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ジョニー・トーの傑作を野心的リメイク! 狂人続出の『毒戦 BELIEVER』は男2人の「情」の物語

リアルサウンド

19/9/30(月) 16:00

 今すぐ頭を強打して記憶を失いたい……! こんな気持ちになる日が来ようとは。『毒戦 BELIEVER』(2018年)は韓国ノワールの新たな傑作であり、香港映画の巨星ジョニー・トー監督の『ドラッグ・ウォー 毒戦』(2012年)を全く違うアプローチで再解釈した野心的なリメイクだ。

 麻薬組織壊滅を目指す野獣刑事ウォノ(チョ・ジヌン)。彼は組織の長、通称“イ先生”逮捕のために人生を捧げていた。しかし、そんな彼を嘲笑うかのように、組織は麻薬工場を丸ごと爆破。足が着きそうになったら組織を組み直すために、関係者を皆殺しにする。いつものイ先生のやり方だ。ところが爆破炎上した工場から、組織の構成員ラク(リュ・ジュンユル)が見つかった。ウォノはラクを拘束し、彼に警察の潜入捜査官として“イ先生”逮捕に協力しろと命令。こうしてウォノとラクはタッグを組み、狂人ばかりの黒社会に潜入していくのだが……そこは本当に狂人しかいなかった!

【動画】『毒戦 BELIEVER』予告編

 本作『BELIEVER』の内容に触れる前に、まずジョニー・トーの『ドラッグ・ウォー』の話をしておきたい。トーさんは普段は香港で活動しているのだが、同作は中国大陸で撮影されている。そして2012年の香港と中国では、映画作りの全てが違った。検閲や現地のトラブルといった制約があったらしく、トーさんはかなり苦労したようだ。しかし、では駄作だったのかといえば、むしろトーさんのキャリアでもベスト級の傑作に仕上がっている。なんとも皮肉な話だが、この傑作は様々な制約があった中だからこそ生まれたのだ。その魅力はトーの映画でも屈指の「非情さ」だ。中国では麻薬所持の罪は物凄く重い。そして反体制的な表現は検閲で引っかかってしまう。つまり犯罪者、とりわけ麻薬組織の人間を美化する表現はもってのほかだ。結果、同作では潜入捜査をする麻薬組織の男は徹底的に悲惨な目に遭い続け、本人も最後までド外道を貫く。そんな彼を操る中国の公安は(これも検閲の関係か)超有能に描かれているのだが、あまりに有能すぎて、カッコいいを通り越して「怖い」の領域に入っている(演じるスン・ホンレイが怖すぎる)。ちなみに日本公での予告編でも「中国公安警察の実態を描いた禁断の野心作!」と、宣伝文句が麻薬組織より公安側のヤバさに傾いていた。こうした制作上の都合にトーさん本人の持ち味である「死ぬときは死ぬ」という非情さが重なり、全編通して「情」が入り込む余地は一切ない快作に仕上がった。終わり方も「たしかに法律通りだけど、だからって悲惨すぎませんか」と思うこと請け合いだ。

 対して本作『BELIEVER』は「情」の映画だ。それはサブタイトルの『BELIEVER』=『信じるもの』からも明らかであるし、監督を務めたイ・ヘヨンも「オリジナルがハードボイルドの権化だとすれば、私はハードボイルドの土台の上にウェットさを加えたかった」と語っている(しかしハードボイルドの権化って凄い表現だな)。この言葉の通り、本作はオリジナルとは全く異なる映画に仕上がっている。本作の最大の魅力は、刑事のウォノとラクの間に生じる「情」だ。たしかに本作は『ドラッグ・ウォー』のストーリーをなぞるが、それも中盤まで。後半からは原作と全く違う方向に話が転がっていく。韓国ノワールの名作たち、『友へ チング』(2001年)、『新しき世界』(2013年)、『アシュラ』(2016年)、『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)に連なる、“男2人、どこまでも……”的な「情」の物語へ行くのだ。これこそ私が頭を打って記憶を消したいと思った原因だ。どうしてもオリジナルと比較してしまい、答え合わせのように見てしまう。「あ~、ここをこう変えたのね」という気持ちがノイズになるくらい、2人の物語が面白い。もし『ドラッグ・ウォー』を見ずにコレを見ていたら、もっと夢中になれたのに……! と悔しい気持ちでいっぱいだ。

 また、オリジナルと正反対な部分は「情」の有無だけではない。オリジナルは荒涼とした中国の田舎を舞台にしていたのだが、本作はロケーションやセットがリッチでオシャレ。登場人物たちもリアリティよりハッタリ重視だ。シャブの力で常時ハイテンションのドラッグ夫婦や、「共に神に祈りましょう」と言いながら人をボコボコにするマッド・クリスチャンなど、『ドラッグ・ウォー』にも過去のノワール映画でもあまり見なかった怪人・奇人が続出する。アクションも充実しており、爆破と銃撃戦はもちろん、格闘シーンまである。韓国ノワールのお家芸である情・情・情の絡み合いをやりつつ、アクション映画的な見せ場まで用意してくれているのが嬉しい。

 個性豊かな狂人たちが暴れ狂い、“男2人、どこまでも……”のウェットさでも魅せてくれる。『ドラッグ・ウォー』が香港最高峰の鬼才が(ある意味で)事故的な形で完成させた傑作だとすれば、本作はそれら全てを踏まえた上で、自分たちの持ち味で勝負した作品だといえるだろう。偉大なオリジナルへ真っ向勝負を仕掛けたリメイク作品であり、韓国ノワール映画の新たな名作の誕生だ。

(加藤よしき)

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