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RADWIMPS、秦 基博、ビッケブランカ…コミックス・ウェーブ・フィルム作品主題歌の共通点を探る

リアルサウンド

18/8/10(金) 18:00

 近年の新海誠監督の作品を手掛けてきた日本のアニメスタジオ、コミックス・ウェーブ・フィルムと、中国の人気アニメブランド、ハオライナーズがタッグを組んで制作した日中合同アニメ映画『詩季織々』。その劇場公開が、8月4日よりスタートした。

参考:ビッケブランカ、新曲「ウララ」で描いた“サヨナラの肯定” 歌詞に込められたメッセージを読み解く

 この作品は、ハオライナーズの代表であり、今回の総監督も務めたリ・ハオリン監督が、新海監督の『秒速5センチメートル』に衝撃を受け、2013年頃からラブコールを送る中で実現した短編オムニバス映画。主題歌はビッケブランカが担当し、映画のために新曲「WALK」を書き下ろした。

 コミックス・ウェーブ・フィルムといえば『秒速5センチメートル』以降の新海監督の作品にもよく見られる繊細な風景描写などで知られるが、同時に音楽が重要な役割を果たす作品も多く、特に『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』『君の名は。』では“MV的”と評される独特の主題歌の使用法が話題を呼んだことも記憶に新しい。ここではその3作品を振り返りつつ、『詩季織々』の主題歌「WALK」の魅力を紐解いてみたい。

 新海監督とコミックス・ウェーブ・フィルムの初タッグとなったのは、連作短篇アニメーション『秒速5センチメートル』(2007年)。同作では、昔の恋をずっと忘れられずに日々を過ごす主人公の感情に寄り添うような歌詞を持った、山崎まさよしの「One more time,One more chance」を主題歌に起用。終盤、セリフのない美麗なカットの連続とともに同曲を4分弱も流し、「曲に感情を代弁させる」手法で大きな注目を集めた。また、この作品では第2話『コスモナウト』で挿入されるLINDBERG「君のいちばんに…」と、第3話『秒速5センチメートル』で流れる「One more time,One more chance」のように1996~7年のヒット曲を効果的に使用し、作品を貫く時の流れも印象的に表現していた。

 新海誠監督の2013年作『言の葉の庭』では、秦 基博の「Rain」(大江千里のカバー)が主題歌に。この作品では映画のラストで同じく「Rain」が4分以上流れ、カメラが次第にズームアウトして物語がラストを迎えていく。心に傷を抱えた女性と主人公の関係が生む繊細で不器用な心模様や、2人をつなぐ「雨」を連想させる楽曲に乗せて、ここでも美麗なカットが次々に展開し、楽曲と映像美とがダイレクトに観客の心を揺らす効果が生まれていた。

 そしてメガヒット作となった2016年の『君の名は。』では、RADWIMPSとのタッグが実現。劇中に「夢灯籠」「前前前世」「スパークル」「なんでもないや」の4曲を主題歌/劇中歌として使用した。その際、新海監督が「曲を聴いたうえでつくりたいシーンがある」とオーダーをしたという逸話は、新海監督やコミックス・ウェーブ・フィルム作品と音楽との関係の深さを象徴するものかもしれない。この作品では映画の冒頭、「夢灯籠」がアニメのOPテーマのような形で挿入され、観客を作品の世界に一気に引き込むような効果が生まれていたほか、「前前前世」を筆頭に以降も作品の登場人物の感情と絶妙にマッチした形で楽曲が挿入されることで、RADWIMPSの音楽にも注目が集まった。その年の『NHK紅白歌合戦』に彼らが初出演したことは、映画と楽曲とが理想的な相乗効果を生んだ結果の出来事だった。

 こうして3作を振り返っても、コミックス・ウェーブ・フィルム作品で印象的に使用されてきた楽曲に共通するのは、主題歌が主題歌としての役割を超えて、ある種劇中のセリフと同じような役割までを担っているということ。もちろん、映画において主題歌や挿入歌が重要な役目を果たすのは多くの作品でも言えることだが、この3作品では主題歌の音と歌詞とが、物語を進めるうえでの重要なプロットのひとつとして作品に組み込まれているように感じられる。そして、それが成立するのはやはり、コミックス・ウェーブ・フィルム特有の繊細でクオリティの高い、それ自体が芸術作品であるかのような風景描写があってこそだ。

 だとするなら、『詩季織々』の場合はどうだろうか? ビッケブランカが作品のために書き下ろした「WALK」もまた、今回の物語において重要な役目を果たす楽曲になっている。

 『詩季織々』は中国の暮らしの基となることわざ「衣食住行」をテーマに、イシャオシン監督が故郷・北京の「食」をテーマにした『陽だまりの朝食』を、竹内良貴監督がファッションの街・広州の「衣」をテーマにした『小さなファッションショー』を、リ・ハオリン監督が故郷・上海/石庫門の「住」をテーマにした『上海恋』を担当した短編オムニバス作品。3つの短編において様々なかたちで描かれる「失いたくない大切なもの」を通して、急激な経済発展を遂げる中国の今や、変わりゆく時代の中で忘れたくない記憶、市井の人々の人生が、丁寧な筆致で浮かび上がってくる。今回がオリジナル作品の監督デビューとなる竹内監督を筆頭に、『秒速』や新海監督作品のスタッフ陣が多くかかわっているのも特徴だ。

 今回のビッケブランカの「WALK」は、そうした作品のもうひとつの重要なテーマ、「衣食住行」の「行」を連想させるものになっている。まず印象的なのは、ピアノとアコギのフレーズが生むゆるやかなテンポ感。ビッケブランカ本人の発言によると、制作時点では「衣食住行」については知らなかったものの、劇中で「歩く描写が多い」と感じたことからこの曲が生まれたという。彼の代名詞のひとつでもある、ミュージカル的でおもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルなポップ曲ではなく、ゆるやかな音の連なりが人々の歩みや人生に似た何かを連想させる、『詩季織々』の世界観に寄り添った雰囲気のサウンドだ。

 また、今回の「WALK」には3作品を横断するような魅力が生まれているのも特徴だろう。それぞれの作中では、「衣」「食」「住」という各話のテーマをモノに象徴させて表現するような形式が取られており、『陽だまりの朝食』では「汁ビーフン(=食)」、『小さなファッションショー』では「朱色のドレス」(=衣)、『上海恋』では「主人公とヒロインの家を行き来する1本のカセットテープ」(=住)が、物語の中で非常に重要な役割を果たしている。そして主題歌の「WALK」は、それらすべてを繋ぐ思いを表現することで、思い出を胸に前へと進む人々の歩みを描き、異なる3本の短編をひとつの群像劇にまとめる役割を果たしている。中でも〈名前などないが長い道をきた/揺れる想いが証なんだ/(中略)さあ歩こう歩こう歩こう〉という歌詞は、作品全体の魅力をまとめるキーワードのように思える。

 すでにはじまった劇場公開に加えて、8月25日からはNetflixを通しての配信も予定されている『詩季織々』。過去のコミックス・ウェーブ・フィルム作品と同様、「WALK」がどこで、どんな風に流れるかにも注目すると、作品をより楽しむことができるかもしれない。(杉山 仁)

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