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LiSA、紅白初出場までの10年を辿るーーアニメ音楽とポップスシーンを繋ぐ“ロックヒロイン”の軌跡

リアルサウンド

19/12/18(水) 7:00

 2019年11月14日、年末恒例の歌番組『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の出場歌手が発表された。紅白初出場組として、Official髭男dism、King Gnu、日向坂46、Foorinら、2019年の音楽シーンを賑わした顔ぶれが並ぶなか、SNSでひときわ大きな反響を呼んだのが、LiSAの名前だ。すでに歌手として10年近くの活動歴を誇り、その間に何度となくヒット曲を放ってきた彼女。今年7月にCDシングルとしてリリースし、紅白の歌唱曲にも決定した「紅蓮華」は、4月22日から行われた先行配信の時点で、各配信ストアのチャートを軒並み制覇。オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングにおいて、2週連続で1位を獲得し、それがちょうど“平成最後”と“令和最初”の週間にあたったことから、「平成と令和の変わり目を跨ぐヒット」として記録に残ることとなった。その後も勢いは衰えることなく、12月に入ってもiTunes1位を記録し、40万ダウンロードを突破するなど「紅蓮華」は名実ともに2019年を代表するヒット曲となったわけで、その意味でも今回の紅白初出場は順当と言える。

 だが、彼女のことを知るファンのなかには、「ようやく」という思いを抱いた人も多かったのではないだろうか。かく言う自分もその一人。先ほども触れたとおり、彼女はデビュー直後から10年近くに渡って継続的にヒット曲を生み出してきた、ここ10年の日本の音楽シーンを振り返ってみても稀有な存在であり、いわば2010年代を象徴するアーティストのひとりである。特に歌番組への出演も増えてきた2017年頃からは、紅白出場を待望する声が強まっていたように思うし、LiSA自身、それに見合うだけの実績を重ねてきていた。それを考えると、彼女が紅白に出場するのは遅いと言ってもいいぐらいだし、だからこそ、今回の一報に多くの人が喜び、それがSNSでの反響に繋がっていったのだろう。

 前置きが長くなってしまったが、本稿では、LiSAがこの10年をどのように駆け抜けてきたのかを、今一度振り返ってみることで、彼女が紅白という場所にたどり着いた軌跡と、その間に刻んできた「シルシ」、そして紅白のステージに立つ意義について考えてみたい。

 岐阜出身で学生時代からバンド活動(同郷のcinema staffとはこの頃から交流がある)に打ち込んでいた彼女が、シンガー・LiSAとして世に出たのは、2010年に放送されたTVアニメ『Angel Beats!』に登場する劇中バンド・Girls Dead Monster(以下、ガルデモ)の2代目ボーカリストとして。アニメの放送内容とリンクしたリリース展開やライブ活動、そしてオルタナティブロックやポップパンクを源流とするガルデモの音楽性にマッチしたLiSAの歌唱スキルも相まって、アニメの劇中バンドとしては異例のヒットを記録した。

 ガルデモは同年末のラストライブをもって活動を終了するが、そのアイコン的な存在として絶大な支持を獲得したLiSAは、2011年4月にミニアルバム『Letters to U』を発表してソロデビュー。本作には、現在も彼女の楽曲制作に携わる田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)をはじめ、ハチこと米津玄師や2019年4月に急逝したwowaka(ヒトリエ)といった当時新進気鋭のクリエイターたちが楽曲を提供。ガルデモの延長線的なイメージも感じさせつつ、2010年代らしさを備えたロックサウンドとLiSA自身によるエッジの効いた歌詞、ポップ&パンキッシュなファッションセンスなどによって、早くも独自のアーティスト性を打ち出してみせた。

 そこからは現在に至るまで快進撃の歴史しかない。当時ヒットメイカーとして頭角を現していた渡辺翔が作詞・作曲、toku(GARNiDELiA)が編曲を手がけた1stシングル『oath sign』(2011年)は、TVアニメ『Fate/Zero』のOPテーマとしてヒットを記録。同コンビが提供した2ndシングル『crossing field』(2012年)では、彼女のキャリアにとってとりわけ重要な作品『ソードアート・オンライン』(通称、SAO)との邂逅を果たし、その戦いの物語にしっかりと寄り添い、過酷な運命のなかで希望を掴み取ろうとする強い意志に満ちた歌声を響かせた。それらの楽曲における、急激な抑揚のついたメロディとサビで一気に力強さを増す曲展開、それらをドラマティックに聴かせる激情的なロックアレンジといった要素は、LiSAの音楽性の基盤になっているのと同時に、2010年代のアニメソングにおける絶対的なトレンドにもなった。

 LiSAのさらにすごいところは、そういったアニメ音楽シーン全体における象徴的な楽曲を定期的に生み出しつつ、それを自ら更新し続けているところだ。UNISONの田淵が作詞・作曲(歌詞はLiSAとの共作)、現在はPENGUIN RESEARCHのメンバーとしても活動する堀江晶太が編曲を担当した「Rising Hope」(2014年)は、今やライブのみならずアニクラ(アニメ音楽に特化したクラブイベント)でも必ず熱狂を生む楽曲に育っているし、同じく田淵が提供した「Catch the Moment」(2017年)もライブでは大合唱が起こるほどのアンセムと化している。ラウドロック的なヘヴィネスと昂揚感溢れるメロディーが合わさった「ADAMAS」(2018年)は、激情の極点とでも言うべき壮絶極まりない楽曲になった(ライブで同曲を披露した際、LiSA本人が太鼓を叩きながらオーディエンスを煽るパフォーマンスも凄まじかった)。彼女はこの10年、常に現状に甘んじることなく、己の音楽を進化させてきたのだ。

 そして「紅蓮華」。今年のアニメで最大の話題作となった『鬼滅の刃』のオープニングを2クール連続で彩ったこのナンバーは、LiSAに多くの楽曲を提供するシンガーソングライターの草野華余子が作曲、名アレンジャーの江口亮が編曲を担当。「鬼」との過酷な戦いを描いた作品の内容にシンクロする激しくも重厚なラウドロックサウンドに仕上がっており、2番でリズムアプローチが変化するミクスチャーロック的な展開も新鮮だ。LiSA自身が手がけた歌詞や曲名に目を向けても、『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎をイメージさせるフレーズが散りばめられているほか、アニメのオープニングで流れる89秒のTVサイズと、フルサイズでは歌詞の一部が違っており、炭治郎の心情に寄り添った作りになっている。そのようにアニメ作品の世界観なりテーマ性を重んじた制作スタイルもまた、彼女がアニメファンに強く支持される理由だろう。

 また、その先鋭的なまでに磨き抜かれたロックサウンドと、過剰なまでのエネルギッシュさで観る者を惹き込むライブパフォーマンスは、彼女をさらに広い場所へと連れて行った。2014年には日本武道館で初ワンマンを開催。同年末には音楽フェス『COUNTDOWN JAPAN 14/15』にソロ名義で初出演し、その後はロック系フェスの常連アーティストとしても人気を集め、「ロックヒロイン」の異名をとるようになった(命名したのはROCKIN’ON JAPANの小栁大輔氏)。彼女のライブには、その瞬間にすべてをかけて命を燃やし尽くすような美しさがある。刹那的で攻撃的。だからこそ一瞬たりとも目が離せないし、一公演ごとが全く異なった景色のドキュメントが生まれる。そのワン&オンリーのライブパフォーマンスが、フェスなどの現場で多くの人の目に触れ、それらの人々の心に火を灯し、ファン層を広げていったわけだ。

 「Catch the Moment」の歌詞に〈集めた一秒を 永遠にしていけるかな〉という一節があるが、LiSAの音楽とライブは、そういった瞬間の奇跡の積み重ねで出来上がっていることを強く意識させるものだ。これまでファンにたくさんの「かけがえのない瞬間」をキャッチさせてくれた彼女が、自分の歌を聴いてくれる人々のために、ただひたむきに、がむしゃらに、一生懸命に走り続けてきた2010年代の最後の日に、紅白の大舞台でどんな瞬間を見せてくれるのか。今から楽しみでならない。(北野創)

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