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BOYSぴあSelection 第41回 磯村勇斗

磯村勇斗 Part2「早く地元を出たかった17歳の自分に伝えたいこと」

全2回

PART2

『恋する母たち』の“赤坂くんロス”も冷めやらぬ中、年明けからは映画『ヤクザと家族 The Family』の公開が控える磯村勇斗さん。綾野剛さん、舘ひろしさんら、錚々たるキャストに加え、『新聞記者』で第43回日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人監督のもと、金髪の青年・木村翼を演じました。

若手俳優の中でも屈指の演技派と名高い磯村さんは、初めての「藤井組」で何を掴んだのでしょうか。

── 映画拝見しました。あのファイティングシーンが圧巻で。体づくりも相当されたのではないかなと。

あのシーンのために、初めてちゃんとした体づくりをしました。翼の初登場シーンになるので、あそこで体がどれくらいできているかで翼という役の説得力が決まる。だから、できる限りつくってきてほしいと監督からも事前に言われていました。

── 体づくりは大変でしたか。

大変でした。シンプルなものしか食べられないので。毎日のメニューは、ブロッコリー、ささみ、ゆで卵くらい。とにかくキツくて、ご飯は楽しみではない、と自分に言い聞かせながらやっていましたね。あとはパーソナルトレーナーさんについてもらって、運動をして、プロテインを飲んで。大変でしたけど、翼という役を演じる上ではやって良かったと思います。

── 実際、何キロくらい落ちたんですか。

僕の場合、体重を落とすというより、増やしながら減らす、といういちばん難しいことをやっていて。というのも、本来なら3ヶ月くらいかけて、まずは体重を増やして、それを筋肉に変えて脂肪を落とすというのが正しいやり方なんですけど、どうしても1ヶ月ぐらいしか準備期間がとれなかったので。食べるのと筋肉をつけるのと脂肪を減らすのを、全部同時にやるのがすごく難しかったです。

── 翼を演じる上で軸にしたものはなんですか。

その土地の空気というか、この土地でしか生きられないんだと腹を括った人間の強さですね。綾野剛さん演じる賢兄の存在だったり、柴咲組が築いてきた歴史を、翼は背負っている。僕が登場する2019年には、もう柴咲組は衰退していて、そんな柴咲組を翼は自分から助けようとはしないんですけど、彼らから愛情を受け取って育ってきたことも確かなので。それに対する恩義みたいなものを胸に秘めながら、新しい道を切り開いていく。そんな翼の生き様を体現するためにも、賢兄や柴咲組の人たちが残してくれた愛を軸に持っていました。

── 生まれ育った町に対する翼の感情は、守りたいというものなんでしょうか。

守りたいっていうのもありますけど、それ以上に抜けられないんですよね。仲間もいるし、自然とそこでしか生きられなくなったっていう儚さだと僕は捉えていました。

── 土地に着目したのは自分でですか。それとも藤井監督と話し合う中で生まれたものですか。

監督と話したり、賢兄とやりとりをしていく中で見えてきた、という感じでした。

── その着眼点に磯村さんの感性を感じます。普段から台本はどのようにして読んでいますか。

ただ読むだけですね。読んでいくと、いろいろと見えてくるんです。それをどこまで汲み取るべきなのかは難しいところですけど。脚本家さんの意図や監督の意志まで汲み取るのか、自分の演じるキャラクターだけを見るのかでも全然違う。台本ひとつとっても、いろんな視野が持てると思うので。

── 磯村さんの場合はどうですか。

僕は、どう台本の中で生きていくかをまず1本軸に置いて。そこから、自分の役の周りにいる人たちがどういうふうに動いているかを把握しながら、それに対して自分はどう動くのかを考えていきます。

けど、結局は全部現場に行かないとわからないんですよね。いくら考えたって現場で全部変わっちゃうので。どちらかと言うと、現場を大事にしています。

── 現場という意味では、今回のロケはどこでやったんですか。

静岡県の沼津市と富士市、裾野市あたりですね。

── 沼津といえば磯村さんの地元ですよね。ロケ地が地元だったことで役に立ったことは何かありますか。

だいぶ助けられました。さっき話した翼がそこでしか生きてられないというのも、土地勘とか匂いまで知っている自分だからリアルに想像できたところがあるし、翼の人生が自分の小さい頃の思い出と重なってくるところもありましたし。地元に久々に戻ってきたときの、この匂いだなという懐かしさとか、そういうのが全部翼に活きていたなと思います。

藤井さんの言葉で、忘れていた大切なものを思い出した

── あとは、豊原功補さんとのシーンは緊張感がありました。

確かに緊張感はありました。けど、もちろん俳優としては大先輩ですし、尊敬していますけど、カメラの前で加藤会長と翼として向き合ったときは、おっさん何喋ってんだよっていうスタンスでいたので、怖さとか一切なかったんですよね。そこは絶対に負けちゃいけないっていう。なんとしてでも堂々としてろって、自分の中からせり上がってくる感情を押し殺しながらやっていました。

── 豊原さんの凄むような芝居とはまったく違うタイプの芝居で、その対比が良かったです。

あのシーンが僕のクランクインの日だったんです。だから、自分でもまだどういうテイストで翼を演じていいのか悩んでいる部分もあったんですけど、そこで改めて藤井さんと話をさせてもらって。翼は、結構クレバーな人間。感情的になるのではなく、いかに落ち着きながらも戦えるかというところを大事にしたいと藤井さんはおっしゃっていました。

だから僕もどれだけ加藤が大声で威圧してきても、ずっと押し殺しながら。あくまでこっちはラフに、余裕を持って戦うという感じで。おかげで僕も負けたくないという気持ちはありつつ、だいぶ肩の荷が下りた状態で芝居ができましたし、あそこで翼の方向性が固まったと思います。

── 藤井監督は一緒にやってみてどうでしたか。

すごく楽しかったです。藤井さんは、俳優から見たときに信頼できる監督なんですよ。ものすごくお芝居を見てくださいますし、絶対否定しない。俳優たちが持ってきた芝居を一度肯定した上で、こうしたらどうですかと演出してくださる。だから、演じる側としても勝負させてもらいたいと思いますし、またご一緒させていただきたくなる。今回は藤井さんのもとでいろいろ勉強させてもらいました。

── 藤井監督の言葉で特にプラスになったことはありますか。

翼を演じる上でもそうですし、自分がこれから俳優を続けていく上でプラスになったのが、「間を恐れるな」という言葉です。翼には焦りが一切ない。間を恐れないことが、そんな翼の気持ちに通じるところもありますし。

何より自分自身がお芝居をやっていく中で、間というものをどこかおざなりにしていたことに気づいたというか。たぶん昔はもっと大切にしていたと思うんですよ。そういう忘れていた大切なものを、藤井さんに教えていただきました。

別にだからと言って、変に間をとるぞというような芝居をしているわけではないんですけど。心が動くのを感じるまで待つ。台詞が自然に出てくるまで待つ。相手からしっかり受けて、相手を見てしっかり伝えるというお芝居の基本をどこかおろそかにしていた自分に気づかせてもらいました。

剛さんは空気を支配するのが上手なんです

── 綾野さんとの共演はいかがでしたか。

ものすごく楽しかったですし、いい経験になりました。今回、一緒にお芝居をさせていただいて感じたのが、剛さんは空気を支配するのが上手なんです。これは考えてやっていらっしゃるのか、自然にやっていらっしゃるのかわからないですけど、自分を見つめる目が、本番じゃないときも賢兄が翼を見る目でいてくれて。だから、翼と賢兄という関係性から離れても、僕の中で自然と剛兄みたいな感じになっていました。

── そうした関係性はいつ頃できたものなんでしょうか。

今回、クランクイン前に剛さんたちとご飯に行ったんです。それも、翼との距離感を縮めたいということで剛さんが開いてくださったもので。それがあったから、初日から変な壁もなく翼としていられたのかなという気がします。

今回は順撮りだったので、僕がインする前からもう撮影はだいぶ進んでいて。そのとき、まだインしていない僕に剛さんがよく「今こういうシーン撮ってるよ」とか「こういう世界観だよ」って写真を送ってくださったんですね。それもあって、今回、初めての藤井組だったんですけど、より現場の空気感をイメージした状態で入ることができました。

── そんな綾野さんの背中から学んだ、座長としての心得はなんですか。

剛さんの座長感はオンリーワンな気がするんですよ。自然と周りを巻き込んでいくカリスマ性があって、自分の役だけじゃなく他の役のこともちゃんと考えているし、スタッフさんにすごく気を遣う方で、本当にジェントルマン。

そういう人を巻き込む力って才能だと思うから、いくら僕が真似しようとしても同じことはできない。ただ、僕が座長になったら、少なくとも自分でいっぱいいっぱいにならないようにしたいし、スタッフさんやキャストさんのことを考えられる人ではいたい。口であれこれ言うんじゃなく、自然とみんなを同じ方向に導いていける力を身につけたいなと、剛さんを見て思いました。

── 綾野さんをはじめ、年上の先輩が多く、みなさん実力派という現場でした。もちろん磯村さんも演技派と名高いですが、自分よりも経験が豊富で、力のある俳優さんと一緒にやるのって、俳優としてはどういう感覚なんでしょうか。

面白いですね。向こうのほうが経験を積んでらっしゃる分、自分が何をしても大丈夫だろうという、変な安心感がありますし。どんなことしてくるんだろうっていうワクワク感もある。相手のお芝居によって自分がどう動くのかも決まるので、すごい人とやると純粋に面白いです。

── そういう手練れの先輩と手合わせをしていくことで、自分の経験値が積み上がっている感覚もありますか。

それはわからないです。自分ではわからないんですよ、自分が成長しているのかどうかって。

── 俳優が自分の成長を感じるのは、どんなときなんでしょうか。

どうなんですかね。僕は感じたことはないので、わからないです。成長はしないといけないし、実際昔に比べてしていると思うんですけど、どこが成長したかっていうとわからない。

── これまでの出演作を観返して成長を噛みしめることはないですか。

そもそもあまり自分の昔の作品を観たりしないんですよ。お芝居って記録とかタイムがないじゃないですか。陸上とかみたいに自分の記録を超えていくということもないので。たぶん成長ってものすごく感覚的なことだと思います。

言っても、僕はまだデビューして6年しか経っていないんで。まだまだ近すぎて、昔の自分の演技を観返してもなんとも言えない。もう10年くらいしたら、過去の自分を見て、今の自分と比べてどうかっていうのはあるかもしれないですね。

── 俳優には、賞という評価があります。賞がほしい気持ちありますか。

賞にすごくこだわりはないです。もちろんいただけたらうれしいですけど、そこに絶対満足しちゃいけない。賞は賞であって、賞が目標ではないので。磯村勇斗を知ってもらうひとつの武器にはなると思うんですけど、そこで終わりたくはないなという感じです。

── 先ほど地元の沼津の話になりました。磯村さんは地元にいた頃、この町から早く出たいと思う人でしたか。

早く出たかったです。役者になりたかったので、そのためにも早く東京に行きたいっていう気持ちが強かったです。

── 地元で東京への憧れを膨らませていた磯村さんが、今では俳優として地元で映画を撮っています。そんな今の自分について思うことはありますか。

ここまで来られた、とはまだ思えないです。だから、まだまだ俳優やっていけよっていうのと、あとはつまらないことするなよと。俳優をやっていく中で、つまらないことして進めていくようなことはするなよって言ってやりたい。

── つまらないこととは、どういうことをイメージしていますか。

なんだろう。せっかく好きなお芝居ができているんだから、もっと役へのアプローチも好奇心を持ってやっていけよとか、やるなら楽しんでやりましょうとか、そういうことですけど。

── やっぱり経験を積んでいく中で、慣れ親しんだ手技でこなしてしまう瞬間があるのでしょうか。

それはやっぱり良くないなと思うんです。そうせざるを得なくなるときももちろん出てくるんでしょうけど、たぶんそうなったときが勝負所なんだろうなと。

── じゃあ早く地元から出たいと願っていた10代の自分に言葉をかけられるならなんと伝えたいですか。

その劇団で正解だったよ、と言ってあげたいです。

── 確か17歳のときに地元の沼津の劇団に入ったんですよね。それも年配の方が中心の。

そうです。劇団のみなさんには今でもよくしてもらっていて。何かあったら連絡をいただいたり、僕の出ている作品も観てくださっているんです。息子みたいな感覚で見守ってもらえて、本当にありがたいなと。

── 同世代の俳優さんを見ても、なかなかそういうバックボーンの人っていないですよね。

確かに。子役からやっている子はいますけど、同じような子はいないかもしれない。

── 確か初舞台はチェーホフだったような。

そうです。高2の冬に。なかなかないですよね、その年齢でチェーホフをやるのって。まあ当時は半分も内容を理解できていなかったですけど(笑)。

── そうしたバックボーンが自分の強みになっているところはありますか。

大きいと思います。お芝居も丁寧に教えていただいたので、それが今の自分の演技のスタイルにつながっているなと思いますし。目上の人たちしかいない中でいろいろ教わってやってきた分、大人の方々に囲まれるのも慣れたというか。僕らの仕事はいろんな立場や世代の人と会話をしなければいけないので、そういう意味でも活きているなと思います。僕にとっての原点ですね。

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撮影/高橋那月、取材・文/横川良明、企画・構成/藤坂美樹、ヘア・メイク/佐藤友勝、スタイリング/齋藤良介、衣装協力/ニット 7,700円(ティーケータケオキクチ☎︎03・6851・4604)、その他スタイリスト私物

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