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中村倫也が教師として見せた“生き様” 『はじこい』が描いたほろ苦い大人への階段

リアルサウンド

19/3/6(水) 12:00

「俺は俺のためにこうしただけだ。だからお前は、お前のために東大に合格しろ。で、ゼッテーあいつを笑顔にしろ」

参考:『はじこい』横浜流星は“年下男子”のステレオタイプを覆す!? 他の恋愛ドラマと一線を画す理由

 不良高校生のユリユリこと、由利匡平(横浜流星)の東大合格への道を併走しながら、気づけばダメダメアラサー塾講師の春見順子(深田恭子)が、そして視聴者が、人生で大切なものを学んでいくドラマ『初めて恋をした日に読む話』(TBS系)。第8話では、ユリユリと共に順子を巡ってライバル関係にあったヤンキー先生の山下一真(中村倫也)、そして順子のいとこで東大卒エリートの八雲雅志(永山絢斗)が、“自分と好きな人の幸せのためにできること”を教えてくれた。

 鈍感な順子をどうにか振り向かせようと、3者3様の魅力を発揮してきたユリユリ、山下、雅志。ユリユリは順子にとってまずは最高の教え子になりたいと勉強に集中し、雅志は男として見られないいとこの壁を超えられずにいた。その間に、サラリと順子をデートに誘う肉食系男子の山下。

 ライダースジャケットを着こなし、さっそうとバイクで現れて「つかまって」とリードしていく。大人の男らしい余裕を見せたかと思ったら、ユリユリの模試が気になる順子に「ちょっと妬いただけ」と、テーブルの下で順子の脚を自分の脚で挟んでイタズラっ子のような表情も浮かべてみせる。

 さらに「チューしていい?」と真剣な眼差しで聞いたり、「コラ!」と拒否する順子の言葉に「は~い」と拗ねながらはにかんで見せたりと、そのくるくると変わる表情に視聴者も夢中に。Twitterでは「山下くん」「山下先生」「中村倫也」という関連ワードが次々にトレンド入りしていたほどだ。

 そう、恋は人にいろんな顔をさせるものだ。一見、無愛想で何を考えているのかつかみにくい、いわゆる“食えない男”な山下も、恋をすればこんなにも表情豊かになる。嬉しくて笑うのはもちろん、相手の幸せを願って葛藤することさえ、幸せな痛みになるのが恋だ。

 そんな山下のまっすぐな想いに、順子も「好きになりたいって、思ってる」と精いっぱいの誠意で応える。だが、その言葉は山下が、かつての妻・優華(星野真里)に言ったのと同じだった。「好きになりたい」とは、ポジティブに聞こえて、実は残酷な言葉だ。裏を返せば「今は好きではない」といっているのと同じなのだから。自分から恋に落ちるのと、相手の想いに応えようと好きになろうとすること。それは、自分のために勉強するのと、親の期待に応えようと受験に挑む姿に、どこか似ているのかもしれない。

 時を同じくして、親への反発心、そして順子への恋心から、東大合格を目指すようになったユリユリだったが、親の汚職疑惑騒動や順子と山下のデートで心が折れてしまう。それでも、誰に強制されたわけでもなく勉強を続けるユリユリに気づき、まっさきに声をかけたのは雅志だった。そして「自分のために勉強したくなったんじゃないのか?」と問う。

 「自分の幸せのためか。好きな人の幸せのためか」。人の動機を大きく2つに分けて考えているという雅志。そして「自分の幸せが好きな人のためでもあるなんて、そんなラッキーなプレッシャーないだろ」と発破をかけるのだった。自分が幸せになるだけでも、好きな人が幸せになるだけでも、私たちはどこか満たされない。自分も、好きな人も、幸せに収束する未来を模索していく。それが大きな決断を生み、その積み重ねが歴史になっていく。

 雅志の恋愛史がポンコツなのは、彼の不器用さもさることながら、順子の幸せを祈り続けてきた結果にほかならない。そして順子が幸せに生きることそのものが、雅志の幸せでもあることを受け入れているのだ。たとえ、それが男として無色透明な存在になったとしても。

 そして山下もまた、ユリユリの将来を、そして順子の笑顔を守ろうと、人生を大きくギアチェンジする。ユリユリの父にかかった疑いを晴らす代わりに、元・妻と再婚して、その義父の意志を継いだ政治家へと転身することにしたのだ。

 ユリユリの口からついた「政治家になれんの?」という質問は、「好きになれるの?」とリンクして聞こえてくる。そして、その問いに山下は「なるんじゃない?」と笑う。それは、好きな人の幸せを願えた自分を好きになれる、という確信。

 「決して後悔しないように、今に全力を尽くした結果だ」。山下が先生として最後にしてみせたのは、“生き様”の授業だったのかもしれない。付き合えたかどうかよりも、好きな人にとって“一生忘れられない存在”になること。そんな幸せの見出し方もあるのだという、粋な行動力をユリユリは学んだはずだ。雅志の理論的な“動機”の解説も、ここで繋がったに違いない。

 自分のために、好きな人のために。その両方の幸せに収束する決断を、大人はしなければならない。ユリユリが恋をする喜びを知った先に待っているのは、ときには身を引くことも必要になる、ほろ苦い大人への階段だ。物語も、東大受験もラストスパート。それぞれの春が、どんな形でやってくるのか。最強ピンクなサクラが咲くことを願っている。(佐藤結衣)

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