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CHAI、『PUNK』で勢いはさらにブースト サウンドに息づくポストパンクの精神とポップな捻り

リアルサウンド

19/2/14(木) 18:00

 近年稀に見る破竹の勢いで活躍のスケールを拡大し続けるCHAI。2018年は『ミュージックステーション』など地上波のテレビ番組への露出が増え、音楽誌に限らない多様なメディアでそのキャラクターと力強いメッセージが取り上げられた、躍進の1年だった。さらに立て続けにアメリカデビューとイギリスデビューを果たし、SuperorganismのUKツアーにも帯同。Pitchforkをはじめとした海外メディアからも注目を集めた。

 2ndアルバム『PUNK』はCHAIの勢いをさらにブーストする一作だ。ユーモアに包まれたポジティブで力強いメッセージが日本中に届けられることも痛快ならば、それと同じくらいこのサウンドが日本中に響くこともまた痛快だ。

 CHAIのサウンドはずっしりと重く、歪みなんてまるで気にかけていないかのようにスピーカーを震わせる。実際、楽曲の屋台骨となるのはドラムのユナとベースのユウキによるリズム隊で、特にドラムはキックとスネアのチューニングの低さが印象に残る。ずっしりとした迫力あるドラムの存在感は、日本のロックバンドのなかでも随一ではないだろうか。

 ベースとドラムの存在感やファンクやソウルの影響も感じるアンサンブルは、そのローファイさもあいまってか、1970年代末から80年代にかけてのポストパンクを思い起こさせる。つけくわえれば、サウンドだけではなく、アティチュードの点でも。CHAIを聴いて、The SlitsやAu Pairs、The Raincoatsといったフェミニズム的なメッセージを掲げたポストパンク世代のバンドを思い出した人も少なくないはずだ。

Typical Girls
No One’s Little Girl

 具体的なサウンドの例としては、サウスブロンクスで活動したスクロギンズ姉妹によるバンド、ESGを挙げたくなる。ヒップホップのサンプリングネタを数多く生んだことでも広く知られているが、彼女たちの魅力もベースとドラムがぐいぐいと引っ張るグルーヴだ。CHAIのデビューアルバム『PINK』でオープニングを飾る「ハイハイあかちゃん」などは、「Tiny Sticks」や「Moody」といったESGのクラシックをポップに蘇らせたかのようでもある。

Tiny Sticks

 こうしたリズム隊の押しの強さから考えると、CHAIの人懐こいポップさは、稀有なバランスで成り立っている。ダンサブルで享楽的なアレンジは、彼女たちがフェイバリットに挙げるCSSやPhoenixといったゼロ年代のインディロックとか、Basement JaxxやJusticeといったダンスアクトなどから受け継いだものだろう。さらにマナとカナによるツインボーカルのチャーミングで抜けがいい声質が、荒っぽい音像を一気に鮮やかに染め上げる。トータルで見ると、爆音でその迫力に浸ることもできれば、ポップソングとしても抜群の存在感を放つ、守備範囲の広いサウンドと言える。

CSS – Off The Hook (OFFICIAL VIDEO)

 『PUNK』でもその魅力は健在で、さらにソングライティングに趣向が凝らされ洗練されている。ここが遊び心のある展開をはさみつつも楽曲自体はシンプルに突っ走るものが多かった前作からの進化だ。なにより、これまでもキャッチーなフックで披露していたメロディセンスを存分に発揮しているのが楽しい。CHAIらしい、固定観念をものともせずポジティブなメッセージを伝える「アイム・ミー」や「Feel the BEAT」が耳馴染みよくエモーショナルなメロディを紡ぐ様はちょっと感動的だ。また、溢れんばかりのパワーでほとんどクリッピングを起こしかけていたサウンドも、迫力はそのままながら聴きやすく丁寧にケアされている。

CHAI『アイム・ミー』Official Music Video

 個人的な嗜好としては、先行シングルでリード曲の「CHOOSE GO!」のスマートさがお気に入りだ。この曲では疾走感のあるエイトビートがブレイクでハーフになり、フェイザーのかかったギターが空間を包むサイケデリックなサウンドに変化。そのまま2分43秒の演奏時間を走り抜ける。CHAIは前作でも大胆なダブ処理やエフェクトを躊躇なく取り入れてきた。本作でもそうした方向性は変わっていないようだ。そのあたりにも、ダブの影響を強く受けたポストパンクの精神が、ゼロ年代経由で伝わっているのを実感する。

CHAI『CHOOSE GO!』Official Music Video

 繰り返し述べたように、CHAIにはポストパンクの精神がある種隔世遺伝のように息づいている。アティチュードやメッセージの点でも、サウンドの点でも。ただしそこには、よりダンサブルでポップな捻りと、ポップアイコンとしての役割をなんなく受け入れる現代的な柔軟さも加わっている。がっくりと肩を落とし、膝から崩れ落ちそうになるニュースが多い昨今、CHAI流の『PUNK』は未来を考える勇気を与えてくれる。

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

■リリース情報
『PUNK』
発売:2019年2月13日(水)
価格:¥2,400(税抜)

<収録曲情報>
1.CHOOSE GO!(GU “GU CHANGE” タイアップ曲)
2.GREAT JOB(CHAI × パナソニック 家事シェア キャンペーンソング)
3.アイム・ミー(リクルート“Follow Your Heart & Music” 参加曲)
4.ウィンタイム(TV ドラマ「ガールはフレンド」主題歌)
5.THIS IS CHAI
6.ファッショニスタ(代表作にBjork / MIA /The xx, Frank Ocean等を手掛けるエンジニアMarta Salogni(UK)MIX)
7.FAMILY MEMBER
8.カーリー・アドベンチャー(代表作にDIIV / Arto Lindsay / Nick Hakim / War on Drugs / Ghostface Killah 等を手掛けるエンジニアDaniel Schlett(US)MIX)
9.Feel the BEAT(映画「麻雀放浪記2020」主題歌)
10.フューチャー

■ライブ情報
『CHAI JAPAN TOUR 2019「PINKなPUNKがプンプンプン トゥアー!」』
6月8日(土)名古屋 DIAMOND HALL
6月9日(日)大阪 なんばHatch
6月13日(木)札幌 PENNY LANE 24
6月15日(土)新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
6月16日(日)仙台 Rensa
6月21日(金)岡山 YEBISU YA PRO
6月23日(日)福岡 DRUM LOGOS
6月29日(土)新木場 STUDIO COAST

オフィシャルサイト

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