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『オーシャンズ8』で描かれなかった“宝石とドレス”の秘密 カルティエに隠された悲しき恋物語

リアルサウンド

18/8/11(土) 10:00

 8月10日に公開された『オーシャンズ』シリーズの最新作『オーシャンズ8』はキャストと監督が一新され、前作よりもさらにスケールアップされた話題作です。前作のスティーヴン・ソダーバーグにかわり監督を務めたのは『ハンガー・ゲーム』(2012年)のゲイリー・ロス監督。そして、オーシャンズの新チームには、ダニー・オーシャンの妹役を演じる サンドラ・ブロックをはじめケイト・ブランシェットやリアーナなど豪華キャストが勢揃いしています。

参考:アン・ハサウェイ、「トゥーサン」を語る【写真】

 今回のオーシャンズの強盗計画は、メットガラに出席する女優ダフネ(アン・ハサウェイ)が着用するカルティエのダイヤモンドネックレス「トゥーサン」を盗み出すこと。スリリングな物語はぜひ映画館で堪能してほしいのですが、本作を2倍も3倍も楽しむために、メットガラや「トゥーサン」についてお話したいと思います。

【ファッションのアカデミー賞「メットガラ」が開催される理由とは?】

 「メットガラ」の“メット”は“メトロポリタン美術館”、“ガラ”は“お祭り”という意味。「パーティー オブ ザ・イヤー」とも呼ばれるこのパーティーの目的は、メトロポリタン美術館の服飾部門による資金集め。毎年5月の第1月曜日に、春の展覧会のオープニングパーティーとして開催されます。

 『プラダを着た悪魔』(2006年)でメリル・ストリープが演じた鬼編集長のモデルとなった米VOGUE編集長のアナ・ウィンターのアシスタントが、メットガラ運営の采配を振るうシーンがありますが、アナ・ウィンターは運営の全責任者。そして、パーティーとともに開催され、その後数カ月続く企画展はメットの服飾部門のキュレーター、アンドリュー・ボルトンが責任者です(劇中、招待客をアナと一緒に出迎えているのがアンドリュー)。両者が力を合わせて得た寄付金は、メット服飾部門の運営費に組み込まれます。1999年から2015年までにアナが集めた資金は総額1億2,000万ドル超(約132億円/1ドル=110円換算)にものぼるのだとか!*1

 それでは、メットガラのパーティーに出席するにはいくらかかるのでしょうか?

【招待客オンリーのパーティー券】

 2016年のパーティーの席料は3万ドル(約330万円)で、テーブル席が27万5,000ドル(約3,000万円)もしたというメットガラ。(1ドル=110円計算)*1 それでも、600席あるパーティー券は毎年即時完売になるそうです。

 ただし、パーティー券を買えば誰でも出席できるわけではなく、あくまで招待客オンリー。アナ・ウィンターが認めた各業界で一流の人物しか招待されません。劇中のメットガラにはたくさんのセレブが登場しますが、その1人にキム・カーダシアンの姿も。実は、アナはリアリティ番組のキャストが好きではなく、キムも2012年までは招待されていませんでした。しかし、カニエ・ウエストと結婚し、カニエが2013年のメットガラでライブをしたことを境にキムも招待されるようになったという噂です。*2

【カルティエの至宝「トゥーサン」の名前の由来は?】

 『オーシャンズ8』が奪うダイヤモンドネックレス「トゥーサン」は1億5,000万ドル(約165億円/1ドル=110円換算)もの価値があるカルティエの至宝。このダイヤモンドは現実には存在しない架空のジュエリーなのですが、「トゥーサン」という名前は、ある実在の女性にちなんでつけられたものなのです。

 1933年に、創業者の孫ルイから直々にカルティエのハイジュエリー部門の最高責任者として指名されたジャンヌ・トゥーサンがその女性。ジャンヌ・トゥーサンは1877年にベルギー・ブリュッセルのレース職人の娘として生まれました。個性的な装いに包まれたスリムでブルーの瞳をもった、ショートカットが似合う非常に魅力的な女性だったのだとか。

 16才になったジャンヌは地元で侯爵家の息子と恋に落ちます。ですが、身分違いを理由に結婚を反対されて、若い二人はパリで同棲を始めました。1800年代末から1900年代初頭のパリは、ピカソ、モディリアーニ、ニジンスキー、ココ・シャネルなど才能溢れる若いアーティストが積極的に活動する、輝かしい未来が感じられる街。ジャンヌと恋人はパリで刺激的な日々を送っていましたが、やがて、彼はほかの女性のもとへと走ってしまったのです。

 生活費を稼ぐためにバッグを制作し始めたジャンヌは、その大胆な感性で周囲を驚かせます。ある日、知人の紹介で出会ったカルティエの創業者の孫、ルイ・カルティエは、ジャンヌの才能を見抜き、カルティエのメゾンで働くように誘いました。ジュエリーの知識をルイから吸収したジャンヌは、ルイの右腕として大切な存在に。二人の仲は恋人同士にまで発展し、ルイはジャンヌと結婚しようとしました。

 ところが、またもや、家柄が釣り合わないとルイの家族から結婚を反対されてしまいます。モダニズムが台頭し、階級社会から大衆社会へと移行しつつあった当時でも、階級によって人々は分断されていたのです。ハンガリー貴族の女性と結婚したルイを、それでもビジネス面でサポートし続けたジャンヌ。1933年、心臓病を患ったルイは、自分の亡き後もジャンヌにカルティエを任せたいとハイジュエリー部門の最高責任者に抜擢しました。そして、結婚には反対だったルイの家族も大賛成したのだとか。

 その生涯をカルティエに捧げたジャンヌ。彼女のニックネーム「パンテール(豹)」をモチーフに様々なジュエリーや時計「パンテール ドゥ カルティエ」が作られ、「ジャンヌ・トゥーサン」というバッグコレクションも誕生したほど、いまやカルティエを象徴するアイコンとなりました。

【宝石だけじゃない! 8人の女性が魅せる超豪華なクチュールドレス】

 さて、ジュエリー以外にも本作の見どころは、新旧入り混じった世界的なトップデザイナーによるクチュールドレス。「オーシャンズ8」のメンバーがメットガラで着るために作られたドレスは、ゴージャスなだけでなく、それぞれのキャラクターを引き立てるデザインとなっています。

 まず、サンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャンのドレスは、ドレープがふんだんにあしらわれたロマンティックなドレスを作らせば、右に出る者がいないと言われるアルベルタ・フェレッティのもの。「オーシャン」という名前をモチーフに、ドレスにはヒトデ、貝殻や波が煌びやかに刺繍されています。

 ケイト・ブランシェット演じるルーは、クラブのオーナーという役柄にあわせた、ロックスターのようなクールなジャンプスーツ。ジバンシィの前クリエイティブディレクター、リカルド・ティッシによるデザインで、グリーンのゴージャスな布地にはエメラルドが散りばめられています。キース・リチャーズやデボラ・ハリーを意識したと衣装デザイナーは語っています。

 アン・ハサウェイ演じる女優ダフネ・クルーガーは、1950年代のクラシック映画の女優のような瀟洒なピンクのドレス。これは、鮮やかな色使いと女らしいシルエットが特徴のヴァレンティノがデザインしたもので、「トゥーサン」の輝きを引き出すために広いデコルテには繊細な刺繍が施されています。

 ミンディ・カリング演じるジュエリーのエキスパート、アミータは実家暮らしのよい子ちゃん。インド系のバックグラウンドをもつアミータの褐色の肌を優美に飾ったのは、これまたインド出身でNYを拠点に活動するデザイナー、ナイーム・カーンです。ゴールドの布地にスパンコールとジュエリーが手で縫いこまれた煌くドレスは、マハラジャのよう。

 オークワフィナ演じるスリの名人、コンスタンスが身につけたドレスは今最も注目されるアメリカ人デザイナーのひとりであるジョナサン・シンカイが創りました。繊細なレースやかぎ編みを得意とするジョナサンの甘すぎない力強いエレガンスは、ニット帽とスキニーパンツを日常着とするコンスタンスをレディーに生まれ変わらせることに大成功。

 サラ・ポールソンが演じたVOGUEの編集部に潜入するタミーは、普段はサッカーママ。個性的なパフスリーブスがついた、ママらしい上品なネイビーブルーのベルベットドレスは、イタリアを代表するデザイナー、プラダが担当。シンプルななかにもどこか遊び心のある装飾が美しいドレスは、エッジの効いたシックを発信し続けるプラダの真髄が表れています。

 リアーナ演じる天才ハッカー、ナインボールのドレスはニューヨークの若きデザイナー、ザック・ポーゼンが制作したもの。リアーナはザックのドレスで度々レッドカーペットに登場するほど、ザックがお気に入りなのだとか。ザックの特徴であるマーメイドラインのグラマラスなドレスは、歌姫リアーナの存在感を一層際立たせています。ちなみに、ザックは本作のメットガラにもカメオ出演しています。

 最後に、ヘレナ・ボナム=カーター演じるファッションデザイナーのローズがまとったのは、ドルチェ&ガッバーナのドレス。イタリアの伝統工芸である花柄の刺繍を斬新なデザインに融合することで有名なドルチェ&ガッバーナらしく、白いドレス全体にバラが散りばめられています。ローズ(バラ)という名前にかけあわせて、バラを取り入れたのもドルチェ&ガッバーナらしいユーモア。

 『オーシャンズ8』の女性たちのように、しなやかで力強いエレガンスを体現したジャンヌ・トゥーサン。ルイとは結ばれませんでしたが、カルティエのアイコンとして永遠の輝きを放っているのです。(此花さくや)

【参考】
*1……What Is the Met Gala, and Who Gets to Go? – The New York Times
*2……Kris Jenner, Josh Hartnett, and more celebs Anna Wintour rejected from the Met Gala – Revelist.com
集英社インターナショナル『カルティエを愛した女たち』川島ルミ子著
『オーシャンズ8』劇場用プログラム

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