3月、コロナ禍のために公演回数を減らざるを得ない中で『きらめく星座』を届けてくれたこまつ座。次に稽古を重ねていた『雪やこんこん』が中止となったのは残念でしたが、いざ7月、演劇の再始動にいち早く動き出してくれました。『人間合格』はタイトルのごとく、井上ひさしが小説家・太宰治を描いた評伝劇。女性問題や自殺未遂などの一般的な陰鬱イメージとは異なり、笑いをふんだんにまぶした男3人の友情物語を軸に、太宰の懸命な生きざま、純粋な精神を浮き彫りにした傑作舞台です。1989年の初演に始まり今回が６度目、およそ12年ぶりとなる待望の再演。鵜山仁さんの演出のもと、太宰を演じるのは、サイモン・ゴドウィン演出『ハムレット』（19年）のレアティーズ役の好演でぬおお！と筆者をコーフンさせた青柳翔さん。塚原大助さんと伊達暁さんが友人役で、皆さんこまつ座初登場、井上芝居の期待の新風ですね。青森出身の益城孝次郎さんの津軽言葉や、多役をこなすふたり、栗田桃子さんと北川理恵さんの愉快な変化にも注目したい。不急かもしれないけどけっして不要じゃない演劇の豊かさ、それを再確認するには井上ひさしの言葉からリスタートするのが正解です。