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春日太一 実は洋画が好き

「午後のロードショー」と言えばB級映画の殿堂! 鮮烈な印象を残した『情無用のジャンゴ』

毎月連載

第10回

19/10/26(土)

『情無用のジャンゴ』

小学校高学年の頃、季節の変わり目らへんになるとよく体調を崩し、熱を出して寝込んでいた。もちろん学校は休んだ。その際、楽しみにしていたのが、テレビ東京の「午後のロードショー」を観られることだった。今でも昼過ぎに放送されているこの長寿枠は、B級映画やレトロ映画の殿堂として知られている。

といっても、当時はまだ映画ファンになりたての時代だ。洋画ではスタローンやスピルバーグを追いかけていた時期。「午後のロードショー」でかかるような映画はまだまだハードルが高かった。

それでも、夏休みや冬休みは毎日必ず観たし、熱で休んだ日も無理を押してまで観た。映画の内容にはついていけてなかったと思う。それでも、ここでかかる作品が愛しくてたまらなかったのだ。

現在はニュープリントされた美麗な映像が流れているが、当時は赤茶けて劣化したフィルムのまま放送されていた。そのザラついた質感が、後味の悪い作品が多かったこの枠にマッチしていた。子どもながらにバブル真っ最中の浮かれた雰囲気が合わなかった身には、その質感こそが心地よかった。そのため、作品の内容がよく分からなくとも観ながらその世界に浸るだけで幸せだった。

ある日も、熱を出して学校を休んでいた。いつもなら昼過ぎには体調が上向きになり、テレビに向かえるくらいには回復している。が、その日は頭がボヤッとしたままで、まだ熱は下がっていなかった。それでも、「午後のロードショー」が観たい一心で重い頭と身体を引きずり、テレビに向かった。

これは悪夢か現実か…。大人になった今、高まる「午後のロードショー」へのリスペクト

そこに映された映像を、今も鮮烈に覚えている。

西部劇らしい設定なのだが、どうもおかしい。銃で撃たれた死体に町の衆が群がったり、裸に剥かれた美少年の裸体にサソリを這わせる拷問があったり、ラストで悪の親玉が天井から降り注いできた大量の金の液体を浴びて死んだり。

たしかに、そういう映像を観た。が、仕事から帰宅した親に話しても、翌日に学校で同級生に話しても、「そんな映画、あるわけない」と信じてもらえなかった。こちらも高熱を出したままだっただけに、それは本当に観たのではなく悪夢だったと思い込むようになっていった。が、悪夢にしては、あまりにイメージが鮮明に残り過ぎる。中学時代、ある程度の映画ファンになっても、その正体は分からないままだった。

そして90年代の終わりに、ようやく謎が解ける。マカロニウエスタンの再評価の中でマニアックな作品も再上映・ソフト化されるようになり、その全てを観た。

そして、再会したのだ。例の悪夢そのままの映像に。その正体は『情無用のジャンゴ』という、マカロニ史上でも最も残酷でミステリアスな作品だったと知る。

高熱の子供からすると、そりゃ悪夢にしか思えないわな ──と思った。同時に、そんな作品を堂々と放送した「午後のロードショー」へのリスペクトが高まった。

作品情報

『情無用のジャンゴ』 Blu-ray スペシャル・プライス

価格:1,800円+税
発売元:TCエンタテインメント/是空
販売元:TCエンタテインメント

(c)1967 GIA Cinematografica S.r.l./Prototipo S.r.l.

プロフィール

春日太一(かすが・たいち)

1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』『仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル』『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代』など多数。近著に『泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと』(文藝春秋)がある。

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