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田中泰の「クラシック新発見」

作曲家たちが音楽で描いた愛~バレンタインデーに寄せて~

隔週連載

第1回

シューマン イラスト:坂谷はるか

「愛は寛容であり、愛は情け深い。ねたまない。愛は自慢せず、高ぶらない。礼を失せず、自分の利益を求めず、怒らず、恨みを抱かない。不正を喜ばずに真実を喜ぶ。すべてを忍び、すべてを信じ、すべてを望み、すべてに耐える」。

これは、新約聖書の「コリント人への手紙」の中に記された愛にまつわる有名な一節だ。一方、クラシック史上にその名を残す作曲家たちは、音楽によって愛の姿を描き出している。「愛」は、作曲家たちが名作を生み出す原動力の1ひとつだったのだ。バレンタインデーを目前に控えた今回は、作曲家たちが音楽で描いた愛にまつわる作品の数々に注目してみたい。

“クラシック史上最高のロマンティスト”と言われるドイツの作曲家シューマン(1810-1856)は、結婚式前夜に新妻クララに歌曲集『ミルテの花』を捧げている。その冒頭を飾る『献呈』からは、クララの父ヴィークの強固な反対を押し切って結婚にこぎつけたシューマンの喜びが伝わってくるようだ。

以下、筆者の愛聴盤を紹介。
ボロディン:『弦楽四重奏曲第2番(ノクターン)』ショスタコーヴィチ弦楽四重奏団

ロマンティストぶりでは、ロシアのボロディン(1833-1887)も負けていない。超一流の科学者でもあったボロディンは、仕事の合間に作曲をするいわゆる「日曜作曲家」。今で言うところの“二刀流”の走りのような存在だった。その忙しい仕事の合間を縫って作曲した『弦楽四重奏曲第2番』は、愛する妻エカテリーナと知り合った20年目の記念として、妻に捧げた作品なのだからかっこよすぎる。有名な第3楽章「ノットゥルノ」は、この曲が『ノクターン』と呼ばれるきっかけとなったロマンティックなメロディだ。

『ワーグナー:管弦楽曲集第2集』
ダニエル・バレンボイム指揮、シカゴ交響楽団

ドイツ後期ロマン派の巨匠ワーグナー(1813-1883)の愛妻家ぶりも心憎い。1878年12月25日の朝のこと、誕生日を迎えたワーグナーの妻コジマが耳にしたのは、部屋の外から聞こえてくる美しいメロディだった。この音楽は、愛する妻との結婚の喜びと、息子ジークフリートを生んでくれたことへの感謝の想いを込めた、ワーグナーからのサプライズ・プレゼントとして作曲された『ジークフリート牧歌』。録音のない時代なので当然生演奏というのが素敵すぎる。

『マーラー:交響曲第5番』
レナード・バーンスタイン指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

一方、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したドイツの作曲家マーラー(1860-1911)の代表作『交響曲第5番』は、愛する妻アルマとの出会いの頃に着手し、結婚の翌年に完成させた名作だ。映画『ベニスに死す』で有名になった第4楽章「アダージェット」の美しさについて、2人と親交のあった指揮者メンゲルベルクは、「これはマーラーからアルマへの音楽による愛の告白だ」という言葉を遺している。いやはやロマンティック。

さて、今回紹介した作品はどれも甘く麗しいメロディのオンパレードだ。バレンタインデーのBGMに使ってみてはいかが。

プロフィール

田中泰

1957年生まれ。1988年ぴあ入社以来、一貫してクラシックジャンルを担当し、2008年スプートニクを設立して独立。J-WAVE『モーニングクラシック』『JAL機内クラシックチャンネル』などの構成を通じてクラシックの普及に努める毎日を送っている。一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事、スプートニク代表取締役プロデューサー。

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