ、僕は」と言う川島。川島は自ら名乗りを上げるのではなく、巧妙に人の心を動かし、自身を重要なポストに置く。池田首相の表情を見る川島の表情はまさに策士だ。いつになく“悪役”にハマっている浅野忠信の演技が何とも絶妙だ。

 オリンピック担当大臣に任命された川島は、マスコミの前で「金が集められないから、政府に泣きついてきたわけでしょ?」とあっけらかんと言った。不服そうな田畑の表情とは裏腹に、関係者たちは笑顔で拍手を送る。これこそが川島が望んだ構図なのだろう。金を出し、その分口も出す。田畑の思うようにはさせまいと川島は動き始めていく。

 津島寿一(井上順)を組織委員会から外そうと目論む川島が、田畑に発した「大して期待しとらんからだろ、君が」という台詞。川島の目は田畑を凍りつかせるだけの威圧感があった。浅野の緩急のある演技は、田畑VS川島の一進一退の攻防をよりハラハラさせる。浅野が見せる表情に、翻弄されている視聴者も多いのではないだろうか。

 浅野忠信の悪役っぷりも見事だが、川島と対立する田畑を声だけで叱咤し続ける嘉納治五郎(役所広司)も忘れてはならない。第37回「最後の晩餐」で治五郎が亡くなった後は、役所は回想シーンや声だけの出演だ。だが、治五郎らしさが失われることはない。体協に飾られた肖像画からは役所の声が響き渡り、田畑の背中を押す。

 声だけの出演にも関わらず、「やってるなあ、田畑」という治五郎の声を聞くと、嬉しそうに笑う治五郎の表情が思い浮かぶ。東京オリンピック開催を喜ぶ治五郎だったが、1940年の東京オリンピックが幻に終わったこと、そして現状について、田畑が恐る恐る伝えると治五郎は一喝する。

「政治とスポーツは別物と繰り返し口を酸っぱくして言ったろ!」

 治五郎の言葉は田畑の胸に深く刺さる。これまでの回で何度も描かれてきた政治とスポーツのつながり。そのどれもが暗い影を落としていたにも関わらず、田畑が向き合っている東京オリンピックは、政治とスポーツの距離がジリジリと近づいている。一喝された田畑はうなだれ、ため息をついた。

 しかし治五郎は「それはそうと」と話を変えると、田畑に選手村を代々木に変更するヒントを与えた。極論で周囲の人々を困惑させてきた治五郎だが、この「それはそれ、これはこれ」という潔さが、今後も田畑を奮起させるのだろう。

 また第42回で驚かされたのが、落語パートとメインパートがつながった瞬間である。五りん(神木隆之介)は父・小松勝(仲野太賀)の師である金栗四三(中村勘九郎)と対面し、志ん生(ビートたけし)を背負いながら引き継がれてきた『富久』を披露。そしてとうとう田畑ともつながることに。バラバラの時代を行き来してきた『いだてん』だが、「オリムピック噺」を語る五りんを通じて集約されていく。次回、国民のオリンピック熱を盛り上げるため、広告塔として任命される五りん。これまでの宮藤官九郎脚本作品もそうだったように、すべての登場人物たちが繋がり始めた。(片山香帆)

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