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人工知能が作る音楽 “AI作曲家”から見たポップミュージックの世界(前編)

ナタリー

19/2/15(金) 14:56

“AI作曲家”イメージイラスト

2010年代、深層学習(ディープラーニング)というブレイクスルーを経て新たなステージに入ったAI技術は、音楽の世界にもその影響を及ぼしている。いよいよ本格的に実現しつつある“AI作曲家”の姿を通じて、私たちと音楽との関係を改めて考えてみたい。

2010年代半ばのAIバズ

2015年10月、DEEPMIND社の開発した囲碁AI、AlphaGoが初めて人間の棋士に勝利した。それ以来、AIは技術者コミュニティの外側でも大きな話題になった。2016年3月の李世ドルとの対局はマスメディアの注目を大きく集め、4勝1敗でAlphaGoが勝利。続いて2017年5月に行われた世界最強と称される棋士、柯潔との対局ではAlphaGoが3連勝を果たした。コンピュータが人間に勝つことは難しいとされていた囲碁で勝利を見せつけたことで、深層学習を中心とする新世代のAIは一気に時代を代表する先端技術となった。「情報技術の発展によって人間を超える知能を持つ存在が現れる」という、いわゆる“シンギュラリティ”論が現実味を帯びたかのように見えた。

とはいえ、AIの発展はいささか停滞気味のようだ。深層学習が人間と同等の能力を持つ“強いAI”にそのまま結び付く、といった楽観論は控えられるようになった。もちろん一時のブームが沈静化したあとも、AIの開発自体は研究者たちによって淡々と、しかし着実に進められている。シンギュラリティの到来は疑わしいとしても、AIが私たちの生活を変えていくことだけは間違いない。むしろ、道具というにはあまりにも賢く有能で、しかし人間と同じようには扱えない、“道具以上人間未満”のAIとどう付き合うかが私たちの当面の課題になるだろう。

音楽にもAIの影響はじわじわと及んでいる。文字を音声に変換して読み上げるテキストトゥスピーチやバーチャルシンガーといった音声合成技術(名古屋工業大学と株式会社テクノスピーチによる共同研究)、人間の楽器奏者との息の合った合奏を可能にする自動演奏AI(YAMAHA MuEns)、またマスタリングを担うソフトウェアやプラグイン(LANDRIZOTOPE NEUTRON)など、AIを応用した技術はすでに実用段階に入っている。

これ以外に特筆すべき事例としては、2017年12月に発売されたMaison book girlのシングル「cotoeri」がある。同作には、プロデューサーのサクライケンタが過去6年間に制作してきた楽曲の歌詞をAIに登録し、そのデータを基にAIが新たに歌詞を生成した楽曲「言選り」が収録された。

“AI作曲家”の誕生

音楽におけるAI活用の中でももっともセンセーショナルなのは、“AI作曲家”だろう。具体的にはSONYが開発したAI「Flow Machines」や、AIVAの作曲AI「AIVA」、ベンチャー企業AMPERの「Amper Music」などだ。同様のAIやプロジェクトは規模の大小問わず少なくない。Googleが主導するMagentaのように、プロアマ問わず技術者が深層学習を音楽制作や演奏に取り入れるためのライブラリも公開されている。中でも先ほど挙げた3つは実際に商用利用された例が確認できる。

「Flow Machines」はミュージシャンのブノワ・カレが中心となってSKYGGEというポップミュージックのプロジェクトを始動させ、2018年にアルバム「Hello World, Composed with Artificial Intelligence」をリリースしている。

「AIVA」もこの名義で2016年に1stアルバム「Genesis」を発表して以来、クラシック風の楽曲を中心にアルバムを複数リリース。また「AIVA」はフランスの職業音楽家組合であるSACEMに作曲家として登録を許可されており、“世界で初めて職業組合に登録されたバーチャル作曲家”を名乗っている。

アメリカのシンガーソングライター、タリン・サザンは2018年に発表したアルバム「I AM AI」に「Amper Music」が作曲した楽曲を収録している。

どの例を取っても、前情報がなければ普通のポップソングやクラシックと区別が付かないのではないだろうか。アーティスト名やアルバム名、アートワークでほのめかされているものの、楽曲自体に“AIらしさ”の痕跡を見出すことは難しい。こうして見ると、あたかも“AIによる作曲”は完全に実現しているかのようだ。しかし、そう簡単に断言することはできない。

というのも、これらはいずれも “AIだけで1つの作品を仕上げた”例ではないからだ。基本的なメロディや伴奏のパターンを提案するほかは、人間の手で微妙な修正、またアレンジやレコーディングといった工程を必要としている。場合によってそれはAIの提案に応じて人間が修正を指示する対話型であったり、あるいは設定に応じた出力から「よい」と感じられるものが得られるまでトライ&エラーを繰り返すようなタイプであったりさまざまだ。

つまりこれらのAI作曲家も、実のところは“道具以上人間未満”と言うべきもので、AIが音楽制作のプロセスを何から何まで済ませてくれるような世界は(少なくともポップミュージックとか、日常的に多くの人々が耳にするような領域については)訪れていない。

今のところAI作曲家も万能ならず、人の手が必要だ。そう思うと残念がる人も、ほっと胸をなで下ろす人もいるかもしれない。しかし現状のAIも、私たちの音楽に対する考え方や向き合い方を根底から変えてしまう可能性を十分に秘めている。“作曲”とは何か、そして私たちはどのように音楽を“聴く”のか。この連載では、ジャーナリスティックな情報だけではなく、AI作曲家という存在が照らし出す私たちの音楽観とその未来について考えてみたい。

<つづく>

文 / imdkm

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