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『チャーリーズ・エンジェル』が2020年に蘇った意義 最高にかっこいい女優陣を堪能せよ

リアルサウンド

20/3/1(日) 10:00

 1976年からアメリカで放映され、大人気を博したTVドラマシリーズ『地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』。L.A.の探偵事務所に所属する“エンジェル”と呼ばれる女性3人組が、毎週さまざまな事件を解決するストーリーが世界中の視聴者を魅了した。そして、2000年には映画版リメイク『チャーリーズ・エンジェル』が公開され、これまた大ヒット。新生エンジェルに扮したドリュー・バリモア(製作も兼任)、キャメロン・ディアス、ルーシー・リューのチャーミングな快演とコスプレ七変化、荒唐無稽なアクションに胸躍らせた方も多いことだろう。続編『チャーリーズ・エンジェル:フルスロットル』(2003年)も製作され、ゼロ年代ハリウッドを代表する大ヒットシリーズとなった。

 そして2020年、最新リニューアル版『チャーリーズ・エンジェル』が全国劇場で公開中である。新たにエンジェルを演じるのは、クリステン・スチュワート、エラ・バリンスカ、ナオミ・スコットというフレッシュな顔ぶれ。製作・監督・脚本をつとめるエリザベス・バンクスは、エンジェルたちの上司ボスレー役も兼任。ゼロ年代版の要だったドリュー・バリモアも製作に名を連ね、大胆な仕切り直しを行いつつも、過去作へのリスペクトとオマージュにも溢れた内容となっている。

 決して姿を見せないボス“チャーリー”が運営する探偵事務所は、今回の映画では国際秘密救助組織にグレードアップ。世界平和のために戦う凄腕エージェントとなったエンジェルたちが、恐るべき暗殺兵器になりうる新エネルギー源“カリスト”をめぐる陰謀に立ち向かう。変装と潜入捜査を得意とするサビーナ(スチュワート)、元MI6で戦闘能力抜群のジェーン(バリンスカ)に加え、カリストの開発者として命を狙われるエレーナ(スコット)が3人目のエンジェルに抜擢。謎に包まれた敵の正体を掴むべく、大胆不敵なミッションが幕を開ける――。とまあ、筋立てはシンプルそのもの。映画版ならではのスケール豊かな展開のなかで、エンジェルたちが繰り広げる華麗なるアクションと息の合ったチームワークで楽しませてくれる。

 最新版のもっとも大きな特色は、現代女性にとっての「私たちの映画」として作られていることだろう。つまり、女性のエンパワーメント、#MeToo運動、多様性の尊重といった現代の時流に合致した娯楽映画として作りきること。その製作意図は、世界中のあらゆる女子にエールを送るオープニングタイトル、そして作り手のメッセージが集約された冒頭とラストのセリフからも明らかだ。ゼロ年代版も「女の子が熱中し、応援できるアクションムービー」というコンセプトは共通しているが、方向性はかなり違う。

 今回、監督のエリザベス・バンクスが追求したのは、女性も憧れるかっこよさと、女性同士の連帯感をリアルに描くことではないだろうか。シリーズのお約束であるコスプレ七変化も、ゼロ年代版ではバカバカしさと可愛らしさに振っていたが、今回はひたすらファッショナブルでクール。また、ゼロ年代版のエンジェルたちは最初から説明不要のイチャイチャ感で結ばれていたが、今回は彼女たちの出会いから始まるチーム誕生編といった趣きで、絆が生まれていく過程がよりつぶさに、説得力をもって描かれる。

 恋愛要素の薄さも特徴的だ。ゼロ年代版では主役3人それぞれのボーイフレンドが登場したが、今回はスパイスひと振り程度。敵も裏切り者も常に男で(中にはいいヤツもいるが大して目立たない)、決して「女が女を裏切る話」にはしない。最後まで女性たちの連帯というテーマを貫き通すのだ。

 エリザベス・バンクスが『ピッチ・パーフェクト2』(2015年)に続く監督2作目で、これだけの大作をものにし、なおかつ自分の意図を強固に反映させた映画作りを実現したのは、なかなか大したものだと思う。撮影監督に『ベイビー・ドライバー』(2017年)、『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)の名匠ビル・ポープを招き、ハイクオリティな映像と高度なアクションを両方ゲットしてみせたのも、監督としての理想の高さを感じる。格闘シーンの直後にちゃんと肌にアザができているのを見せるのも、リアリティのないアクション演出に対する提言だろう。クールで刺激的で、観客に勇気を与える社会的メッセージを含んだエンターテインメントを作りきるというミッションは見事に果たしている。

 その一方、荷の重さを感じる部分もないではない(特に脚本の練り込みは明らかに足りない)。辛辣すぎるユーモアセンスが小骨のように引っかかってしまう部分もある。なかでも「ラルフ殺し」のくだりは初見だと飲み込みづらいと思うので、『スキャンダル』(2019年)とセットで観るのがオススメだ。それは同時に、バンクスの「気骨」を感じる部分でもある。これまでジェームズ・ガン、ケヴィン・スミス、ピーター・ファレリーといったクセモノ監督と組み、『ハンガー・ゲーム』シリーズや『パワーレンジャー』(2017年)で強烈な悪役を演じてきた彼女の、反感を恐れない鍛え上げられた精神を見る映画でもある。

 主演女優3人の魅力をとことん引き出してみせたのも、明らかに監督の功績だ。特にクリステン・スチュワートの弾けた快演が素晴らしい。近年はインディーズ系の出演作が多く、繊細でナチュラルな演技の印象が強かったが、本作ではまるでカートゥーン・キャラクターのごとく表情豊かでケレン味あふれる芝居を全編にわたって披露。コミカルなしぐさからキレのあるパンチまで、全身の一挙手一投足をひたすら魅力的に見せる器用さは、ほとんど『ファイト・クラブ』(1999年)のブラッド・ピット級だ。ジェンダーレスな魅力と、不良っぽさと茶目っ気を兼ね備えたサビーナ役は、彼女の新たな当たり役と言っていい。

 圧倒的なスタイルの良さと実戦的アクションの美しさに目を見張る新星エラ・バリンスカ、観客の分身となる実質的な主人公を愛嬌たっぷりに演じるナオミ・スコットもそれぞれに好演。この1作では終わってほしくない魅力的なアンサンブルを奏でている。

 本作が全米公開時に思ったほどの興行成績を上げられなかったのは、ゼロ年代版ほどにわかりやすくパンチのきいた「男も女も楽しめる娯楽作」の印象を持たれなかったことと、これまで述べてきた「女性映画」としての主張の強さも影響したと思われる。主人公を全員女性にしたリブート版『ゴーストバスターズ』(2016年)が男尊女卑勢力のいわれなき攻撃にさらされたのと同じように、必要以上に叩く風潮は間違いなくあったはずだ。だとしたら、そんな戯言には耳を貸さず劇場に走るべし、と言いたい。だって『チャーリーズ・エンジェル』なのだから。そして、間違いなく女の子たちが最高にかっこいい映画に仕上がっているのだから。ドナ・サマー「バッド・ガールズ」のリミックスに乗って、スチュワートとバリンスカが踊りまくるパーティーシーンの素晴らしさを浴びるためだけでも、何度でもリピートしたくなること請け合いの麻薬的快作である。(岡本敦史)

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