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PizzaLoveが明かす、「アイマユウタ」から1stアルバム『Young Pepperoni』に至るまで “リアル”を追求するスタンスも

リアルサウンド

20/5/28(木) 12:00

 “YouTube発のギャグラッパー”というイメージだけでPizzaLoveを捉えているなら、彼の1stアルバムとなる『Young Pepperoni』は、そのイメージを覆す作品になるだろう。確かに先行してYouTubeにアップされた、パチスロをテーマにした「隣のGOD」はじめ、このアルバムの前半部は、彼が所属するユニット・Tajyusaim Boyzでの楽曲や、ソロとしてリリースされた「寿司買う。」などの、コミカルであったりある種の“ダメ人間”ぶりが押し出され、彼のこれまでのイメージを踏襲してる。しかし後半での「諦めましょう」や「親父の歌」などでは、自らの生い立ちやメッセージをしっかりと伝えるスタンスが顕著になり、これまでのPizzaLove像を塗り替える作品性が強く印象に残る。その意味でも“これからのPizzaLove”を期待させるに十分な、密度の濃いフルアルバムだ。(高木”JET”晋一郎)

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■自分のリアルな部分を形にしている気持ちが強い
ーーいろいろなインタビューですでに語られていますが、このサイトには初登場ということなので、まずPizzaLoveさんがラップを始めたきっかけからお伺いできればと。

PizzaLove:始めたのは3年ぐらい前ですね。Lil Pumpとかに憧れてラップを始めました。影響を受けた理由は、曲ももちろんなんですけど、MVの内容やインスタのストーリー、SNSでアップされる生活ぶりもありましたね。その生活に憧れたし、「もしかしたら俺もワンチャン出来んじゃね? いけんじゃね?」と思って。それまでは全く音楽の経験も無かったし、SNSやYouTubeで何かを発信することは全くしていなかったんですけど、なんかそう思ったんですよね。その時はやってることはパチンコしかなかった、というくらい(笑)

ーー「しかなかった」はヤバいですね(笑)。どれぐらいの頻度でギャンブルを?

PizzaLove:表現としておかしいかもしれないですけど、週8とか週10って感じですね。

ーー“Eight Days A Week”というか“一週間に十日来い”というか(笑)。

PizzaLove:朝から並んで負けて、 昼に誰かに土下座してお金を借りて、夕方に1回リベンジ! みたいな。そういう日々を繰り返してましたね。

ーー『賭博黙示録カイジ』や最近話題の『連ちゃんパパ』みたいな話になりそうなので、Lil Pumpに話を戻すと、PizzaLoveさんがYouTubeにアップした「寿司買う。」はLil Pump「Gucci Gang」のオマージュ的な部分がありますね。

PizzaLove:多分、最初に書いたリリックは「寿司買う。」じゃないかな。最初にYouTubeにアップしたのは「I`m Juggler」だったと思うんですが、作ったのは「寿司買う。」の方が先だったはずです。

ーー その意味では、曲を作り始めた時から、制作と発表は直結していたというか。

PizzaLove:曲を作ったら周りの友達に聴かせて、「ウケんだけど!」って言ってくれたら、そのまま発表に繋がるって感じかもしれないですね。

ーー最初期の時点から、夢や理想といった「大きなことを語る」のではなく、「半径100メートルの世界」を歌っていますね。

PizzaLove:とにかく「リアルなことを歌いたい」って気持ちなんですよね。「寿司買う。」も、俺のリアルがそういう感じだからあの内容になって。だから「ギャグを歌いたい」って気持ちでは実はないんですよ。笑ってもらえたら嬉しいし、楽しんでくれれば最高なんですけど、自分としてはあえて「ギャグラップをやっている」っていう気持ちはなくて。それよりも、自分のリアルな部分を形にしてるって気持ちの方が強いんですよね。

ーーそういったリアリズムは、LB-RUGさん、M.A.Gさん、脱退されましたがYoung SEXさんと結成されたTajyusaim Boyzでも顕著ですね。個人的な印象ですが、Tajyusaim Boyzのライブを見た時に、「リボで買う。」のフックをお客さんが合唱してる光景にすごくカルチャーショックを受けたんですよ。個人的にはあの曲は、金銭の貸借から発生する搾取の究極系を歌にしていると思うんですね。バズった曲だからこそ、みんなが盛り上がるっていう部分は当然あると思うけど、そういう経済体制や政策、経済的搾取構造に対して、もう開き直って笑うしか、歌うしかないっていう、やけくそのペーソスやニヒリズムも感じて。しかも、それを生まれた時から不況下にいる世代の子達が合唱してるっていうのは、物凄い光景だなって。

PizzaLove:まあ、他には無い曲ですよね。「聴いて元気になりました」っていう人もいるし、「俺も借金まみれだったけど頑張ってます」みたいなリアクションもあって。とにかく曲を聴いて元気になってくれれば嬉しいですね。

ーーヒップホップだと「昔は俺も借金まみれだったけど、今はラージに稼いでる」といった話が多いですよね。しかしTajyusaim Boyzは「現在進行系で借金を抱えている」ことを明言したのが、新しさだったのかなって。

PizzaLove:ホントに、現在進行形でみんな困ってますからね(笑)。

ーーその意味でも若いリスナーが共感したり共鳴するのは、「成功物語の途中を見ている」っていう部分なのかなって。

PizzaLove:いつかは成功したいですからね。借金全額返済は一つの夢なんで(笑)。

ーーYouTubeの再生回数などを見ると、着実にステップアップを果たしているように思います。

PizzaLove:応援してくれる方々のお陰で、やり始めた頃よりは少しずつ良くなってきてるとは思いますね。始めた頃みたいに呼ばれてもノーギャラってことは無くなったし、今は地方にもライブで呼んでもらえるようになって。「めちゃくちゃ稼いでる!」って感じでは正直ないし、いつもギリギリなんですけど、少しずつ良くはなってますね。

ーーYouTubeで公開され、今回のアルバムにも収録されている「アイマユウタ」ではご自身の電話番号を発表されていますが、あの番号にブッキングの連絡はあったりしましたか?

PizzaLove:結構あったんですよ! いつも通り、面白半分に掛かってきた電話かと思って、「もし~も~し」とかふざけて出たら「PizzaLove さんのお電話ですか? 実はブッキングの件でお電話して……」みたいな、超真面目な電話で、「ヤベえ、なんか外しちゃった……」という時もあったり(笑)。

ーーマイク・ジョーンズが自分の電話番号を曲に織り込んだり、サイプレス上野がラジオで電話番号を発表したり、自分の住所をプリントしたグッズを作ったりという前例はありましたが、YouTubeで発表するというのは新鮮でしたね。

PizzaLove:未だに「YouTube見て電話しました」って掛けてくる人も多いし、実は、いまこのインタビュー中にも掛かってきてますね。多い時は最高で1000件ぐらい掛かってきたんじゃないかな。一分おきぐらいに、携帯がフリーズするぐらい掛かってきてたんで、途中でカウントするのは諦めました(笑)。やっぱり最初はほとんどふざけて掛けてくるんですよ。「あ、ホントに出た!」みたいな(笑)。でも10分ぐらい話してるとみんな真面目な話をしてくれたり、中には人生相談をしてくれる人もいて。今回のアルバムも、「アイマユウタ」を見て電話を掛けてきてくれた人の話から膨らんでいったんですよね。

ーーその経緯を少し具体的に教えてもらえますか?

PizzaLove:中学生の女の子から電話が掛かってきたんですよ。俺も「オイッス」みたいな感じで出て、向こうも「PizzaLoveだ!ウケる!」みたいな反応で。それで「いつも見てます。元気もらってます」みたいな始まりだったんですけど、少しシリアスな話になっていったら、その子のお父さんは色々問題がある、と。それで「私もPizzaLoveさんみたいに明るく振る舞いたいんですけど、どうしたらいいですか」って聞かれて。そこで俺も、ウチも母子家庭で、母ちゃんがシングルマザーで育ててくれたんだけど、それまでは似たような境遇だったんだって話をしたんですよね。ウチの父親も母ちゃんをぶん殴るし、家にもお金を入れない、愛人も作ってて……って。それで、その女の子と話をしたあとに出来たのが、「親父の歌」だったんですよね。そういう相談を受けたなら、自分もそういう境遇だったことをちゃんと書いた方が良いのかな、そして曲を通して、その子にメッセージを伝えられたらいいな、と思ったんです。だからこの曲は自分の生い立ちでもあるんですけど、同じような境遇にあった人や、女性や子供に対する暴力へのメッセージでもあるんですよね。

ーーこのアルバムの後半、「諦めましょう」以降の曲は、今までPizzaLoveさんが発表してきた曲とは違う感触のある楽曲が中心になっていますね。そこではシビアさであったり、シリアスさ、ポエジーさなどが中心になっています。このアルバムは「キャラクター的な面白みが評価されるPizzaLove」は前半などで形にはなっているんだけど、全体としては「人間:PizzaLove」という感覚を覚える。だから、「キャラクターとしてのPizzaLove」で全部を押し切らなかった部分も非常に興味深くて。

PizzaLove:さっき話した電話の件も含めて、去年一年でガラッと人生が変わったんですよね。色んな経験もさせてもらったし、その中で、伝えたいことがたくさん増えてきて。だから、笑ってもらったり、ハッピーな気持ちになってもらいたいっていうのは当然あるんですけど、同時にそれ以外にも表現したいことが多くなってきて、それが今回のアルバムになっていったというか。

ーーそれも自分にとってのリアルを追求したということですね。その意味でも、ラッパーとしての、表現者としての自覚が増したが故に、こういった作品が生まれたのかなって。

PizzaLove:そうかもしれないですね。だから自分のYouTubeチャンネルも、MVや音楽をアップするだけにしてて。

ーーいわゆるYouTuber的なアプローチはやめたと。

PizzaLove:新型コロナの自粛期間には、エクスクルーシブとしてMV以外の映像をアップしてるんですけど、以前みたいなおもしろインタビューとか、コミカルな動画だったりはもうアップしないと思いますね。やっぱりやりたいことが変わってきてると自分でも思うし、アーティスト活動に専念したいっていう気持ちもあって。

■「“頑張り続ける”ことだけが正解じゃない」
ーーPizzaLoveさんは日本語ラップシーン叩き上げ、現場叩き上げというタイプではないし、むしろYouTubeを通して急激に注目度を高めたタイプですが、YouTubeを発信源に選んだ理由は?

PizzaLove:YouTubeでバズを狙ったっていうのはありますね。バズることができれば注目度が高まるし、影響力が生まれる。影響力があれば自分のアプローチも届きやすくなるだろうなっていう戦略はありました。それに特に無名だったら細かくライブするよりも、YouTubeで発信した方が、一気に多くの人に自分の存在を届けることが出来ると思うんですよね。

ーー伝播力の違いとしても、YouTubeを選ぶことが必然だったと。

PizzaLove:おかげで、僕らと真逆のスタイルだったり、あんまり近くなさそうなアーティストの方からも反応があったり、面白がってくれたりっていうレスポンスがありましたね。基本的にはポジティブな反応の方が多かったです。

ーー「アイマユウタ」はやっぱり飛び道具だと思うんですね。言い方は悪いかもしれませんが、中途半端な飛び道具は自分も怪我するし攻撃力が低いけど、「アイマユウタ」ぐらい強烈な飛び道具だと、やっぱり殺傷能力が高いんだなって(笑)。

PizzaLove:そう思ってくれれば嬉しいですね。

ーー「諦めましょう」も、TOMOVSKYの「うしろむきでOK!」を想起させるような、後ろ向きなポジティブを感じました。

PizzaLove:「嫌なことでも我慢してやるのが正しい」って、子供の頃からけっこうみんな言われてることだと思うんですね。でも、結局人生は一度きりだし、辛いことを我慢して、潰れちゃったり追い込まれるぐらいなら、嫌なことは止めて、本当に好きなことをやって、心は幸せになった方がいいじゃないかなって思うんですよね。無責任な発言に思われるかも知れないけど、でも本当にそう思うんです。

ーー逃走や逃避を是とするのは、RHYMESTER「逃走のファンク」を想起させるし、ファイトミュージックではない部分を強調するのは興味深いですね。

PizzaLove:頑張るのも大事かもしれないけど、「頑張り続ける」ことだけが正解じゃないよなって。

ーーアルバムは「夜が終わる」という、ポエジーな部分やエモーションを刺激する曲で終わりますね。

PizzaLove:「アルバムだから」っていう、こだわりに近いと思いますね。好きな曲を選んでリピートしてもらうのも嬉しいんですけど、やっぱりアルバムなんで頭から順に聴いて欲しいし、そうやって聴いてもらえれば、PizzaLoveっていうアーティストが言いたいことが伝わってくれるんじゃないかなって。アルバムだからこそ、一連で形に出来るストーリーや流れは考えて作ってるし、アルバムだからこそ意味のある作品にしたかったんですよ。

ーーそういったこれまでのPizzaLove像を塗り替えるような楽曲もありますが、前半部は「GALFY 2 ft. 輪入道, Neon Nonthana」や「みちょぱ」のような、これまでのPizzaLove像を打ち出す部分もあって、そのバランスも良いですね。

PizzaLove:やっぱり笑えるPizzaLoveを求めてる人も多いと思うし、自分でもそういう曲は作りたいんで、入り口はそうしようと。

ーー中でも「俺はカウボーイ ft. 惡Smith」は、何かのメタファーだったり、ダブルミーニングになってるのかなと思ったら、全然そうではなかったことに衝撃を受けたんですよ。

PizzaLove:っていうのは?

ーーPizzaLoveさんの曲には「スニーカー買いたい ft. LB-RUG」のような物欲曲も多いので、「カウボーイ=買うボーイ」というダブルミーニングかなと思ったんですよ。

PizzaLove:あ! なるほど! その発想はなかったです(笑)。カウボーイって子供の頃はみんな1回はかっこいいと思ったはずなんで、それを曲にしようって。

ーーだから、真面目に考えて損したなって(笑)。

PizzaLove:ハッハッハ。ある意味、変化球になってたんすね。

ーー真っ直ぐ過ぎて変化球に見えました(笑)。ちなみに「くまちゃんリング」っていうのは……。

PizzaLove:曲でも言ってるんですけど、ガストで買えるおもちゃのリングですね。バーミヤンにも置いてあったはずで。

ーーすかいらーくグループで買えるんだ(笑)。

PizzaLove:めちゃめちゃクオリティが高くて、もう勝手にガストにはジュエリーショップ感すら感じてます(笑)。ただ値段が値段なんで、すぐ壊れちゃうから、飯食わないんだけど、くまちゃんリングだけを買いにガストに行ったりしてますね。

ーー今回のアルバムは、新型コロナの余波を受けて発売が延期になりましたが、そのブランク期間には「ぴえん」や「拳で~コロナREMIX~ ft. LB-RUG,M.A.G,惡Smith」などをYouTubeにアップしていました。

PizzaLove:アルバムの発売が延期になりますっていう発表をしたら、やっぱり「楽しみにしてました」とか「残念です」とメッセージやDMももらったんで、せっかくだったらこの期間を楽しんで欲しいな、っていうことで、制作に取り掛かりました。

ーーちなみに、このアルバム以降の動きは考えていますか?

PizzaLove:いまはちょっと状況的に厳しいかもですが、大きい会場でライブがしたいですね。

ーーそれはどれぐらいの規模の?

PizzaLove:例えば、Zepp Tokyoぐらいの。

ーースタンディングで3000弱の規模ですね。かなり大きい。

PizzaLove:しかもそれは無料でやりたいんです。っていうのは、応援してくれる人には、本当にマジのマジで感謝しかないんですよね。だからその恩返しがしたいんですよ。自己満足かもしれないけど、そういう形で、受けた恩みたいなものを返したい。それから、実はもう次のアルバムに取り掛かることが出来るようにはなっているんですよね。でも制作費がなくて、いかんせん形に出来ていなくて。だから、クラウドファンディングなのか、別の形かはまだ詰められてはないんですが、そういったアプローチで制作費をプールする方法をいま考えてますね。それが出来れば、すぐに次の作品はリリースできるんで。

ーークラウドファンディングで集めたお金を、「パチンコで倍にする!」とか言い出したら、本物って感じがしますけどね(笑)。

PizzaLove:アッハッハ! そういうのやった方がいいのかな~。でも流石にそれは心が痛くて無理かも(笑)。作品は作り続けると思うので、楽しみにしてて欲しいですね。

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