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春日太一 実は洋画が好き

スタローン派としてこの上ない敗北感に襲われた『レッドブル』

毎月連載

第16回

シュワルツェネッガーが刑事役で出演する『レッドブル』

最近、インスタグラムを眺めていると「おっ!」となる瞬間がある。それは、スタローンの公式アカウントの写真にシュワルツェネッガーの公式アカウントが「いいね」を押していたり、その逆があったり……を目にした時だ。

考えてみれば、『エクスペンダブルズ』シリーズや『大脱出』などで共演するなど、その仲の良さは当然の事実となっているわけだが、双方が肉体派アクションスターとしての覇を争っていた1980年代に映画ファンになった身からすると、「ふたりはライバル」という意識がいつまでも抜けない。そのため、インスタグラムで「いいね」し合っている光景を見る度に新鮮な驚きを受けてしまうのである。

この連載で何度も書いてきたが、当時の筆者は圧倒的にスタローン派であった。同じ「肉体派」とはいってもシュワルツェネッガーは「肉体だけ」というイメージで、スタローンには「ドラマがある」という認識でいた。そのため、シュワルツェネッガーの映画も楽しく観てはいたが、どこか下に思っている感があった。

かなりの期待と興奮で挑んだ『ランボー3』

そうした中で迎えた1988年の夏。「スクリーン」だったか「ロードショー」だったかに、その夏に公開されることになる両雄の主演作を並べて紹介する特集記事が掲載されていた。

スタローンは『ランボー3 怒りのアフガン』、シュワルツェネッガーは『レッドブル』。映画館に通うようになったのは『ランボー』2作目の公開後だっただけに、『ランボー3』に対しては「ついに劇場のスクリーンでランボーを観られる!」と凄まじく興奮した。一方の『レッドブル』はスチール写真のシュワルツェネッガーがスーツ姿ばかりで「服を着たシュワルツェネッガーなんて……」とあまり興味すら沸いていなかった。

で、まずは6月の『ランボー3』。はっきり言って肩透かし……というより失望に近いものがあった。アクションシーンは前作の使い回しのアイデアばかりで、しかもテンポもキレも悪い。加えてこの時期のスタローン映画のメインになっていた反ソ連のメッセージ性もあまりに強すぎたのもあり、とにかくつまらなく感じた。期待が大きかっただけに残念感は強かった。

悔しいくらいに面白かった『レッドブル』

そして『レッドブル』は9月の公開。さほど期待せずに観たのだが……これがすこぶる面白かった。

シュワルツェネッガー演じるソ連の刑事が犯罪者を追って渡米、ジェームズ・ベルーシ演じるアメリカのはみ出し刑事と組んで敵を追いつめていく。

思想や言語、文化の相違を乗り越えてコンビネーションを築いていくふたりの刑事のバディ感の熱さ、ウォルター・ヒル監督ならではのアクション演出の切れ味。いずれも胸をときめかせてくれた。

片や変わらずの反ソ連、片や陣営の相克を超えた友情。小学6年生の身でも、どちらの描いている内容が上かは一目瞭然だった。スタローンファンとして、この上ない敗北感だった。

ここからシュワルツェネッガーは『ツインズ』『トータル・リコール』『ターミネーター2』『トゥルーライズ』と最高に面白いメガヒット作を連発。一方のスタローンは、なかなか目ぼしい作品に恵まれなかった。90年代は、シュワルツェネッガーを遠く上に眺めていた。悔しかった。

現在のインスタグラムを眺めていると、全ては懐かしい思い出だ。

関連情報

『レッドブル』発売中

価格 DVD¥1,500+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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