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SHE’Sが響かせた完成されたアンサンブル 久しぶりのライブハウスで笑顔見せた『Tragicomedy』発売記念特番レポ

リアルサウンド

20/7/2(木) 12:00

 「バンドやっててライブがないと生きてる心地がしてなかったから」――ライブパートの中盤、井上竜馬(Vo/Pf)に「どう? 久しぶりのライブハウスは?」と振られた際の木村雅人(Dr)の一言が、SHE’S、ひいてはバンドマンの偽らざる心境だろう。いや、こんなにメンバーの笑顔に感情が揺さぶられるとは想像以上だった。

(関連:横田真悠が語る、SHE’Sの楽曲に惹かれる理由「いつでも味方でいてくれているような感覚」

 7月1日、4thフルアルバム『Tragicomedy』リリース日に行われた、今回の『Tragicomedy』発売記念特番でのトーク&ライブ。前半は芦沢ムネトをMCに迎え、制作時期から数えると1年半が経過した本作が、このコロナ禍において、リアリティを持ってメンバー自身にもリスナーにもより近い存在になっていることを確認。SEKAI NO OWARIのFukaseからのメッセージ(面識はないらしい)にメンバーもチャット欄も大いに沸き、またデイリーチャート2位という報告に「おめでとう」と拍手の絵文字が躍る。ライブ自粛期間にSHE’Sほど楽曲が一人歩きし、リスナーを増やしたバンドはいないのではないか。そういえば芦沢に「どうですか? ライブハウスは?」と振られた井上が「落ち着く。むちゃくちゃ落ち着く」と答えていたのが印象的。スタジオライブから無観客でのライブハウスへと一歩ずつ、慎重にならざるを得なくても確実に前進していくことがバンドという生命体にとっていかに燃料になるのかが、トークの段階でも伺えた。

 小1時間のトークに続いては待望のライブ。SEに乗って袖から登場するだけでテンションが上がる。当たり前の光景だがこれはリアルタイムで行われていることだ。服部栞汰(Gt)がアコギを構えたことに目ざといファンが「アコギってことはあの曲?」と素早くコメントし、予想通り「Masquerade」の小気味いいアコギのリフとバイオリンのイントロが曲へと誘う。怒気すら孕んだ井上の表情豊かなボーカルをはじめ、全ての楽器の音が明快に聴こえる嬉しさ。昨年のライブより洗練された印象だ。ガラッと陽のムードに転換した「Higher」で、メンバー全員の笑顔が明るいライティングに映し出された時、冒頭に書いた通り感情がシンクロした。自分たちが作り出しているアンサンブル、その豊さで自分に栄養が還元されるということ。それがライブハウスのマジックなのだとモニター越しに確信した。欲をいえば生のストリングスとホーンで見たい! と早くも思ってしまう。曲自体がそのアレンジを必要とするスケールを持っているからだ。

 MCもいつもの調子で取り止めがない。井上が「ジャーン! ってエンディングしても拍手がないって、インディーズより前って感じ」といえば、廣瀬臣吾(Ba)が「でも見てる人は全員最前列ってことやで?」と返し、「ポジティブ野郎やん」と井上にいじられる。いつもの4人だ。

 久々のライブとは思えない歌へ寄り添うアレンジと演奏が光ったのが「One」。サビで井上以外の3人によるコーラスの力強さ。フロアタムなどドラムサウンドもしっかり出ていて、身体で感じられるミックスだったことも嬉しい。曲に対する理解と、ライブをより良いものにする試みがメンバーだけでなく、チームで共有されていることが生配信では欠かせない優先事項であることもわかる。そこに、「こんな世の中で絶望を受け入れることができた曲」というコメントが流れた。おそらくそれは歌詞だけでもアレンジだけでも届かなかったんじゃないだろうか。

 新曲のライブアレンジが仕上がっているだけに、ますます生でライブが見たくなる中、限りなく照度を落としたライティングで「Letter」が演奏される。ここでも井上のファルセットによるサビを静かに支えるコーラスが良い。そして転調前の服部のギターソロも自然だ。多くのリスナーに届いたこの曲の核心にあるものを楽器でも最良な形で“歌う”ように演奏している、そう映る。最後のピアノを鳴らし終え、やはり今、こんなに音楽そのもので心情や場合によっては体調までありのままでいさせてくれるバンドはいるだろうか? と思いを巡らせた。

 「こんなにしんみりした空気で終わるのも嫌なんで、画面の中でも踊れるやろ?」と、井上が会場を分けてコール&レスポンスするように、各配信メディアの名前を挙げながらモニター越しに呼びかけて、ラストは「Dance With Me」。井上は巻き舌で「行き当たりばったり 上等な人生やろ?」と関西弁で捲し立てるハイテンション。楽しいようなもう終わってしまうことが歯痒いような気持ちを4人とも全身で表現。ライブがなかった日々がにわかに信じられないぐらい完成されたアンサンブルだった。楽曲評価が高まる中で初見の視聴者もいたであろうこの日。特徴的だったのが、チャットで途中から参加した視聴者の質問に別の視聴者が答える場面が多かったこと。様々なタイミングでSHE’Sに出会ったファンの温かさにも感銘を受けたことを記しておきたい。(石角友香)

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