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映画に関わる人たちの暮らしを守る、ミニシアター・エイド基金の発足会見レポ

ナタリー

20/4/13(月) 20:47

「ミニシアター・エイド基金」リモートで行われた会見の様子。左から渡辺真起子、斎藤工、濱口竜介。

ミニシアター・エイド基金のキックオフイベントとなる記者会見が本日4月13日にDOMMUNEで行われた。

新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う自粛要請と緊急事態宣言の発出により、危機的な状況に置かれている全国のミニシアター。この窮状に深田晃司と濱口竜介を中心とした映画人の有志が、ミニシアター・エイド基金を発足した。MotionGalleryで開催中のクラウドファンディングを通じて、全国62団体68劇場のミニシアターを資金援助する。リターンには2022年内まで使用可能な映画鑑賞券や有志の劇場で使える1000円パス、フリーパスなどを用意。また有志の映画人から寄せられた100本以上の作品を配信するサンクス・シアターも展開される。

会見には発起人の深田と濱口、賛同人の斎藤工や渡辺真起子らが参加した。まずミニシアターへの個人的な思いを聞かれた斎藤は「この状況が終わったときに戻ってくる場所の希望の1つ。自分はミニシアターで育ちました。スクリーンの窓からいろんな世界の景色を観て、いろんな出会いをもらったんです」とコメント。さらに阪本順治との仕事を振り返りながら「阪本さんが自分の作品が上映される劇場すべてに手紙を書いていた。各支配人と監督たちのネットワーク。これが日本映画の歴史なんだと。劇場が才能を発掘して育てる。僕もいろんな方にお世話になって今日があります。何かできることがないかと模索して今日参加しました」と賛同の経緯を明かした。

会見では全国の映画館の支配人とも中継が行われ、ミニシアターが置かれている現状が伝えられた。東京都内でUPLINK渋谷、UPLINK吉祥寺を経営する浅井隆は「4月の頭には客足が普段の8割から9割減。正直、映画館を開けてても赤字の状態。そこで緊急事態宣言が出た。東京では、ほとんどの映画館が4月8日から休館しました」と状況を説明。現在、東京都内ではすべての映画館が休業状態に追い込まれている。

県が独自に緊急事態宣言を出した愛知県にあるシネマスコーレは、本日から休館の措置をとった。副支配人を務める坪井篤史は「今の客足でこれ以上開けていると休館ではなく閉館になってしまう。1カ月でもかなり苦しいですが、5月6日まではとりあえず休館します。シネマスコーレだけの話になりますが、この状態が3カ月続くと必ず閉館という事態に追い込まれます」と切迫した状況を明かす。現在も営業を続ける京都・出町座の田中誠一からは「ほぼほぼ開店休業状態。今日もお客さん0の回が現時点で3回。かなり厳しい。明日、あさって、いつ休業してもおかしくない状態です」という証言も。そのほか大阪シネ・ヌーヴォの山崎紀子、広島・シネマ尾道の河本清順、大分・シネマ5の田井肇が、それぞれの置かれている窮状を語った。

現在支援対象として全国62団体68劇場が名を連ねているミニシアター・エイド基金。各支配人たちの言葉を受け、濱口は「クラウドファンディングの目標金額は1億円と掲げてますが、各映画館に分配しても、おそらくひと月ふた月分にしかならないという現実があります。だから国に対するアクションとセットでなければならないんです」と国へ緊急支援を求める署名活動を行うSAVE the CINEMAと連動していることに言及する。

そして濱口は「国に働きかけると、映画だけでいいのか?という話になりがちなんですが、そうではない。映画という抽象的なものを守ろうとしてるのではなく、映画に関わる人たちの暮らしを守ろうとしている。暮らしそのものがすべての基盤。映画を撮ること自体も、人の暮らしを撮るということ。こうやって地域の方々にお話していただいたことで、その人たちの暮らしが観ている人に実感を持って伝わったと思う。今回の基金は、その暮らしを守るための1つのアクション。この動きは、映画以外にも、あらゆるところで起きていいし、起きなくてはいけない状況になっていると思います」と語った。

また深田がミニシアターの重要性を「必ずしも娯楽性の高くないマニアックな映画やアート映画をコツコツと上映している映画館がある。海外の映画人に驚かれるのは、そういった劇場が国からの支援がない中、全国に存在していること。いろんな国のいろんな時代の文化や価値観に触れることができる状況がギリギリ保たれているんです。これは多様な社会を維持するためにものすごく重要。ミニシアターの維持は映画業界の問題だけではなく、広く社会の問題であり、民主主義の問題であると考えています」と説く場面も。

最後に浅井が「この状況下でオンラインで映画を観る楽しさを知った方はいると思う。でも忘れないでほしいのは映画館で映画を観る面白さ。どんなにストリーミング配信の技術が発達しても、それは絶対になくならない。文化の多様性、映画の多様性を担保してるのが全国のミニシアターなんです。安全な生活状況になったら、もう一度、ぜひ映画館に映画を観に来てほしいと強く思います」と呼びかけ、会見を締めくくった。

ミニシアター・エイド基金のクラウドファンディングはMotionGalleryで5月14日まで開催。また会見で代読された是枝裕和、河瀬直美、片渕須直による書き起こしのメッセージは下記に掲載している。

是枝裕和 コメント

映画館は僕の人生の一部です。こっそり泣いたり、自信を奮い立たせたり、観終わったあとに街の風景を一変させられたり。映画館は、そんな無数の人々の無数の記憶を蓄積し発酵させ次の世代に受け渡していく場所です。このような危機的状況の中でもその場所を維持し、未来に継承していくためには、まずはその場所を必要としてきた人たちが連帯する必要があると思います。ミニシアターを中心としたその連帯を映画産業に関わるすべての人へ。そして映画ファンの方々へ。さらには行政へと広げていく必要があると思います。これはその小さな、しかし大切な一歩だと思います。

河瀬直美 コメント

コツコツと自主制作を続けてきた私は、数々のミニシアターにお世話になってきました。公開のときには愛情深く、自分の作品のように宣伝をしていただき、私たち映画に関わる側とお客さんとをつないでくれました。ミニシアターと言われるそれぞれの劇場には、思いを持った顔があり、その方々が選び紹介される作品は非常に多様で膨大で世界を豊かにしてくれます。映画という芸術がこれからも楽しめる日本でありますように。

片渕須直 コメント

私が常々思うのは、映画とはそれを観てくださる観客の心の中で初めて完成するものだということです。そして映画と観客との出会いを作り出してくれるのが映画館です。ミニシアターという存在は、上映する映画を独自性を持って選ぶ可能性を持つ場所です。かつて私の映画も街の小さな映画館で上映してもらえて、観客の皆さんと出会うことができて救われました。ミニシアターを運営するのは平素からどんなに大変なことか。今、この疫病がもたらす困難によって、そうした存在が風前の灯火のような状態に陥っています。失われてしまえば再興するのはさらに困難です。どうか皆さん、ミニシアターの維持に力をお添えくださいますように。

※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記

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