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峯田和伸(銀杏BOYZ)のどうたらこうたら

先人への敬意と、今一番会ってみたい人

毎週連載

第106回

前回、昔の東京が最高! っていう話をしたけど、同じように思うのがさ、色んな分野でその道を切り開いた人たちのこと。

音楽のことで言えばさ、東京ロッカーズ周辺を撮影してた地引雄一さんもそうだし、パンク雑誌を一般の書店にまで流通させたっていう意味では『BURST』っていう雑誌をやっていたピスケンさんっていう名編集者とかね。裏方に徹して尽力した先人って評価されづらい面があるかもしれないけど、僕はそういう人と機会があったら会って話をしてみたいんだよ。というか、お礼を言いたいんだ、純粋に。そういう人たちのおかげで、後のカルチャーが繋がって、もちろん僕も影響を受けて、自分なりのやり方を考えられたからね。

その道の先人って、どうしても手探りだったろうし、情熱でやっているところがある。対して、そういう先人を見た次の世代が「じゃあ、こうやれば儲かる」みたいになって、特に経済的に良い思いをしていることが多い。これがなんか納得いかないんだよね。そうじゃなくてさ、こういう先駆者をきちんと評価・敬意を表してこそ、本当の意味でカルチャーって根付いていく気がするんだけどね。なんか先駆者ばっかりが損しているように思えてならないんだ。

今、僕が興味がある人って、やっぱりこういう先駆者なんだけど、実はその中でいつか会ってみたい人が一人いるんだ。森田義信さんっていう翻訳家なんだけど、日本のパンク界隈ではラフィンノーズの伝記『イースター』の著者として有名な人。でも、森田さんのすごさが本当にわかるのはさ、やっぱり本業の翻訳書なんだよね。

カナダの作家でダグラス・クープランドっていう人がいるんだけど、彼のデビュー作で、爆発的に売れた『ジェネレーションX』っていう小説がある。アメリカで評価が高くて、ビートニク以降の「90年代文学の神様」と言われてる。この『ジェネレーションX』も最高なんだけど、でも僕は、彼の第2作目の『シャンプー・プラネット』っていう小説のほうが好きでさ、この翻訳をやったのが森田さんだった。

それと、イギリスにニック・ホーンビィっていう作家がいるんだけど、彼はサッカーと音楽に絡む作品が多くてね。実は僕がサッカー、音楽を好きになったのもこのニック・ホーンビィの影響なんだ。彼の作品で『ハイ・フィデリティ』っていう映画にもなった小説があるんだけど、これを訳しているのも森田さん。

あと、森田さんはジョン・レノンとかピート・タウンゼントの自伝とかも訳していてさ、とにかく僕の好きな音楽にも造詣が深い人なのよ。

他の訳者の人もいっぱいいる中で、森田さんの訳の何が好きってさ、例えば小説の中でセリフが出てくることがあるでしょ、その言い回しが今風に合わせた現代口語調でわかりやすいところなんだ。「つーかお前さ」みたいなね。こういう崩し方って、本国の文化的な背景を全部わかっていないとできないことだと思うの。物理的に「言葉を訳す」ってことなら、両国の語彙を知ってさえいればできるかもしれないけどさ、こういう背景とか感覚も加味して日本語に訳せる森田さんってすごいんじゃないかなと思う。

銀杏BOYZのライブタイトル『世界がひとつになりませんように』とか、曲名の『僕たちは世界を変えることができない』とかは確かに僕が考えたものだけど、こういう言葉を考えるときはね、外国の標語とか表現を意識しているんだ。外国の原文を背景とか感覚も含めて日本語に訳すと、普通の日本人には考えつかないような言葉、語感になる。こういう言葉ができると、すごい面白いんだけど、これは森田さんの訳の感覚からの影響でもあるんだよね。

実を言うとさ、『光のなかに立っていてね』っていう銀杏のアルバムがあるでしょ。あのタイトルはね、さっき言ったダグラス・クープランドの『シャンプー・プラネット』の中の主人公とお母さんの会話の中にあった言葉からの引用なんです。小説のお母さんのセリフの中に「光のなかにずっと立っていてね」っていうのがあってさ。原文はダグラス・クープランドの表現だけど、それを日本人にちゃんと伝わるように訳したのは森田さんだからね。だから、いつか会って話をしてみたいし、お礼を言いたいと思っているんだ。

ダグラス・クープランドの『シャンプー・プラネット』。本当に面白いので、良かったら読んでみてください!

構成・文:松田義人(deco)

プロフィール

峯田 和伸

1977年、山形県生まれ。銀杏BOYZ・ボーカル/ギター。2003年に銀杏BOYZを結成し、作品リリース、ライブなどを行っていたが、2014年、峯田以外の3名のメンバーがバンド脱退。以降、峯田1人で銀杏BOYZを名乗り、サポートメンバーを従えバンドを続行。俳優としての活動も行い、これまでに数多くの映画、テレビドラマなどに出演している。


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