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Four Tet、Arca、Charles Webster、Slick Shoota、Eccy……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選

リアルサウンド

21/1/10(日) 10:00

Four Tet『Parallel』『871』

 フォー・テットが昨年のクリスマスに『Parallel』『871』という2枚のアルバムを同時リリース(いずれもText Recordsから)。これでキーラン・ヘブデンは2020年中にフォー・テット名義だけでアルバム3枚、単曲で20曲ほどリリースしたことになります。ほかにマッドリブとのコラボや別名義の作品もあり。その多作ぶりにはいつも驚かされます。

 『Parallel』は、メロディアスなシンセサイザーの繊細な音色を前面に出したアンビエントハウス〜エレクトロニカ〜ブレイクビーツで、いわばフォー・テットの王道ともいうべき洗練された美しい作品。もう1枚の『871』は、内省的なアンビエント〜ドローン〜ノイズ〜コラージュで、キーランの内面や心情がより色濃く投影されている、個人的な作品と言えるかもしれません。それゆえか、『Parallel』は各サブスクリプション配信サービスではフォー・テット名義でリリースされていますが、『871』は00110100 01010100なる別名義で配信されています。

Parallel 1
0000 871 0001

Arca『Riquiquí;Bronze-Instances(1-100)』

 アルカの『Riquiquí;Bronze-Instances(1-100)』(XL Recordings)は、昨年のアルバム『KiCk i』に収録された楽曲「Riquiquí」のリミックス集ですが、機械学習音楽制作ソフトウェア“Bronze”によって作成された、なんと100個ものリミックスバージョンを収録したもの。これまでアルカは自分の曲のリミックスを一切許可してこなかったらしいですが、初の公式リミックスがソフトウェアによる自動生成集とは、いかにもアルカらしいぶっ飛んだ企画です。延々6時間近くにもわたって展開される100通りのバージョンを大音量で聴くうち、知覚が麻痺して自分がどこで何を聴いているのかわからなくなってくるような感覚に陥ってしまう。前代未聞の凄まじい聴取体験です。

Dadub『Hypersynchron』

 2008年ごろからイタリアを拠点に活動するダニエレ・アンテッツァとマルコ・ドンナルマによるデュオ、ダダブ(Dadub)の7年ぶりの2ndアルバム『Hypersynchron』(Ohm Resistance)。暗黒の波動が地獄の底から地響きを伴って迫ってくるような、不吉で邪悪なダークアンビエント〜ドローン〜ノイズダブ〜インダストリアルが強烈です。英国の暗黒魔王ミック・ハリス率いるスコーン(SCORN)による重量級のリミックスを含む1時間の超絶体験。昨年あたりからアルバム単位で目立って増えてきた猫も杓子もアンビエント〜ドローンのブーム(?)にくさびを打ち込むような、決定的な作品です。

Premiere: Dadub – On Fungus Drool [Ohm Resistance]

Slick Shoota『Function』

 モントリオールを拠点とするDJ/プロデューサー、スリック・シュータ(Slick Shoota)の1stアルバム『Function』(TEKLIFE)。ジューク/フットワーク、レイヴ〜ドラムンベース、ダブステップ、トラップまでも包含したハイブリッドなミュータントディスコで、サブベースのアタックが強烈な重低音と、気の触れたようなアップテンポの変則ビート、耳障りな上モノがもつれあうように凄まじいスピードで疾走していく刺激的な作品です。コロナが明けたら、こういうダンスミュージックで踊りたいもの。

TEKLIFE012 – SLICK SHOOTA – 01 HOVERCRAFT

Israel Vines『And Now We Know Nothing』

 LAのDJ/プロデューサー、イスラエル・ヴァインズ(Israel Vines)がデトロイトの名門レーベル<Interdimensional Transmissions>からリリースした1stアルバムが『And Now We Know Nothing』 。UKのベースミュージックからの照射を感じさせるダークでエクスペリメンタルなディープミニマルテクノ。ポリリズミックに展開される重いビートが重厚なサブベースを伴って心臓を直撃してきます。アメリカのアンダーグラウンドなテクノシーンの層の厚さを感じさせる力作。

Israel Vines – And Now We Know Nothing (preview clips) [IT 46 / TEETH-8]

MJ Guider『Sour Cherry Bell』

 ニュー・オリンズを拠点に活動するプロデューサー、メリッサ・ギヨン(Melissa Guion)のプロジェクト、MJ・ギルダー(MJ Guider)の4年ぶり新作『Sour Cherry Bell』(Kranky)。ティム・ヘッカーやグルーパーなどで知られるシカゴの名門<Kranky>からのリリースです。シューゲイズ、アンビエント〜ドローン、ゴシックなどの要素を併せ持ったノイジーなエレクトロニカをやっています。前作よりも音が分厚くなり、My Bloody ValentineとCocteau Twinsが悪魔合体してインダストリアルノイズにまみれたような、特異な音像が印象的なダークエクスペリメンタルポップに仕上がっています。できるだけ大音量で浴びるように聴けば、簡単に現実逃避できそう。

Lowlight

The Vision『The Vision』

  英国のベン・ウェストビーチとKONことクリスチャン・テイラーのユニットがThe Vision。同名の1stアルバム『The Vision』がUKハウスの名門<Defected Records>からリリースされました。オールドスクールなディスコ〜ソウル〜AOR〜ファンクからディープハウスまで自在にミックスした、かつてのMasters At Workばりの優雅で洗練された歌ものダンスミュージックです。ジャイルス・ピーターソンからジョー・クラウゼルまで、さまざまな有名DJがヘビーローテーションしているのも納得の高い完成度の楽曲が並び、フロアユースとしても鑑賞用としても最適。部屋を温かくしてお酒でも飲みながらリラックスして聴きましょう。

The Vision featuring Ben Westbeech & Roy Ayers – Wasting
The Vision featuring Ben Westbeech, Honey Dijon & Andreya Triana – Satisfy

Charles Webster『Decision Time』

 その<Defected Records>や<Peacefrog Records>といったレーベルを舞台に長年活動を続けてきたUKの大ベテラン、チャールズ・ウェブスター(Charles Webster)の、なんと約20年ぶりの新作が『Decision Time』(Dimensions Recordings) 。Massive Attackとの共演で知られるシャラ・ネルソン、マドンナの「Justify My Love」をレニー・クラヴィッツと共作したことで知られ、プリンスの<Paisley Park>からアルバムを出したこともある、メキシコ系シンガーのイングリッド・シャベイズなどが参加した、ディープかつ奥行きのあるオーガニックなディープハウス〜ダウンテンポ集です。アゲることを意識しない抑制されたビートと甘さ控えめの歌メロ、優雅で美しいアレンジなど、昨日今日出てきた若造には到底真似のできないような渋いオトナの音楽です。素晴らしい。

Charles Webster – This Is Real ft. Shara Nelson
Charles Webster – The Spell feat. Ingrid Chavez (Vocal Mix)

Robert Hood『Mirror Man』

 こちらはデトロイトテクノの大ベテラン、ロバート・フッド(Robert Hood)の新作『Mirror Man』(Rekids)。黒光りするファンキーミニマルテクノの切れ味鋭いビートに、衰えはまったく感じられません。ここのところダンスミュージックとしてのテクノはすっかり12インチシングルとデジタルデータが中心となってしまい、アルバム単位でのリリースは数えるほどしかなかっただけに、このベテランの旺盛な創作意欲と溢れ出る若々しいエネルギーには脱帽せざるをえません。フロアを揺るがすパワフルなダンストラックだけでなく、アルバムとしても緻密に構成された見事な傑作です。久々にテクノらしいテクノを聴きました。

Robert Hood – Mirror Man

Eccy『Nutrients』

 最後に、日本のビートメイカー・Eccyの3年10カ月ぶりのニューアルバム『Nutrients』(Edulis)。彼が去年設立した自主レーベルからのリリースで、ゲストは一切なし、トラックメイクからミックス、マスタリングまで、ジャケットデザイン以外のすべてをEccyひとりで手がけた、文字通りのワンマンアルバムです。

 彼にとって原点とも言えるサンプリングを中心に作られた作品で、マッドリブやフライング・ロータスなどLAのビートシーンとの共振を感じさせながらも、メロウでメランコリックでシネマティックな叙情が漂う、秀逸なインストヒップホップアルバムに仕上がっています。どこかヨーロッパの香りが漂うサンプリングセンスが抜群のロービーツ集ですね。

公式サイトはこちら
Bandcamp(DL購入、試聴も)

RealSound_ReleaseCuration@Dai_Onojima0110

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

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