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『親バカ青春白書』はまさに令和時代のホームコメディ “懐かしさ”と“今どきっぽさ”の共存

リアルサウンド

20/9/13(日) 6:00

 毎週日曜日、脱力系の笑いでお茶の間をほっこりさせてきた『親バカ青春白書』(日本テレビ系)が今夜、最終回を迎える。福田雄一が監督と脚本統括を担当し、娘かわいさから四十路にして同じ大学に入学してしまう親バカ父の日々を描いた本作品は、かつてテレビドラマの“鉄板”と言われた「ホームコメディ」と「学園コメディ」を合体させた作りだ。

 「かつて」と書いたのは、ホームコメディと学園コメディが“鉄板”だった時代は1990年代前半ごろまでに一旦終焉を迎えているからだ。90年代後半以降、2020年の現在に至るまで「ホームドラマ」や「学園ドラマ」からコメディ要素がどんどん薄まり、「どんなドラマにも社会問題を絡ませるべき」といった風潮になってきている。ホームドラマならステップファミリー、疑似家族、不倫、離婚、不況による経済問題、シングルマザー・シングルファザーの生き様、家庭崩壊、あるいはそこからの再生etc.。学園ドラマなら不登校、いじめ、薬物、スクールカースト等々。

 こういった流れに抗うかのように、このドラマで大きな事件はいっさい起こらない。天然記念物級に親バカの小比賀太郎(ムロツヨシ)と、それを甘んじて受け入れる優しい娘・さくら(永野芽郁)、そして彼らを取り巻く大学の仲間たちの日常が、ひたすらゆる〜く流れていく。福田雄一のこうした「ゆるコメディ」へのこだわりは、すでに『スーパーサラリーマン左江内氏』(2017年/日本テレビ系)や『今日から俺は!!』(2018年/日本テレビ系)で屹立しており、この2作品がホームドラマと学園ドラマにおける福田作品の立ち位置をきっぱりと示していた。いわば『親バカ青春白書』は、『左江内氏』と『今日俺』で培われたノウハウの集合体だ。

 このドラマにはどこか懐かしい風合いがある。ガタローをはじめとする登場人物の行動原理が基本的に人情と性善説を前提としている点もそうだし、大学の仲間たち--畠山(中川大志)、寛子(今田美桜)、美咲(小野花梨)、根来(戸塚純貴)が回ごとに順ぐりにフィーチャーされ、彼らの悩みがガタローの言葉をきっかけになんとなく決着するという構成は、古くは『ゆうひが丘の総理大臣』(1978年/日本テレビ系)や『金八先生』シリーズ(1979年〜/TBS系)から続く学園ドラマのフォーマットを踏襲しているといえる。

 ガタローの中にある「不器用でウザいくらい熱血だが、その思いの真剣さに周囲の人間がつい胸を打たれ、絆される」という主人公像は、『池中玄太80キロ』シリーズ(1980年〜/日本テレビ系)の玄太(西田敏行)や、『天まであがれ!』シリーズ(1982年〜/日本テレビ系)の竜介(石立鉄男)などの人物造形と同じ匂いを感じる。ちょっと話が逸れるが、『天まであがれ!』は嶋大輔が歌う「男の勲章」が主題歌で、そのカバー曲を『今日から俺は!!』の主題歌に起用するあたり、やはり福田雄一も子供の頃これらのドラマに胸を熱くした世代なのだろう。また、「妻と死別したシングルファザーが、ひたすら娘を溺愛する」という設定は、田村正和・小泉今日子主演の『パパとなっちゃん』(1991年/TBS系)などを彷彿する視聴者もいるのではないだろうか。

 当然、「今の風」も仕込んである。寛子とさくらが新歓コンパで薬物を盛られ、あやうく“ヤリサー”の男たちの餌食になりそうになるエピソードや、大学生のかたわらYouTuberとして稼ぐ根来などは極めて今日的だし、そもそも娘と同じ大学に入ってきちゃう、言ってみればかなり“あたおか”なガタローとすんなり打ち解ける彼らの柔軟さも(もちろんガタローのキャラによるところが大きいが)、多様性を受け入れやすい現代の若者らしさを表している。

 昭和・平成のドラマでは、世代間ギャップから抗いや闘いが生じ、そこから物語が生まれたものだが、このドラマにはそういった「隔たり」が存在しない。「友達親子」という言葉が聞かれて久しい今日のドラマらしく、ガタローはさくらや大学の仲間たちと常に同じ目線だ。いっしょに学生生活を謳歌し、いっしょにバイトもする。というか、彼らより子どもっぽいところもあったりして、ときに諌められたりもする。「とりま」「あたおか」「レベチ」など若者言葉を教わって早速ものにし、四十路の学生生活で得たネタを生業である小説にも活かす。“懐かしドラマ”の「主人公が演説して落着」というフォーマットを踏襲しつつも、ガタローが決して先生目線でも親目線でもなく、20歳の彼らより少しばかり人生経験が多いだけの「友達」目線で語る点も“今っぽい”。

 メッセージ性や“意味”的なものを極力排除した、全話通してゆる〜いコメディ。だが、ガタローの生き方や、彼が大学生たちに語る言葉が訴えるのは「周りの目に臆することなく、あなたはあなたらしく生きようぜ」ということなのかもしれない。これもひとつの“令和ドラマらしさ”だ。

■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。ドラマ、映画、お笑い、音楽のほか、生活や死生観にまつわる原稿を書いたり本を編集したりしている。

■放送情報
『親バカ青春白書』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30〜放送
出演:ムロツヨシ、永野芽郁、中川大志、今田美桜、戸塚純貴、小野花梨、谷口翔太、野間口徹、新垣結衣ほか
脚本統括・演出:福田雄一
脚本:穴吹一朗ほか
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:高明希、鈴木大造(クレデウス)
協力プロデューサー:白石香織(AX-ON)
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/oyabaka/
公式Twitter:@oyabaka_ntv

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