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『ブラック・ミラー』製作陣が贈る『さらば!2020年』 過激ゆえにリアルな風刺で得る学び

リアルサウンド

21/1/15(金) 8:00

 『2020年に死を!(Death to 2020)』という、どぎついタイトルが突如Netflixのホーム画面にデカデカと掲げられた。確かに、2020年は酷い年だった。想定外続きで、様々な規制に、パンデミックによる大勢の犠牲者。多くの人にとって思い出したくもない1年であることは間違いない。しかし、逆に忘れてはいけないこともたくさんある。そのリマインダーにもなる、この『さらば!2020年』は素直にドキュメンタリーとするにはあまりにも、逸脱している。

仕掛け人チャーリー・ブルッカーと前身の番組

 1時間10分という短い本作を、Netflixは“コメディイベント”と称している。内容は主にアメリカとイギリスからの視点で2020年に起きたビッグトピックを登場人物らが振り返るものだ。サミュエル・L・ジャクソンにヒュー・グラント、リサ・クドロー、クメイル・ナンジアニといった大物俳優から、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のジョー・キーリー、コメディエンヌであり『ゴーストバスターズ』にも出演していたレスリー・ジョーンズ、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のトレイシー・ウルマンなどの注目俳優が登場。

 仕掛け人は『ブラック・ミラー』のクリエイターであるチャーリー・ブルッカー。彼はもともとイギリスのBBCにて『Charlie Brooker’s Weekly Wipe』と題した番組を持っている。この番組内で彼は司会として、最近の出来事を面白おかしく触れていくわけだが、パンデミックが爆発的になった5月ごろには『さらば!2020年』の前身とも言えるスペシャル番組『Antiviral Wipe』を世に出していた。それもコロナを主軸においた内容だったが、『さらば!2020年』はそれに比べて、より“バカらしい”とブルッカーは表現している。実際のトピックをテーマにしたコメディでありながら、その真新しさはドキュメンタリーともモキュメンタリーとも言い切れない手法にある。

実際のニュース映像×架空のキャラクター

 本作が面白いのは、やはり大御所俳優らがそれぞれ架空のキャラクターを演じていながらも、その意見や思想は実際に存在する一定数の国民の声を代弁したものだからだ。

 ニューヨーク・タイムズは「ニューヨーカリー・ニュース」とされ、サミュエル・L・ジャクソンはそこの記者、ダッシュ・ブラケットに扮する。リサ・クドローはトランプ政権の非公式広報担当官、ヒュー・グラントは歴史学者テニソン・フォス、クメイル・ナンジアニはどこかの億万長者を連想させるシュリーカーCEOのバーク・マルティヴァース、レスリー・ジョーンズは行動心理学者マギー・グラヴェル博士として登場。その他にも偽物のイギリス女王や、科学者、そしてUSとUKそれぞれの“一般市民”が意見を述べていく。

 トピックはオーストラリアの森林火災に始まり、グレタ・トゥーンベリのスピーチ、コロナウイルス、BLM、そしてドナルド・トランプとジョー・バイデンの大統領選まで展開。本当に1年の間に色んなことが起きすぎていて、思わず唖然としてしまう。日本は直接的に関わっていなくとも、例えばBLM運動は大阪なおみ選手の表明も含め国内で関心を呼んだトピックだったはず。

 当時テレビで流れていた本当のニュース映像とともに、改めてトピックについて何が起きたか、そしてそれが当事国においてどのような意味合いを持つかを、ブラックジョークを散りばめながら登場人物が語る本作は果たしてドキュメンタリーなのか。いや、架空のキャラクターが語っている時点でそれは違う。では、モキュメンタリーなのか。モキュメンタリーとは、“フィクション”をドキュメンタリーの形で描く作品を指しているので、ノンフィクションをベースにした本作はモキュメンタリーとも言えないのだ。まるで大人の悪ふざけの塊のような馬鹿馬鹿しさと不真面目さが全面的に出されつつも、新しい手法でニュースを扱い、それが報道よりもある意味“リアル”なのが面白い。

“サウスパークテイスト”な皮肉で見えてくる国民の意見

 悪ふざけ満載で時に下品で、しかし現実世界のトピックスやニュースを皮肉めいて扱うのが上手いといえば、『サウスパーク』。本アニメは社会風刺やパロディ、ブラックなジョークでしか構成されていないといっても過言ではない、メタ要素満載のものだ。それこそトランプが当選された時の大統領選についても描いており(シーズン20)、最近では銃乱射事件や映画『ジョーカー』大ヒットの余波、コロナウイルスによるパンデミックにも切り込んでいる。お下劣にみえて、実はそれぞれのエピソードでのトピックスの扱い方やキャラクターのセリフや意見が、一般市民がその問題についてどのように考えるかという世論を反映している、ある意味教養になるアニメとも言える。“正直すぎて”過激ではあるが、生の声といえばそうだし、そういったオピニオンを知ることは当事国以外の人間がそれについて理解を深めるには手っ取り早い。『さらば!2020年』も、まさにそんな側面を持った作品なのだ。

 なので、もちろん人は選ぶ作品でもある。特に皮肉か、そうでないかの境界線がわかるかどうかも、どれだけそのトピックスおよび国について理解できているか、という点に関わってくるだろう。しかし、それがわからないからこそ、その感覚を掴む糸口にするには、こういった少しくだけた作品を選ぶのも手だ。特に2020年は、今まで以上に海外情勢について考え合い、議論が活性化した年だったように感じる。だからこそ2021年に、より自分の意見を言えたり話題に対して理解を高めたりするためにも、まずはこの“クソ”みたいな去年を振り返るブラックコメディを手にとってみてはいかがだろうか。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。一時期アメリカはバークレーに住んでいた。InstagramTwitter

■配信情報
『さらば!2020年』
Netflixにて独占配信中
監督:アル・キャンベル、アリス・マティアス
出演:サミュエル・L・ジャクソン、ヒュー・グラント、リサ・クドロー、クメイル・ナンジアニ、トレイシー・ウルマン、サムソン・ケイオ、レスリー・ジョーンズ、ダイアン・モーガン、クリスティン・ミリオティ、ジョー・キーリー

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