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w-inds. 橘慶太×KREVA対談【前編】 トラックメイカー視点で語り合う、楽曲制作のテクニック

リアルサウンド

18/9/1(土) 12:00

 3人組ダンスボーカルユニット・w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」の第2回ゲストは、KICK THE CAN CREWのメンバーであり、ヒップホップソロアーティストとしても活動するKREVA。MCバトルで3年連続日本一に輝くなどの偉業からラップスキルに焦点があたることの多いKREVAだが、音楽活動の中で最も楽しさを感じるのはトラック作りなのだという。今回はKREVAのトラックメイカーとしての素顔に迫るべく、橘慶太が日頃から気になっていたことなど率直な質問を投げかけた。【前編】(編集部)

(関連:KREVAが語る、『存在感』の制作背景とヒップホップのこれから「しっかり点を打ちたい」

■KREVAが語る“MPC”の魅力

慶太:KREVAさんが音楽を作るようになったきっかけは?

KREVA:ラップを始めた19歳の時はターンテーブルとレコードを買うくらいで、まだ機材は持ってなくて。曲をどうやって作ったらいいのかもわからなかった。ヒップホップで最初に興味を持ったのは実はダンスで。そこからDJが流行ってるらしい、DJが回してるレコードに乗せてどうやらラップをするらしい、みたいな順番で知って、ラップを本格的にやるようになった。本格的っていってもレコードのインスト盤をDJが2枚使いして、ラップするみたいな感じでね。それとちょうど同じ頃に原宿の洋服屋で働くことになって。そこがEAST ENDのROCK-Teeさんのお店で、ROCKさんがレジ裏にMPC3000(サンプラー/生の楽器などの音声をデジタルデータ化して取り込み再生する機器の一種)を持ってきてたの。当時RIP SLYMEのPESも一緒に働いてたんだけど、PESと一緒にMPCをさわらせてもらって。PESも俺もMPC3000の使い方をなんとなく覚えていって、曲を作るようになった。

慶太:機材を自分で買ったタイミングは?

KREVA:当時一緒に活動していたラップグループのDJがお金持ちで、おばあちゃんに言えば買ってもらえるかもしれないって(笑)、そいつがMPCを買ったんだけど、俺の方が使い方をどんどん覚えていって。それでMPC3000、当時30万円だったかなぁ。人生で初めてローンを組んで買ったね。

慶太:お店にあったものやお友だちが買ったものを借り続けるのではなく。

KREVA:やっぱり自分のを持ちたくて。それにおばあちゃんが「あれどうしたの、30万のやつ」みたいになっちゃうじゃん(笑)。だから自分で買って。曲を作り始めたのは、そこからだね。

慶太:最初の頃の曲はMPCだけで作っていたと。

KREVA:MPCだけ。しかもサンプリング(既存曲のフレーズを使って新しい曲として再構築)できる音の容量のMAXが2メガなわけ。本当俺どうやってやってたんだろうって今では思うんだけど。

慶太:えー!

KREVA:今、MP3の曲でも7メガはあるよね。だからものすごい速い回転数にして音を予測して、0.1秒ぐらいずつサンプリングする、みたいなことをやってたかな。言い訳みたいに「男の2メガ」とかいって(笑)。リズムマシーンとかシンセとか曲を作るハードは買ったことある?

慶太:MPC touchを買ったことはあるんですけど、個人的にはあまり使いこなせなくて。僕が曲作りを始めた時に買ったのがLogic(DAW/コンピューターを使った音楽制作ツールの一種)だったので、どうしてもDAW上での作業が多いんですよね。KREVAさんがMPCからDAWに移行したのはいつぐらいですか?

KREVA:俺はMPC3000から4000になって、ローランドのハードディスクのMTR(2トラック以上の録音再生ができる機器)を使ってミックステープを自分で作ってたの。それを見ていた当時のマネージャーが機材に詳しくて、「それだったらPro Tools(DAWの一種)を買った方がいいんじゃないですか? お金もあるんだから」「あるね」みたいな流れで(笑)。そこからMacを買って、最初は重ね録りしかしてなかったんだけど、使ってるうちにどんどん他の機能もわかってきて。レコーディングはPro Toolsで最終的に完結させるし、だったら最初からこれで作った方がいいんじゃないということで、マイクも自分で買って、2007年ぐらいから自分でいろいろ全部やりだした感じかな。

慶太:じゃあそれからずっとPro Toolsで作業されてるんですね。珍しいですよね。ヒップホップではあまりPro Toolsで作っている方はいないような気がして。

KREVA:あんまりいないかな。でもMPC育ちで、MPCからPro Toolsに録音する作業をやっているうちに、こっちだけでよくね? みたいになってる人もパラパラいる。でも、オールドスクールな感じだとは思うけどね。あと、MPCでオススメの使い方があって、シーケンサー(複数の電子楽器のタイミングを事前に設定したとおり自動的に送り出す)として使うこと。MPCで鳴らす音は太いという特徴があるんだけど、俺はシーケンサーとして素晴らしいと思っていて。例えば、キック→スネア、キック→スネアみたいなシンプルなリズムを4小節で組んで3分の曲できっちり走らせると、絶妙にズレてくれるわけ。しかも要所要所で。それってほぼ俺らが求めてることじゃん。なんなら自分である時はちょっと遅く、たまにちょっと速く、ちょっとずつずらしたりしてるのに。本来コンピューターでは絶対ないことなんだけど、MPCではそういう一番求めてる感じが出るんだよね。微妙な揺らぎというか。SHAKKAZOMBIEのTSUTCHIEさんも昔『サウンド&レコーディング・マガジン』で検証したことがあったけど、本当にズレるの。

慶太:サウンドに飽きないためには大切ですよね。4小節全く同じループが続くと、やっぱりどこかで飽きがきちゃうし。

KREVA:うん、しかもそれでいてタイト。R&B歌手のザ・ドリームとトリッキー・スチュワートが一緒にプロデューサーをやっていて、ビヨンセの曲とかをいっぱい作ってるんだけど、トリッキー・スチュワートはいまだにMPC3000でリズムを組んでるんだよね。もちろん他の音を生で入れたりしてグルーヴは出すんだけど、ビートの根幹にあるグルーヴはMPCで作ってると知って、さすがだなと思った。俺も時間がない時にはよくMPCのノリを一個入れたりしてる。アナログの感じと揺らぎが欲しい時にはMPCが合ってるんじゃないかな。

■ミックス好きは“お弁当作り”にハマる?

慶太:KREVAさんの最新作『存在感』を聞かせていただいたんですけど、どの曲も一つのパンチラインをリフレインしているじゃないですか。これはどのように生まれたものなんですか?

KREVA:俺、音楽の何を作るのが一番好きかって言われたら、ライブも含めてトラックを作ってる時が一番楽しくて。だからトラックはたくさんあるんだよね。今までの感じだとその中から例えばメロディが聞こえてきたらそれに言葉をはめたり、トラックを聞いてくうちにフロウが出てきてラップを書いたりするスタイルが多かったんだけど、言うべき言葉が見つからないっていうか、言いたいことがなくなってきちゃって。あんまりリリックを書けない時期があったの。トラックはできるんだけどね。どうしようかなって、それこそ毎日スタジオに行ってトラックを聞くんだけど。そんな時、だったらこのアプローチ、トラックに乗せるアプローチを辞めて、何かフレーズを思いついたらそれを一気に形にしてみようと思って。「存在感」は運転している時に「存在感はある。お、きたな。存在感はある」ってずっと忘れないように歌いながら車で5分くらいのスタジオまで行って、そのフレーズに合わせてコードをつけて、リズムを組んで、一気に歌詞を書いて。瞬発力を試してみようと思って作った。だから、今回の曲はいつもとはだいぶアプローチが違うんだよね。

慶太:そうだったんですね。僕もトラックから作ることが多いし、トラックを作るのが好きなのでよくわかります。でも僕の場合、一番好きなのはミックスなんですけど。

KREVA:あはは。ヤバいね!

慶太:音が美しくなっていくのが好きなんです。延々とやってられますね。

KREVA:いつ目覚めたの? ミックスに。

慶太:もちろん最初は全然興味はなくて。海外の音楽が好きなのでビルボードトップの曲をよく聞いているんですけど、トラックをある程度作れるようになって、「なんで海外と日本ではこんなに音が違うんだろう」と思った時にミックスが違うような気がして研究し始めたんです。それで最近のミックスってほぼアレンジが一緒だなと思い始めたのと、今のアレンジは音色選びからミックスをイメージしてないといけないということを意識するようになって好きになりました。だから僕、ミックスしてる時って、ミックスをしてるっていうよりは曲を作ってる感覚なんですよね。鳴ってる音の違いをどうやったら海外に近づけられるんだろうと思い始めてミックスにハマりました。

KREVA:それ、お弁当作りにハマっちゃうタイプだね。ご飯の下の方のスペースに卵焼き入れて、右の方にトマト、左にブロッコリーみたいな。ウインナーはちょっと立てて、ちょっと切れ目も入れようか~みたいな。結構ハマっちゃうよ、多分。

慶太:ハマっちゃいますかね(笑)。

KREVA:弁当作りも、16bitの44.1khz、最終的にCDのこの規格に収めるぞ、っていうのも一緒だから。はまっちゃうタイプだと思う。

慶太:間違いないです。最終的にSpotifyで流れることを考えてミックスしちゃうくらいなので(笑)。

KREVA:それは「俺ちょっと夜は興味ないんだ、弁当といえば昼ですよ」。そういうことだよね。

慶太:間違いないです。これはわかりやすい例えです(笑)。

KREVA:ミックスとかわからない人もそういうことなの。こっちにこの音を置いてあげてとか、この音の量をちょっと減らしてとか。削って足しての作業。

慶太:僕、しょっちゅうこうやって平気でマニアックな話をしちゃうので助かります(笑)。

KREVA:わからない人は、お弁当をイメージしてください(笑)。

■KICK THE CAN CREW「千%」はどう作られた?

慶太:ビートはどうやって作ることが多いですか?

KREVA:最近はまずはマシン(Native Instruments Maschine)だね。それで納得いかない時にMPCを通すと、それこそミックス的な観点でも腑に落ちることが多くて。

慶太:なるほど。じゃあマシンのプリセットの音を作って。

KREVA:プリセットからスネアだけ変えたい時はMPC3000に取り込んだり、ちょっとグルーヴが欲しいなって時はまったく同じパターンをMPC3000で組み直して録り直したりとか。そういうのが多いかな。

慶太:じゃあサンプル(既存曲の一部のフレーズ)から音を作ったりはしないんですね。

KREVA:最近はないね。

慶太:前はあったんですか?

KREVA:前はもちろん。でも最近だといわゆるドラムマシンのプリセットの中のフレーズとかコード展開とかから作ってみたり。あとはコード進行集とかループ集とかを買ったり。

慶太:やりやすいし、イメージが湧きやすいですしね。

KREVA:うん。楽しいし、早い。そこから自分で変えていって。

慶太:Pro Toolsで作曲もしてるんですよね。

KREVA:してる。でもMPCを使ってた人からAbleton Live(DAWの一種)がいいよって話をよくされてたから、Pro ToolsからAbleton Liveに移行していこうと思ってたんだけど。俺の制作ペースからすると、Liveの使い方を覚えてる時間があったら6曲はできるなと思って、そのままPro Toolsを使ってる。Studio One(DAWの一種)も買ったけど、同じで。結局早く形にしたいっていうのが大きくてそのままだね。

慶太:ミックスまでされたりもします?

KREVA:俺がミックスまでして世の中に出た曲はほとんどないね。何曲かあるけど、すごい初期のものだから。ソロデビュー曲の「希望の炎」がそうなんだけど、MPCで音を流しながらブースに入って一発録りしたやつだったから、もうそれしか残ってなくて。それをまだデビューが決まってない時にレコード会社の人を呼び止めて聞いてもらったんだよね。だからミックスも何もない、直の音。それが出てるぐらいで、あとはしっかりミックスしてもらってるかな。

慶太:ずっと同じエンジニアさんなんですか?

KREVA:そうだね。KICK THE CAN CREWの時は違う人とやってたけど、最近はずっと同じ人だね。マスタリングのエンジニアさんは結構いろいろ試して。海外に行ったりもしてるね。

慶太:KICK THE CAN CREWといえば、僕、実はずっと聞きたかったことがあったんですけど……「千%」が神がかりすぎていて、聞いた瞬間に衝撃を受けたんです。

KREVA:ありがとうございます。嬉しいね。

慶太:曲の中で使われてるあの印象的なサウンドって、サンプリングですか?

KREVA:あれは大元の、こんな感じの曲を作りたいっていうのを先にサンプリングで作ってたわけ。それから、そのサンプリングの元ネタと同じBPMで別の曲を作ってまたサンプリングしたんだよね。

慶太:じゃああれはサンプリングっていっても「千%」のために作った曲でのサンプリングなんですね。

KREVA:自分たちで作った曲のサンプリング。だから自由に使える。

慶太:なるほど。絶対普通のサンプリングでは出ない感じが出ているのにサンプリングっぽくて、なんでこうなるんだろうとずっと思ってました!

KREVA:全部バラバラにパーツごとに曲を録ってるんだよね。

慶太:どうやって作ったか聞いてもいいですか?

KREVA:もちろん。あれはまずサンプルネタの曲から近しいコード進行、本当に欲しいコード進行を導き出して、それに伴って柿崎洋一郎さんに新たに曲を作ってもらった。例えばティンパニーみたいな音が入ってるね、じゃあティンパニーも入れてみようとか。でもティンパニー1発のために生じゃなくてもいいからって、柿崎さんが選んだ素材の音が入ってたりとか。楽器の編成をサンプリングしたって感じかな。なかでも大事にしたのは、そのコード進行の中で柿崎さんに納得がいくメロディのストリングスが出てくるまで作ってもらったこと。そうやって出来上がったストリングスの主なメロディラインに対して女性コーラスに歌を歌ってもらったんだけど、ソウルフルな歌が得意な子だったからフェイクもたくさん録ってそのテイクを残しておいて。それをイントロとか途中にちょっとずつはめていったんだよね。昔のソウルを作ってるみたいな感じだったな。

慶太:めちゃくちゃ手が込んでますね。

KREVA:すごい手がかかってる。ドラムは生ドラムっぽい音が出るStrikeっていうプラグインがあるんだけど、Strikeのフィルだけ使って、キックスネアはそれこそMPCで入れていったりして。なかなか多重的な作業だったね。ベースは最後に直して。

慶太:その作り方はかなりすごいです。

KREVA:一回これができるといろんなことができるし、面白いんじゃないかなって。

慶太:確かに面白い。

KREVA:あと、ピッチを上げた時に出るなんとも言えない高揚感みたいなのがあるじゃん。それが欲しいからオリジナルのBPMを計算して78ぐらいで作って、一気に90くらいまで上げるとあの感じになる。

慶太:そういうことなんですね。天才ですね。

KREVA:あはは。

慶太:僕は今日この話を聞けただけでもう満足です(笑)。

KREVA:そう言ってくれるのもそうだけど、気づいてくれたのがやっぱりすごい嬉しいね。

(※後編に続く)

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