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『バクマン。』に時代が追いついた? 『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』が描く”邪道の王道”

リアルサウンド

21/3/23(火) 10:00

 『バクマン。』(集英社)は“ジャンプを事細かく描くジャンプ作品”として、大きな話題を呼んだ漫画だ。累計発行部数は1500万部を超え、アニメ化や実写映画化まで果たした。そんな「週刊少年ジャンプ」を中心に漫画界の裏側をリアルに描いた『バクマン。』だが、作中には様々な作中作が存在する。そこには『鬼滅の刃』『呪術廻戦』『チェンソーマン』など、現代の名作へと通じる“人気漫画を生む秘訣”が隠されていた。

 『バクマン。』は2人の少年がコンビを組む漫画家・亜城木夢叶が、人気漫画家を目指し奮闘する姿を描いた作品である。この漫画のポイントは、主人公たちがジャンプで人気を獲得するには1番の近道である「王道バトル漫画」を描けない点だ。

 漫画家を目指し、原作と作画を分けるコンビを組んだ真城最高と高木秋人。しかし高木が提出する原作ストーリーは1作目の「ふたつの地球」からジャンプ作品の中では邪道と言われる物語だった。その後「ジャンプで人気を獲るにはやはり王道漫画だ」と考えた2人は、編集の反対を押し切り王道漫画を描く。しかしその漫画は全くの駄作。2人に王道漫画を描く才能はなく、その代わり亜城木夢叶はジャンプらしくないエグい邪道漫画を描く才能に恵まれていたのだ。

 その後2人は数々の読切り掲載や連載を経験する。探偵漫画、ギャグ漫画、完全犯罪漫画で連載するも、ジャンプで1位、2位を争う漫画を描けない2人。そのとき高木はジャンプで1位を取るには、やはり王道漫画で無ければと考えていた。しかし物語の最後、2人はジャンプの頂点に君臨する作品の制作に成功する。亜城木夢叶の完成形とまで言われたその作品のジャンルは、“邪道な王道バトル漫画”だった。

 亜城木夢叶が人気を確信し、実際に作中ではジャンプのトップとなった“邪道な王道バトル漫画”。ただ連載当時は、“邪道な王道”というジャンルがあまりピンと来なかった読者も多いだろう。作品終盤での天才漫画家・新妻エイジが描く最強の王道バトル漫画とのデッドヒートに、置いていかれてしまった人も少なくないように感じた。しかし実際に近年ジャンプで大きく名を売った作品には、『バクマン。』で人気漫画の決定版として描かれた“邪道な王道バトル漫画”が多く見受けられるのだ。

 漫画、アニメともに大ヒットを記録し、劇場版に至っては歴史的な快挙を成し遂げた『鬼滅の刃』。日本に一大ムーブメントを巻き起こした本作も、まさしく邪道な王道と言えるだろう。主人公・竈門炭治郎は最初からヒーローを目指していた訳でも、強さを追い求めていた訳でもなく、悲しい過去を経て旅に出る。そして炭次郎のキャラクター設定も、カリスマ性の塊である従来のバトル漫画の主人公とは異なり、心優しく思慮深い性格として描かれていた。

 また2021年現在アニメの放送真っ只中の『呪術廻戦』、アニメ化が決定している『チェンソーマン』も、見事にジャンプらしくない王道バトル漫画だ。『呪術廻戦』は主人公・虎杖悠仁が特級呪物・両面宿儺の指を体内に取り入れる場面から物語が動き出す。人間から呪いとなってしまった悠仁は、今すぐ死ぬか宿儺の指を全部取り込んでから死ぬかの2択を突きつけられた。つまり『呪術廻戦』は主人公の死に向けて進んでいる作品なのだ。

 そして『チェンソーマン』に至っては、第1話の時点で主人公・デンジがバラバラにされ殺されてしまう。“両親がおらず借金を返すためヤクザに雇われてる”と生い立ちも過酷で、画も少年誌とは思えないほど過激な描写が多かった。また本作は生々しい性描写も散見され、全体的に怪しく暗い雰囲気が特徴的である。

 そしてこの3作品に共通する1番の要素は、キャラクターの心理描写に重点を置いている点だ。王道のバトル漫画は「迫力のあるバトル」「アツいストーリー」、これに尽きる。しかし上記の3作品は“敵である鬼の過去”や“呪いを祓うことへの葛藤”、“人から必要とされる人間らしい喜び”など、キャラクターの心情を丁寧に描いている。“シリアスな設定で、主人公が悪と戦う勧善懲悪”。邪道な王道バトル漫画は、まさに令和の時代にフィットした人気漫画の方程式であった。

 昭和・平成を駆け抜けたジャンプは、『ドラゴンボール』『ONE PIECE』『BLEACH』など、やはり王道バトル漫画が主流であった。しかし時代の変化とともに雑誌の雰囲気は変わり、徐々に邪道な王道バトル漫画が脚光を浴び出したのだ。難しい試みながらも、亜城木夢叶の漫画家人生の最終地点として、邪道な王道バトルというジャンルを打ち出した『バクマン』。それはリアルな漫画界を描いた作品の、リアルの漫画界へと繋がる結末だった。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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