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堀込高樹×堀込泰行が奏でた“この瞬間しか味わえない贅沢なサウンド” KIRINJI20周年ライブを見た

リアルサウンド

18/11/25(日) 18:00

 2018年7月26日、渋谷クラブクアトロ。KIRINJIはその夏、アルバム発表後のツアーとして福岡、大阪、名古屋と各地で公演を行い、東京にて最終日を迎えていた。2日間の東京公演は共にソールドアウト、会場には多数のファンが列を作り、そわそわと開場を待っていた。観客はみな、現行のダンス・ミュージックやヒップホップの力強い音像を取り入れた新しいKIRINJIの楽曲が、どのようにライブで再現されるのかと期待を膨らませている。もしここで安易に「6月に発表した新作『愛をあるだけ、すべて』を”ひっさげて”の公演」などと書けば、常套句やルーティンを何より嫌う堀込高樹に叱られてしまうだろう。「KIRINJIはニューアルバムをひっさげない」「『愛をあるだけ、すべて』を小脇に抱えてやってきました」と語る堀込高樹だからこそ、作品は新鮮さと意外性に満ちているのだ。

参考:堀込泰行、音楽を通して描く未来の可能性 KIRINJI 堀込高樹との関係性から考察

 夏のツアー最終日の開場時間となった18時、入場待ちの列に並びながらスマホを眺めていた人びとが一斉に驚きの声を上げる。いったい何ごとかとまわりの会話に聞き耳を立てると、思ってもみないニュースが飛び込んできた。11月にグループ結成20周年の記念ライブが開催され、堀込高樹、堀込泰行が揃って演奏するというのだ。18時の情報解禁と共にいくつかの音楽ニュースサイトで発表された途端(KIRINJIメジャーデビュー20周年ライブに堀込泰行、キリンジも集結)、会場前はしばし騒然となった。ファンならずとも意外なニュースをよりにもよってライブ開始直前に知らされ、いくぶん不安定な精神状態のまま開演を迎えるほかない観客たち。会場にいた女性ふたりが「今からどんな気持ちでライブを見ればいいのかわからない」と動揺していたことを覚えている。”進んでしまった時計の針は戻せない”とは、何も音楽グループだけに限った話ではなく、さまざまな人間関係にあてはまる普遍的なものだ。別の道を選び、袂を分かった者がふたたび顔を合わせるという行為には、独特の緊張がつきまとう。

 2013年4月に堀込泰行がキリンジを脱退してから、およそ5年半。堀込高樹はバンド名をKIRINJIとアルファベット表記に変えた上で再出発し、堀込泰行はソロアーティストとなった。そのどちらもがきわめて充実した活動になっており、ファンはキリンジからKIRINJI/堀込泰行への移行を受け入れ、現在の彼らが届ける表現を楽しんでいる。だからこそ、兄弟がふたたび共に演奏する可能性はあるのか、という問いは無期限に留保され続けていた。「いつかそうなる日が来るかもしれない、ただし今ではない」というように……。今回の20周年ライブを見にきたファンの方たちにも会場で話を聞いてみたが、このニュースを最初に知った率直な感想として”複雑”という言葉を選ぶ人は多かった。

 「兄弟での演奏はもうしないと思っていた。やるにしてもちょっと早い気がした」(Uさん)。「今のKIRINJIが楽しいから、ふたりの共演は予想しなかったし、意外」(Aさん)。「20周年のニュースは素直に嬉しかった。ただ、共演するのはふたりがおじいちゃんになってからだと思っていた」(Rさん)。「フェスなどで、KIRINJIと堀込泰行バンドが同じ日に出るといった可能性はあると想像していた。5年半で直接の共演は驚いた」(Qさん)。「あと10年後くらいにもしかしたら……と考えていた。予想よりずっと早かった」(Kさん)。また、今回のライブにコーラスで参加した真城めぐみは「やらないと思ってた」とステージ上で述べたが、それはキリンジをよく知る者がみな考えていたストレートな意見でもあった。

 ことほどさように、多くの人が「やらないと思ってた」兄弟揃ってのライブは大きな話題となり、大阪1公演、東京2公演はすべて瞬時に完売。惑星直列か、秘仏開帳かという注目度の中、転売されたチケットが異様な高値になるなど、公演への期待は高まっていった。この盛り上がりを危惧したのか、堀込高樹は、今回の兄弟での演奏はあくまでエキシビションであるため、あまりウェットにならずに楽しんでほしいと伝えている(会員制ホームページ内での発言を要約)。たしかに、感傷的に過去をふりかえる態度は堀込高樹がもっとも苦手とするところだろう。彼は、懐古的な手法や表現のルーティン化をかたくなに拒否し、アルバムを出すたびに新鮮なサプライズを提供することをみずからに厳しく課してきた音楽家だ(参考:堀込泰行、音楽を通して描く未来の可能性 KIRINJI 堀込高樹との関係性から考察)。だからこそ、堀込高樹が20周年ライブに対して抱く逡巡もまた想像がつく。KIRINJIはあくまで現役のバンドとして前進しており、今回の共演は20周年という節目におけるささやかなエキシビションであると、堀込高樹は伝えたかったのだろう。

 こうした説明は頭では理解できるものの、兄弟が揃って演奏する姿を感傷的にならずに眺めることもまた難しい。では、単にレトロスペクティブなイベントとなることを避けるために、堀込高樹はどのような手段を取るのか。今回の「20th Anniversary Live『19982018』」は3公演が行われたが、私は11月15日、11月16日の2公演を見ることができた。印象深い場面は数多くあるが、わけても、会場となる豊洲PITへ足を踏み入れた瞬間に感じたただならぬ熱気は忘れがたい。ついに兄弟が揃ってふたたびステージに立ち、演奏するのだ。客電が落ちた瞬間の、歓喜とはまた少し違った声援は、見られるとは思っていなかったライブが本当に始まってしまうという緊張と不安の声でもあった。

 公演は4部構成となっており、堀込泰行、KIRINJI(パート1)、アーリーキリンジ、KIRINJI(パート2)の順で演奏された。兄弟が揃うのはアーリーキリンジの部であり、かつてのプロデューサー冨田恵一や真城めぐみといったゲストも参加した。ライブのトップバッターである堀込泰行はバンドを従え、ソロの楽曲、またキリンジ在籍中のプロジェクトである馬の骨名義での楽曲を演奏。白いテレキャスターから鳴る歯切れのいいギター音が印象的な「Beautiful Dreamer」は、まさに現在の堀込泰行だ。続くKIRINJI(パート1)では、堀込高樹のソロアルバムからの楽曲「冬来たりなば」が実にすばらしかった。正月の風景を描写した歌詞のユニークさ、メロディの美しさ、どれもがみごとであり、なぜこのような楽曲が書けてしまうのか、唖然とさせられる。1部、2部と演奏し、観客側の心の準備が整ったであろうタイミングでKIRINJIはステージを後にした。ついにアーリーキリンジと題された第3部が始まる。

 アーリーキリンジはビデオの上映からスタートした。まだ20代の彼らが、インタビューに答える無邪気な姿がステージに映写される。何とも若々しい兄弟の、はつらつとした表情。やがて、初期のアップテンポな楽曲「牡牛座ラプソディ」が流れ、過去のライブ映像やプロモーションビデオが年代を追って映された。封印した過去の甘い記憶が一気に噴出するような、心憎い演出。多くのファンが、このビデオだけで感極まったことだろう。映像が終わり、まずは堀込高樹、そしてバンドのメンバーがステージへ登場する。最後にやや遅れて、ゲスト扱いとなる堀込泰行がゆっくりとマイクの前に立ち、ついに兄弟が同じステージにふたたび揃った。もう二度と見られなかったかもしれない光景に、たまらず会場全体が沸き立つ。古くからキリンジを応援してきた人びとにとっては、かつての見慣れた姿であり、堀込泰行脱退後にキリンジ/KIRINJIを知った聴き手にとっては、もはや存在しないものとしてあきらめるしかなかった布陣。

 3部で演奏されたのは6曲。「ニュータウン」「雨を見くびるな」「アルカディア」と初期の楽曲を聴きながら、彼らがデビュー当時からいかに高い完成度であったかをあらためて感じる。コーラスで兄弟の声が重なるたび、この瞬間しか味わえない贅沢なサウンドにめまいがしそうだった。驚いたのは、続けて演奏された「エイリアンズ」「Drifter」の2曲。どちらもキリンジを代表する楽曲だが、あまりにもメジャーなこれらの曲を連続でプレイするとは予想しなかった。当然、観客にとってはどちらも聴きたい曲だが、ここまで王道の選曲でサービスしてくれるとは思っていなかった。「エイリアンズ」イントロの有名な主旋律を弾くのは、現KIRINJIのギター弓木英梨乃。普段は明るい笑顔で楽しそうに演奏する弓木も、この時ばかりは真剣な顔つきでプレイしている。あくまでエキシビションとして、懐古的にならないような節度を保ちつつ演奏を続けるアーリーキリンジには、やはり独特の緊張感があった。最後は、98年8月のメジャーデビューシングル「双子座グラフィティ」をプレイして終了。終わってしまえばあっという間の3部であった。

 4部はKIRINJI(パート2)。最新アルバム『愛をあるだけ、すべて』からの楽曲を中心に、グルーヴのある演奏を見せる。この4部をイベントの最後に用意し、観客を納得させる最新型KIRINJIを提示することが、20周年ライブを懐古的なイベントに終わらせないためのこだわりであったように思えてならない。ドレイク「Passionfruit」のリズムを引用した「silver girl」でエンディングを迎える頃には、今のKIRINJIならではの魅力が十分に伝わっていたのではないだろうか。最後は出演者全員がステージ上に並んで観客へ一礼、20周年ライブは終了した。

 終演後、興奮した面持ちで会場を出る観客たち。次に兄弟が揃って演奏するのが見られるのは5年後か、10年後か……。先述したAさんは、ステージ上の兄弟の立ち位置がキリンジ時代と逆だったと指摘していた(キリンジ時代の堀込高樹は舞台の上手が定位置であった)。堀込泰行をあくまでゲスト扱いにとどめ、ステージ上の立ち位置をあえて逆にするといった細かな配慮にも、ノスタルジーの回避が見え隠れしているといったら深読みがすぎるだろうか。しかし、たとえどれほどの逡巡があろうとも、兄・高樹が、ボーカリストとしての弟・泰行に惚れ込んでいるからこそ、今回の20周年ライブが成立したことは間違いないだろう。キリンジを愛する者たちは、その気持ちにこそ胸を打たれるのだ。(伊藤聡)

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