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嵐 松本潤、『失恋ショコラティエ』で演じきった“愛すべき男の情けなさ” 再放送を機に考える

リアルサウンド

20/6/9(火) 16:00

 2014年、嵐・松本潤主演で人気を博したドラマ『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)。このたび再放送が決定した(関東エリアのみ)。6月15日15時50分、小動爽太が帰ってくる。

(関連:嵐 松本潤、幅広いキャラクターを演じる緻密な役作り 『99.9-刑事専門弁護士-』『ごくせん』特別編放送を機に考察

 『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系)、『ごくせん』(日本テレビ系)に続く、役者・松本潤の人気ドラマ再放送第3弾。系統も、放送時期も異なる3作を通し、松本のさまざまな表情を見ることができる。

 10代から30代という、男性として成熟し、役者として成長していく時期。当時の松本の魅力を一挙に味わえるこの機会は、ファンにとってたまらない時間となることだろう。

 『失恋ショコラティエ』は、人気漫画家・水城せとなによる同名原作漫画の実写化作品。松本が演じたのは、チョコレートが大好きな想い人・サエコを振り向かせるためフランスに渡って修行し、自分の店を持つまでに成長したショコラティエ・小動爽太だ。

 帰国後、サエコは振り向くどころか別の男とあっさり結婚してしまう。それでも爽太はサエコを諦めることができず、幾度となく振り回され、揺さぶられながらも、爽太の世界はサエコを中心に回る。

俺はもっとあなたに傷つけられたい。もっと酷いことを言って、立ち直れないくらい俺を打ちのめしてよ。
そしたらきっと、あなたの事が嫌いになって、この恋を終わらせることが出来る気がするんだ。
(『失恋ショコラティエ』第1話より引用)

 好きな人のウエディングケーキを作るという、これ以上なく切ない作業を経てもなお「もっと傷つけられたい」と願うほど、とことん想いを断ち切れない爽太らしさが描かれたモノローグ。もういっそ、嫌いになりたいとさえ願う屈折した恋心に、叶わぬ恋を経験した誰もが共感する。

 行き場のない恋に苦しめば苦しむほど魅力的なショコラを生み出すという、天才ショコラティエとしての悲しき性も描いた作品だ。

 登場人物のキャラクタービジュアルもきわめて原作に近く作り込まれ、松本はもちろんのこと、サエコを演じた石原さとみも「ハマリ役」として話題になった。

 原作で何度となく登場する爽太の妄想シーンも、ドラマ内で忠実に再現。原作が持つ魅力……コミカルさと、胸が苦しくなるようなもどかしい恋心との緩急、恋する誰もが共感する愛と憎しみの紙一重までも、美しく切なく描かれている。

 漫画を原作とする映像作品に渋い評価が下されがちな昨今において、「失ショコ」「ショコ潤」のキーワードとともに当時のトレンドとなった本作は成功作品と言えるだろうし、記憶に残る人気作品となったことは間違いない。

 同作の放送当時、松本は30歳。原作の設定よりも年齢を重ねてはいるが、ドラマ仕様のやや明るい髪色と重ための前髪、純白のコックコート、そして松本のトレードマークである大きな瞳は実に二次元的で、チョコレート王子・爽太を演じるにおいて何ら違和感はない。

 『きみはペット』(TBS系)、『花より男子』シリーズ(TBS系)など、松本には恋愛ドラマのイメージが強かったのだが、振り返ってみると実に幅広い役柄を演じていることにあらためて気付く。

 映画作品では本作の前年に『陽だまりの彼女』に出演しているが、本格的な恋愛ドラマへの出演は2010年『夏の恋は虹色に輝く』(フジテレビ系)以来、約3年半ぶりのことであった。

 松本といえば、映画『東京タワー』で見せた、当時まだ21歳とは思えない本格的なラブシーンが印象的だ。若さと、それゆえの生意気さ、愚直さを年齢相応に、背伸びすることなくうまく演じていた。

 同作で演じた大原耕二や、先述した『きみはペット』で演じたモモこと合田武志に通ずる、母性本能をくすぐるようなエロティシズム。これぞ、松本の持ち味であり、本作にも活かされている。

 人懐っこい笑顔や幼稚な態度でまだまだ子どもだと油断させておきながら、ガラッと切り替えて見せる「男」としての表情。強いまなざしや、骨ばった指先、憂いを帯びた横顔には、しっかりと色気がある。

 『失ショコ』には、濃厚なラブシーンはもちろん、男と女のずるさ、駆け引き、やるせなさといった人間らしい「えぐみ」がある種、官能的に描かれている。身をほろぼすほど想い焦がれる、ドロドロとしたゴールの見えない片想いが本作の主軸だ。

 爽太がもつ心地よいポジティブさ、それゆえのまっすぐな馬鹿っぽさと、一変して見せる策士な一面、フェロモンをたくわえた男としての挑発。そうしたギャップを、松本はうまく演じ分けていた。行きどころのない切ない恋心、どうにもできない感情や現実に苦悩する姿にも、男の色気を感じさせる。

 松本は、そもそも隠すことができないほどの存在感を持っている男であるし、繊細さよりも派手さを求められてきた役者であると思う。

 だからこそ最新映画出演作『ナラタージュ』で見せた「抑え」の演技、監督から求められたという「40%」の松本潤は新しかったし、次なるステージへの成長を感じさせた。

 一方『失ショコ』においては、本来の松本がもつ「スケール感」がよく活かされていた。声の抑揚や表情における「オーバーさ」が、漫画原作という世界観にもハマっていたと思う。

 爽太が繰り広げる妄想の物語や、サエコを思うあまりに情けなくズタボロになっていく姿が分かりやすく演じられていたからこそ、爽太の恋に感情移入することができたのだ。

 そして、本作はあくまで「ラブコメディ」。ドロドロの恋愛劇とならなかったのは、原作がもつ軽妙なテンポ感を殺さず、コミカルなシーンとの線がきっちりと引かれていたからだ。

 さらには、ショコラと向き合う真剣な表情や、クリエイティブな職人としてのふるまいを、恋愛模様と対比するように繊細に描くことでより爽太を魅力的に見せていた。

 松本をよく知るファンから見ればきっと、彼自身は今も昔も大きく変わらないのだが、一時期、メディアでは「尖った」印象を持たれることもあった。いま思えば、世間からそうしたイメージを抱かれていた松本が「愛すべき男の情けなさ」をコミカルに演じたことも、ギャップとなって評価され、愛されたのかもしれないと思う。

 女性に翻弄され、悩み苦しむ失恋ショコラティエ・小動爽太。愛すべき彼の、重すぎる恋心に共感しながら、役者・松本潤による久方ぶりのラブストーリーに心ゆくまでときめきたい。(新 亜希子)

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