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年末企画:今祥枝の「2020年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 異文化を知ることの重要性を再確認

リアルサウンド

20/12/29(火) 10:00

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、海外ドラマの場合は、2020年に日本で放送・配信された作品(シーズン2なども含む)の中から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクト。第15回の選者は映画・海外ドラマライターの今祥枝。(編集部)

1. 『HOMEAND/ホームランド』シーズン8(FOXチャンネル)
2. 『Mr. ROBOT/ミスター・ロボット』シーズン4(Amazonプライムビデオ)
3. 『フォッシー&ヴァードン ~ブロードウェイに輝く生涯~』(WOWOW)
4. 『カリフェイト』(Netflix)
5. 『DEUCE 3/ポルノストリート in NY』(スターチャンネル )
6. 『ラミー 自分探しの旅』 シーズン1&2(STARZPLAY)
7. 『ふつうの人々』(STARZPLAY)
8. 『プロット・アゲンスト・アメリカ』(スターチャンネル)
9. 『クイーンズ・ギャンビット』(Netflix)
10.  『ウォッチメン』(スターチャンネル)
次点:『ダーク』シーズン3、『ベター・コール・ソウル』シーズン5、『ザ・クラウン』シーズン4、『POSE』シーズン2、『リトル・ファイアー』

 2020年は誰にとっても困難な年だったと思うのですが、個人的にも家の事情によりカオスな1年でした。なので例年に比べて視聴に計画性もなく記憶が飛んでいる作品もありつつ、自分用メモを見直しながら初見時の盛り上がり度を思い出して10本選びました。

 振り返ってみると、個人的にはご贔屓のシリーズものの最終章に感心しきりの1年だった。『Mr. ROBOT』、『DEUCE』、『ダーク』、『ホルト・アンド・キャッチ・ファイア~制御不能な夢と野心~』(旧作だけど最終章上陸は今年。テン年代の埋もれた秀作だと思う)などの最終シーズンは、それまで積み重ねてきたエピソードを回収しながら、よくぞこんな着地点を……と思わせてくれる作り手たちの手腕と作品への愛にしびれた。どっぷりとその世界に浸ってキャラクターとの旅ができるのはTVシリーズの醍醐味だと思う。もちろん長く続ければいいというものでもないし、TVの黄金時代にはキリのいいところで終わる作品に秀作が多いですけども。

 というわけで超私的ベスト1は、シーズン1から思い入れ度MAXの『HOMEAND/ホームランド』。シーズン5ぐらいから、最終章はどう決着をつけるのかを毎シーズン考えながら観ていたが、予想もしなかった最終話の完璧さに胸が躍るやらお別れが寂しいやらで文字通り泣き笑い。キャリーとソールの物語が、こんな結末を迎えるとは……と感無量だった。最終章でハワード・ゴードン、アレックス・ガンザ、ギデオン・ラフが自ら監督や脚本を手がけるというあたりも胸熱ポイント。最後まで丁寧に、ファンなら満足できるというレベルを遥かに超えた幕引きに、ありがとうホームランド! という気持ちでいっぱいに。その後の現実世界の中東情勢とのリンクにもぞわぞわした。

 本作はイスラエルのシリーズ『プリズナーズ・オブ・ウォー』のリメイクだが、オリジナルとは別物として成功させるハリウッドはさすがだなあと改めて思う一作でもある。一方で、2019年ベスト10にも書いたと思うが(参照:年末企画:今祥枝の「2019年 年間ベスト海外ドラマTOP10」 キーワードは“内省”と“再認識”)、今年も非英語圏の作品を意識して観た。ここが攻めきれなかったところでもあるのだが、特に米リメイクの多いイスラエル、トルコ、台湾が今年個人的に興味を持った国。イスラエルの『テヘラン』はともかく『ファウダ -報復の連鎖-』の泥くささにドン引きしたり、韓国ドラマに通じるのではと思ったトルコの『恋の入門編』、『次の被害者』を観てすげえ! となった台湾などなど、見慣れぬ日常描写にへえ~と思ったり。気分転換にも最適だった。

 関連して、社会派として非常に優れた北欧『カリフェイト』、『ラミー 自分探しの旅』なども異文化を知ること、目を向けることの重要性や興味は尽きないと思わされた秀作。前者も後者も、今のアメリカが世界からどう見られているのかがよくわかる描写が多い点も非常に面白く観た。

 大統領選を追いかけながら、アメリカなあ、と思った1年でもある。『ウォッチメン』『ラヴクラフトカントリー』『ハリウッド』ほかあの手この手で歴史の再認識を促す作品も多かったように思う。中でも民主主義とは?を問いかける『プロット・アゲンスト・アメリカ』のメッセージはずしりと重く受け止めた。スターチャンネル座談会(参照:『キング・オブ・メディア』と『ウォッチメン』は裏表の存在? 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【前編】)でも話に出たが『DEUCE』も手がけた本作のクリエイター陣の視点、作風は超好み。

 『フォッシー&ヴァードン』は海外ミュージカル愛好家としてはたまらないものがあるが、これも去年のベスト10でも書いたが、どこまで行ってもグレーゾーンな問題を掘り下げていく作品は基本好み。夫婦、男女、アーティスト同士の関係性や複雑さを浮き彫りにする本作のテーマは痛々しくもあるが非常に今日的。特にフォッシーの栄光にかき消されたグウェン・ヴァードンが果たしたクリエイティブな役割を描きつつ、ヴァードンもフォッシーも被害者であり加害者と言える側面もあるといった難しいところに作り手が果敢に踏み込んでいるのがいい。性急に結論を求めがちだが、答えが出ない問題を考え続けることもまた大事なのだと改めて思う。

 女性の描写に関連してシスターフッドといった言葉をよく耳にするようになった。でもなんとなくその辺にまとめておけばOKみたいな雰囲気はむしろ嫌だなあとも。『ザ・クラウン』はくだんの三角関係云々以上に、男性社会で成功した女性が陥りがちな女性を差別する側としてのサッチャーの描写に膝を打った。決して相容れない女性同士を描いた『リトル・ファイアー~彼女たちの秘密~』なども、昨年の『ザ・モーニングショー』にも通じるが、この矛盾した女性像にこそ社会や組織の構造的問題点に目を向けることを促す要素があるだろう。そういう意味では今年の私のNo.1は超保守派女性活動家とフェミニストたちを描いた『Mrs. America/ミセス・アメリカ』(WOWOWで2021年放送)だったかなと思う。双方ともに矛盾だらけの言動に耳が痛いものもあり、そりゃ分断も起こるよなあとも。つくづく女性とは、人間とは複雑な生き物なのだ。

■今祥枝
ライター・編集者 『日経エンタテインメント!』『シネマトゥデイ』『小説すばる』『BAILA』『yom yom』などで映画・海外ドラマについて執筆。Twitter:@SachieIma

■リリース情報
『HOMELAND/ホームランド ファイナル・シーズン 』
デジタル配信中、DVDコレクターズBOX発売中
発売:ウォルト・ ディズニー ・ ジャパン
(c)2020 Twentieth Century Fox Film Corporation

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