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梅沢富美男が「人情芝居に歌と踊り、どれも満足いただける」と自信、泉ピン子と明治座で新年祝う

ぴあ

左から、『梅沢富美男劇団 梅沢富美男特別公演 泉ピン子特別出演 後見人梅沢武生』出演の泉ピン子、梅原富美男

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東京・明治座では、梅沢富美男が人情芝居・歌謡ショー・舞踊と豪華3本立てで2022年の幕開けを寿ぐ──。正月公演の相棒は今夏、大阪・名古屋で抜群のコンビネーションを見せた泉ピン子だ。互いに「もっと早く同じ舞台に立ちたかった」と信頼を寄せ合うふたりに話を聞いた。

舞台初共演で感じた、同じ方向を目指して芝居できる喜び

――梅沢さんのツイッターによればおふたりは「30年以上のお付き合い」だそうですが、舞台での共演は初めてだったそうですね。

梅沢 ピン子さんとは、僕がテレビの世界に足を踏み入れたドラマ『淋しいのはお前だけじゃない』(1982年)で初めて共演させてもらいました。西田敏行さんに木の実ナナさん、周りはスター揃いで。どうやって中に入っていこうか迷っている僕を察して、声をかけてくださった時は嬉しかったですね。

 ドラマの出演者とは毎っ晩、飲んでたよね! みんなも梅沢さんのこと、「トミー」って呼んですぐに仲良くなってた。

梅沢 ピン子さんがご結婚される前に、旦那さんを紹介してくださって。それまで片方が売れたら嫉妬するから役者は友達にしづらいと思っていたけど、その時初めて“友情”を実感しました。

 梅沢さんからもオファーいただいてたんだけど、私が舞台からしばらく離れていてね。でも数年前に(坂本)冬美ちゃんにせがまれて立ったら「梅沢さんともできるでしょ?」って劇場が言うのよ。

――それで晴れて舞台共演にいたったわけですね。第1部の人情喜劇にトークに、おふたりの楽しい掛け合いは大阪と名古屋のお客さんを大変喜ばせたとお聞きしています。8月に行われた公演を振り返って印象的だったことを教えてください。

梅沢 僕、ピン子さんにアドリブの提案をいただいてすごく手応えを感じました! お客さんにとってのピン子さんは坂本冬美さんとの舞台が記憶に新しいと思ったから、芝居で冬美さんのお名前を出したんですね。僕演じる義母が、ピン子さん扮する嫁をいびる中で「アンタがいじめられんの、みんな楽しみにしてんのよ。特に坂本冬美からは『足腰立たないように』って頼まれてる」って言ったら……大阪でまったくウケなくて!

 それで私、「名前出すなら天童よしみにしときな」って言ったの。

梅沢 新歌舞伎座でしたから、(大阪府八尾市出身の)天童さんのお名前がウケるんですよね。お客さんが喜ぶ提案を、共演者として言ってくれたことが嬉しかった。台本に書かれたことを繰り返すだけの役者もいる中で、「同じ方向を目指して芝居できる女優さんだな」と思いました。

 私はね、梅沢さんの座長ぶりを頼もしく見ていましたよ。座員を叱らないで、まず「いいよ」って肯定するの。否定から入る人もいるけど、梅沢さんはいったん受け止める。それから「こうしたらもっとよくなるよ」って前向きに指示するんだよね。そんな梅沢座長を目の当たりにして、丹羽(貞仁:共演者のひとりで、二代目大川橋蔵の息子)くんと「梅沢富美男劇団に出させてもらうわけだから、まず梅沢さんを“座”と呼ぼう」って約束しました。森繁久彌以来ですよ! とにかく器が大きくて、漢気(おとこぎ)があってね。

難しくても、人情芝居を追求したい理由

――おふたりは、笑いあり涙ありの人情喜劇「富美男とピン子の泣いて笑って霧の雨」をどのように立ち上げたのでしょうか?

梅沢 嫁姑の確執って令和になってもメジャーで、時代を問わず普遍的なテーマですよね。お客さんの隣にあるような身近な題材だからこそ共感してもらいやすい一方で、見せ方に緻密な工夫がいる。そういう意味で、人情芝居って特に難しいんですよ。

 梅沢さん、二役だもんね。姑と、私が演じる嫁の兄。私が姑からしっかりいびられて、酒浸りの兄からも打ちのめされないと……そのあと訪れる梅沢さんのお芝居がまったく活きないんですよ。この“受け渡し”が本当に怖かったの!

梅沢 芝居には、上手に“食われる”って方法があるんですよ。流れに身を任せる“食われ上手”なほど、いい役者なんですね。一方でみんな、食われるのがイヤだし怖いから戦っちゃうの。でも勝てるはずない、そういう筋書きになってるんだから。そんな時は恐れず巻き込まれて食われたらいいの。余計なことをしちゃダメ。その点、ピン子さんは“食われ上手”ですね。

 終盤、梅沢さんの独壇場で私は15分間、舞台上で動けなくなっているシーンがあるんです。何かアクシデントがあっても、座長の芝居を邪魔しないようにじっとしていなきゃいけない。お客さんは「微動だにしなくて素晴らしかった」と褒めてくれたけど……「それ演技じゃないから!」ってツッコんだよ!

梅沢 (爆笑)

 そういうところも梅沢さんはちゃんと見てくれてる。「死んでも動いちゃいけないんだ」って私の気概をね。

梅沢 絶妙な“受け渡し”をしてくれるんですよね。間もいい。でもそうじゃない役者と一緒にやると、芝居が壊れちゃう。そういう意味で、ピン子さんとは何十年かぶりに手応えのあるお芝居をさせてもらった感覚です。久しぶりに興奮しましたね。

――現代は昔と比べて、人情を感じにくい世の中になっている気がします。そんな中で、梅沢さんがこのお芝居をつくった理由は?

梅沢 僕が人情芝居に取り組もうと思ったのは、2011年の東日本大震災がきっかけでした。被災地を訪れて、津波の被害に遭った80代くらいのおばあちゃんにお会いしたんですね。その方が「梅沢さん、私死にたいよ」「この世に神様がいるんだったら、こんなことむごいことしない」って言うんです。

 ご家族を亡くされたの?

梅沢 息子さんご夫婦とお孫さん2人の4人を亡くして、おばあちゃんだけが助かったの。

 え……(絶句)

梅沢 「私の命を差し上げますから、神様がいるなら4人を返して」と泣くんですよ。何かお声がけしようと思ったんですが、声が出なかったですね……言葉が見つからなかった。そうしたら、おばあちゃんの面倒を見ている中学2年生の女の子が「おばあちゃんダメよ、そんなこと言ったら。せっかく助かったんだから、がんばろうね」と励ましていて。でもその子、津波でご両親を亡くして天涯孤独なんです。

――そんな……(絶句)

梅沢 その光景を目の当たりにした時に「日本人ってすごいな」と思いました。きっとご両親の教育なんでしょうね。「困った人がいたら助けてあげなさい」っていう、日本に生まれついた人が自然と持ち合わせる人情の機微というか。僕、その子を連れ帰って自分の娘として迎えたかったですよ……できるんだったらね。

 そっか……。

梅沢 それで踏ん切りがついたんです。ピンスポットが当たる新劇みたいな作品をやるより、「これからは人情芝居だろう」と。それからずっと追求しています。

――次の世代に人情芝居の素晴らしさを伝えていきたいという気持ちがおありになるんですね。

梅沢 日本人のDNAを刺激するんじゃないかな、と。僕たちのどこかに染みついて離れない、忘れられないのが人情だと思いますね。

 その女の子みたいに、若い世代でも共感してくれる人いるんじゃない? 最近みんな照れ屋さんだけどさ。

歌謡ショーのトリに泉ピン子、梅沢富美男「僕は前座」

――「夢芝居」はマストとして、第2部「梅沢富美男 歌謡オンステージ」の構成や見どころを読者に明かしていただけませんか?

梅沢 ヒット曲の「夢芝居」に恵まれ、紅白にも出ていますからね。大阪と名古屋の歌謡ショーは僕ひとりでやっていたんですけど……今回、ピン子さんが「歌う」って言うんです。

――わぁ! 明治座ならではの取り組みですね!

梅沢 お客さんも喜ぶだろうから「じゃあ歌えば?」って。そうしたら「私トリやりたい」って言い出すの。「いい加減にせいよ!」ってツッコミました。

 (ほくそ笑む)

梅沢 第2部は本来、6人のバンド想定だったんですね。でもピン子さんが歌うなら、6人じゃ“しょっぱい”でしょう? 最終的には打ち込みで、いないセクションの音を出すことになりました。(泉に)あなた、譜面つくるにも金がかかるのよ?

 でも私だって、歌うからには衣裳こしらえるんだから!

梅沢 さっき打ち合わせたら、とんでもない衣裳でしたよ? 聞いて唖然としたもの。演出家なら「いい加減にせいよ!」って内容でした。

 笑いたい奴は笑えばいいのよ!

――ピン子さんのご参加で歌謡ショーが俄然楽しみになりました! どんな趣向のお衣裳なんですか?

 教えてやんないわよ! (しなをつくって)アタシね、その日の気分で変えるの。2015年のレコード大賞でなかにし礼さんがつくった『石狩挽歌』を歌った時につくったドレスがそのままになってるしね。他のもあるから取っ替え引っ替えよ。趣味と実益で生きてるから!

梅沢 (泉を制しつつ)僕が司会で曲フリするので、トークを楽しみにしていてください。思いっきり悪態ついてやるんだから!

 こんな機会、滅多にないじゃない? 嬉しいわよね。

梅沢 僕、前座ってことですよね。「どうぞ!」ってピン子さんを紹介するわけだから。出てくるまで、こってり粘ってやろうかな!

 お客さん、そういうのが見たいんじゃないかな。待ってくださっている気がするよね。

梅沢 えぇ。代わりに第3部の踊りで“お口直し”していただけたら(笑)

 女形がキレイですよ〜!

梅沢 手前味噌ですが、ああいう踊りができるのはいま、うちの劇団しかないですからね。若い時に長谷川一夫さんの舞台を観て、「俺も絶対こういうのやりたい!」と思って。

 東宝歌舞伎、艶やかでしたもんね!

梅沢 女性も舞台に上げていて。相手役は京マチ子さん、山本富士子さんでした。豪華な顔ぶれですよね! ……でも僕のお相手、泉ピン子ですよ?

 なんか……ちょっとごめんなさいね。

一同 (爆笑)

梅沢 人情芝居に歌と踊り、どれを取ってもご満足いただける3本立てで新年をお祝いします。どうぞお越しくださいね。

取材・文:岡山朋代 撮影:川野結李歌

『梅沢富美男劇団 梅沢富美男特別公演 泉ピン子特別出演 後見人梅沢武生』
日程:2022年 1月6日(木) ~1月24日(月)
会場:東京・明治座
チケット情報
https://w.pia.jp/t/tomiogekidan2022/

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