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Dirty Projectors、Amen Dunes……村尾泰郎が選ぶ、メロウな歌心を持ったオルタナ作品5選

リアルサウンド

18/7/30(月) 13:00

 艶やかな歌声を、しっとり聴かせる音楽も良いけれど、そこに実験的なサウンドが加わることでユニークな世界が生まれる。今回はそんなメロウな歌心を持ったオルタナティブな作品を紹介。

 まずはNYインディーシーンの重要バンド、Dirty Projectors。恋人との別れ、そして、バンドの解体という節目を乗り越えたバンドの中心人物、デイヴ・ロングストレスが、新メンバーと新作『Lamp Lit Prose』を完成させた。ロビン・ペックノールド(Fleet Foxes)、ロスタム(元Vampire Weekend)、シド(The Internet)など多彩なゲストが参加した本作は、パーソナルな雰囲気を漂わせていた前作『Dirty Projectors』から一転。ジャズ、R&B、アフリカ音楽など様々な音楽性を消化した緻密なアンサンブルは開放感に持ちている。アコースティックギターの柔らかな音色や心地良いハーモニーなどアルバム全編に漂う穏やかさが印象的で、デイヴの歌声も軽やか。新しいモードに入ったことが伝わってきて、新生Dirty Projectorsへの期待が高まるアルバムだ。

Dirty Projectors – I Feel Energy (feat. Amber Mark) (Official Audio)

 さらにNYのインディーシーンからもう一枚。孤高のシンガーソングライター、デーモン・マクマホンによるソロユニット、Amen Dunesの新作『Freedom』を紹介したい。本作はBeach HouseやGrizzly Bearを手掛けたクリス・コーディがプロデュースを担当して、Yeah Yeah Yeahsのニック・ジナーや「ベッドルームミュージックのサンタナ」と称されるギタリストのデリケート・スティーヴなどが参加。サイケデリックでフォーキーな歌がシド・バレット(Pink Floyd)と比べられることも多いデーモンだが、今回はThe Velvet Undergroundの遺伝子を受け継ぐようなロック色の強いサウンドを打ち出した。そんななか、デーモンの塩辛い歌声が強烈な存在感を放っていて、聴けば聴くほど引き込まれていく。

Amen Dunes – Believe (Official Music Video)

 ところ変わって、3枚目は近年注目を集めるトロントのシーンから。サンドロ・ペリ、ライアン・ドライヴァーなど、様々なアーティストの作品に参加してきたキーパーソン、エリック・シュノーは新作『Slowly Paradise』で独自のスタイルにさらなる磨きをかけている。即興をベースにして、スライドギターのような独特のうねりをもったギターの音色やシンセを幾重にも重ねて生み出したアブストラクトな音響空間。特徴のあるギターサウンドは人の声のように聞こえたりもして、多重録音されたギターがざわめくようなハーモニーを生み出すなか、エリックの繊細なファルセットボイスが沁み渡っていく。ジャズ、フォーク、ソウル、現代音楽など、様々な要素を感じさせながら、そのどれでもない不思議な音楽。基本的に全曲ラブソングというのも興味深い。

Eric Chenaux | “There’s Our Love”

 そして4枚目は、ブラジルのロックシーンから。60〜70年代ロックから影響を受けながらオルタナティブな感性も持ったサンパウロのバンド、O Ternoのメンバーとしても活動する、ブラジルのシンガーソングライター、チン・ベルナルデス。彼が昨年リリースして話題を呼んだ1stソロアルバム『RecomeÇar』の日本盤がリリースされることになった。アコースティックギターやピアノの弾き語りを軸にしながら、ヴァン・ダイク・パークスのような躍動感溢れるストリングスをはじめ、内省的で工夫を凝らしたオーケストラ仕立ての音作りはThe Beach Boys『Pet Sounds』を彷彿させる。そのなかを揺らめくように漂うベルナルデスの歌声は、カエターノ・ヴェローゾを思わせる艶やかさ。トロピカリズモの実験精神と歌心が、ここにはしっかりと受け継がれている。

Tim Bernardes – Recomeçar (Clipe Oficial)

 最後は日本。前野健太、ジム・オルーク、星野源など、様々なミュージシャンと共演してきたマルチプレイヤー/シンガーソングライターの石橋英子の4年振りの新作『The Dream My Bones Dream』が完成した。今回は家族写真を手掛かりにして、家族の歴史を掘り返すことが曲作りのきっかけになったとか。ゲストには、ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久といった仲間達に加え、ノルウェーのトランペット奏者、アイヴィン・ロンニング。オーストラリアのドラマー、ジョー・ダリアなどが参加。ストリングス、ペダルスティール、トランペット、アナログシンセなど、様々な楽器を使用して重層的に作り上げられたサウンドは、音のスクリーンとなって様々な物語を浮かび上がらせていく。そして、歌声は物語のナレーターというより、物語を取り巻く気配のように妖しく官能的。エピローグから始まってプロローグで終わる本作は、まるで一本の映画を観るように異世界へと誘ってくれるはずだ。

[石橋英子 / Eiko Ishibashi “Agloe” (Official Audio)

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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